つくろう、島の未来

2021年12月06日 月曜日

つくろう、島の未来

鹿児島県大隅半島の南に浮かぶ屋久島(やくしま)。周囲約130kmの円い島の、山と川と海が接するわずかな平地に、ひしめき合って暮らしています。Uターンして、自らもコーヒーショップを営む島記者が、島ならではの小さな商いの話と季節のたよりを届けます。

#03 大きな森の小さな保育園

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■夏がやってきた

穏やかな海を生ぬるい風がなでて、匂いが変わる瞬間があります。夏がやってきたのです。

ヤクシマテリハノイバラの白、ハマヒルガオの薄桃、ハマゴウの紫、海辺の花々も賑やかに開き、甘いオオバライチゴ、瑞々しいホウロクイチゴ、ちょっと酸っぱいナワシロイチゴ、子どもたちのおやつ、キイチゴも順々に色付きます。

砂浜には、毎日のように増える海亀の足跡。緩やかなカーブを描く、キャタピラのような2本の踏み跡がそこここに伸びています。島の西、永田地区では、8月31日まで親亀の産卵や子亀の孵化の観察会も催されています。

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夜間に開催されるので、子連れで参加される際など、近くの宿を利用されるのがスマートかもしれません。島といっても、険しい山を囲むように周囲をぐるりと一周する約100kmの県道の移動には、けっこう時間がかかるので。

さて、この春、島の東、楠川(くすがわ)集落に共同保育「大きな森」が生まれました。
2010年、福岡から移住したまゆみさんが主催する、小さな小さな保育園です。

■まゆみさんの保育園

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まゆみさんと知り合ったのは、保育園の前身である自主保育サークル。子どもを預ける共同保育と違い、自主保育では親も一緒に保育に参加します。川遊びを楽しんだり、お絵かきをしたり、畑仕事に勤しんだり、ときどき息子と参加する自主保育はとても楽しい場所でした。

そこから一歩進んだ、子どもたちが主役の保育園。

どんなところかお邪魔してきました。

この日預かったのは女の子ひとり。まゆみさんのお嬢さんのふうちゃんも交えて、ふたりの保育です。1973年に廃校になった旧楠川小学校の校庭の大きな桜の木の下で、朝の会がはじまります。ごあいさつして絵本を読んで、1日のはじまり。緑のトンネルをくぐって保育園へ。途中、友人宅の庭でたわわに実るスモモを、枝から少し分けてもらいます。

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毎日、少しずつ色付いていくスモモの実、どれが甘いか酸っぱいか、子どもたちはじっくり時間をかけて選びます。

まゆみさんの態度はとにかく「待つ」。子育てをしていると、これがいかに難しいことか思い知ります。つい急かしたり、促したり、手伝ってしまったり。普段の息子への日頃の態度をしばし反省。

立ち止まったり引き返したり、子どもの話に丁寧に耳を傾け、大人は一歩下がって子どもの集中が途切れないよう、静かに見守ります。子どものペースに合わせる保育は、とにかくスロー。じっと子どもの目線に下りていくと、言葉や表情、思いがけない素敵な瞬間が舞い降りてきます。

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この日は、庭でにじみ絵。水を含ませた画用紙に黄と青の水彩絵の具で描いていきます。絵を切り上げるタイミングもさまざま、画用紙に直に絵の具をこぼしてみたり、豪快に紙の上で色を混ぜてみたり、たった2色の絵の具で無限のバリエーションが生まれていきます。

週に1度は、庭の小さなかまどでみんなで煮炊き。鶏の世話や畑しごと、近くに借りている田んぼに出かけたり、川や海に出かけることも。安房に開業した「森のようちえん アペルイ」のみんながやってきて、合同で保育することもあります。

■中世の面影を残す楠川集落

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楠川は、種子島藩の治下にあった16世紀に、出城が築城されていた歴史ある集落。江戸時代から地域に伝わる「楠川古文書」は、町指定文化財にもなっています。県道から一歩入ると、古い石垣に海を見下ろすえびすさま。魚釣りもできる漁港に海辺の天満宮。遠浅の砂浜に小高い城跡。集落の外れには、地元民憩いの天然温泉も湧出し、温泉傍を流れる小川には蛍も現れるといいます。

まゆみさん一家が、移住したのは2010年。
独身の頃から何度も訪れていた屋久島で、売りに出ていた古い家をみつけたのがきっかけでした。ふうちゃん1歳、家の中にテントを張って雨風をしのぐ、サバイバル生活のはじまりです。翌年には、自然育児を楽しむサークル「大きな森」を立ち上げました。

親子で味噌作りやベビーマッサージ教室を企画していく中で、さらに子どもの日常に寄り添った活動に興味が沸き、鹿児島のフリースクールでの研修や神戸の森のようちえん指導者養成講座を経て、開園に至りました。

息子が3歳の頃、そろそろ大丈夫かなぁと、白谷雲水峡に連れて行ったところ、コース半ばで転倒。里とは違う山の雰囲気に気圧されたのか、まったく歩かなくなってしまい、難儀したことがあります。

託児は島外在住の方も利用可能とのこと。子連れの山歩きに不安のある旅行者は、しばし子どもと離れ、大人だけで山を味わうのもいいかもしれません。

■ちよママの託児所

フェリーや高速艇が発着する海の玄関口、宮之浦に昨年オープンしたのは、島出身のベテランママが営む託児所「マンマハウス」。小学校教諭、幼稚園教諭、保育士、ベビーマッサージ講師の免許を持つちよママがオーナーのアットホームな施設。こちらも旅行者に対応。

周囲には宿泊施設や観光業者も多く、県道白谷雲水峡宮之浦線からすぐの立地は、トレッキングにもダイビングにも便利です。野外での活動を多く取り入れているので、島ならではの遊びも体験することが可能。子連れ屋久島旅の選択肢を拡げる、うれしいサービスがじわじわ増えています。

つづく

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