つくろう、島の未来

2020年10月31日 土曜日

「ワーケーションは、コロナ禍からの経済回復のための重要施策」という方針を、菅官房長官(当時)が今年7月に打ち出してから、にわかに注目を浴び始めた「ワーケーション(Work+Vacation)」という言葉。

島でも、余暇を楽しみつつテレワークで仕事もこなすワーケーションに取り組む地域が出始めている。しかし、その現実はどうなのだろう。昨年から、5歳のお子さんを連れて五島列島(ごとうれっとう|長崎県)でリモートワークやテレワークの企画・運営に携わる編集者の鈴木円香さん(東京在住)が、「子連れワーケーション」のリアルについて綴ります。
(記事前編はこちら)

撮影:廣瀬健司

都会にいる時よりも、親はラクで、子どもは楽しいワーケーション

「都会にいる時よりも、親はラクで、子どもは楽しいワーケーション」

これをなんとか実現したくて、ここ1年ちょっと五島列島で試行錯誤を繰り返している。

まずやってみたのが、保育園の一時利用(1500円ほど/日)と、小学校の体験入学(無料)(※)。平日の昼間、親が仕事をしている間、地域の子どもたちと一緒に過ごしてもらう。五島の保育園は、園庭の確保もままならない都心から来ると、もう夢のように広々としていて、先生たちの精神的な余裕もなんか凄い。

小学校の体験入学も、クラス総出で温かく歓迎してくださって、「どうして五島に来てまで、学校に行かなきゃいけないの???」と初日はブーたれていた子どもたちもすぐに友達を作り、毎日明るい顔で下校してくる。感涙するママ&パパ続出で、一応成功だったと言えそうだ。

※今年度はコロナウイルスの流行状況によっては保育園の一時保育・小学校の体験入学の利用が難しくなる可能性があります

撮影:廣瀬健司

企画・運営サイドとしてまだまだ開発途上だけれど、島での子連れワーケーションは、ものすごい可能性を秘めていると思う。

その最大の鍵は、「島ならではの人間関係」にある気がしている。

島の人間関係の一番の特徴は、やはり海によって隔たれた小さなコミュニティで成り立っている点だろう。ワーケーション企画を開催している五島列島最大の島・福江島は人口約3万4000人と、島の人口としては多い方だが、それでもお互いに「顔が見える規模感」だ。

顔が見えると、化学反応が起きやすい。例えば、何か困りごとがある時、相談すると「それなら、あの人に聞けば詳しいよ」「それなら、あの人が得意だよ」「それくらいなら、やっといてあげるよ」と芋づる式に助けてもらえる。誰も「ググれ」的なことは言わない(そもそもググっても出てこないし、その「不便さ」が化学反応を加速させる)。そうやって助けてもらって「借り」が生まれ、いつかまた何か自分にもできることでしっかりと「借り」を返す。

撮影:廣瀬健司

「子連れワーケーション」でも、オンラインミーティングの間ちょっと子どもを見ていてもらったり、お互いの子どもと一緒に釣りなどに連れ出してもらったりする。そしてお礼に、広報・PRのお手伝いをしたり、必要とされている人脈をご紹介したり。地域の人との間に小さな貸し借りができ、それが積み重なる過程で仲良くなっていく。

キッズライン、タスカジ、オイシックス、アマゾンプライムのネットスーパーなどなどのサービスを駆使し、仕事と育児を綱渡り状態で毎日なんとか回している都市部のママ&パパにとっては、人と人の化学反応から始まる「貸し借り」が、なんとも新鮮で楽しいのだ。この楽しさは、お金を媒介にしていては生まれ得ない。スマホ片手にアプリで調整して、予約して、コメントするより、断然楽しい。

親子ともに地域に「友達」と呼べる人ができ、そのつながりの中でお互いに幸せなGIVEが続いていく。そういう仕組みを、これからも時間をかけて丁寧に「子連れワーケーション」の中に埋め込んでいけたら、どんなに素敵だろうと夢想している。

撮影:廣瀬健司

たとえ、「ワーケーション」という言葉が消えたとしても

来年も1月に開催される五島市主催「島ぐらしワーケーション」にも、企画・運営として携わることになっている。今回は、地域の事業者さんと連携して「子どもアウトドアスクール(5日間連続参加で6万円)」を平日は毎日開催する予定だ。これも、「都会にいる時よりも、親はラクで、子どもは楽しいワーケーション」に近づけるための一つの試みとしてやってみる。

撮影:sense of nature

ワーケーションが成功するかどうかは、最後はハードではなくソフトで決まると信じている。その土地を訪れる人と、その土地に住まう人の間でいかに「来てよかったね」「来てくれてよかったね」という感情の好循環を回し続けられるか。

ソフトを設計して、実装して、さらに改良して定着させていくには、本当に気の遠くなるような手間と時間がかかる。でも、五島に限らず人と人がお互いのことを知り、小さな貸し借りが始まり、やがて「友達」と呼べる間柄になるまでには、数ヶ月、数年を要するものだ。「ワーケーション」という言葉は、早晩すたれてしまう可能性もあるけれど、そういう人間同士のGIVEの蓄積を10年、20年と時間をかけて続けていきたい。


【筆者略歴】
鈴木円香(すずき・まどか):一般社団法人みつめる旅・理事。1983年兵庫県生まれ、東京在住。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。アラサー女性のためのニュースメディア『ウートピ』編集長、SHELLYさんがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーター。旅行で訪れた五島に魅せられ、五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、Business Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画運営。その他、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく活動中。

【写真撮影】
廣瀬健司(ひろせ・たけし):福江島在住の写真家。生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグランプリを受賞。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。

【関連サイト】
「島ぐらしワーケーション in GOTO(GWC2021)」に興味のある方はこちら

離島経済新聞 目次

島×ワーケーション

新たな働き方、暮らし方のひとつとして注目が集まるワーケーション(Work+Vacationの造語)の、離島地域での取り組みを紹介。

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