つくろう、島の未来

2024年11月24日 日曜日

つくろう、島の未来

鹿児島県大隅半島の南に浮かぶ屋久島(やくしま)へUターンして、コーヒーショップを営む島記者 高田みかこが、島ならではの小さな商いの話と季節のたよりをお届けする連載コラム。今回は島に続々とオープンしたヨガスタジオのご紹介と、おいしい空気の味わい方。

#13 おいしい空気を最大限に味わう方法

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飛行機のタラップを降り、甘く濃い島の空気に包まれます。

ゆっくりと近づく島影を瞳に焼き付ける船旅も島の醍醐味なら、瞬間移動のように島の空気の中に身を投げ出す空の旅もまた深い喜びをもたらせてくれます。

屋久島の名物と尋ねられて、笑い話みたいに「水道水!」なんて返すこともしばしば。この甘く濃い空気もまた、緑豊かな雨の島ならでは。水と違ってお土産にするのは、むずかしいけれど、この空気を満喫するにはヨガ。一に呼吸、二に呼吸、呼吸を通じて心身の健康を深めるヨガが一番ふさわしいのでは、と思うヨガビギナー。

昨年あたりから、島にヨガスタジオが続々オープン。車生活でなまった重い腰を上げて、この春からヨガをはじめてみました。

夜明けのビーチで手足をのばして、清々しい一日のはじまり

島の南東、安房にスタジオを構えるさーや先生こと秋山清香先生は、ビーチやレストラン、島じゅうのさまざまな場所にも出向いて、教室を開いています。

先日、島の西、永田で催された真夏のビーチヨガのスタートは、5時半!

孵化した子亀たちの足跡が無数に残る、夜明けの砂浜は清々しく、夜気を含んだ潮風が心地よく肌を包み、水平線には、口永良部島(くちのえらぶじま)に硫黄島(いおうじま)、竹島(たけしま)、黒島(くろしま)の島影がくっきり浮かびあがります。

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開始から1時間ほどで山から朝日が顔を出すと、雲の中に彩雲の虹色の光が現われて、しばしみんなで撮影タイム。じっくりからだをほぐし、ジャバアーサナなる休憩ポーズで波の音に包まれながらリラックスしたあとに、屋久島産の野ぶどう茶とドライフルーツをいただきました。

夏休みまっただ中のお母さんも、ダイビングインストラクターも、海辺の宿にステイ中の旅行者もともにしばしの時を過ごして解散。なんと有意義な朝の過ごし方でしょう。

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さーや先生がはじめて来島したのは、2014年の春。

宿泊した民宿が、夏期の住み込みアルバイトを募集していることを知り、勤めていたヨガスタジオに休暇を願い出て、その夏は島にいたといいます。民宿の客向けに近くの海岸でヨガをはじめたことを機に、アウトドアヨガの魅力に開眼。あらためて環境を整えてから、翌年の春に本格的に移住となりました。

島暮らしは「新しい自分を発見する」日々。はじめての自営業にとまどいながら、試行錯誤を重ねるのは、スリリングながら、喜びに満ちています。

河畔にたたずむ古民家に設けられたスタジオも素敵ですが、原点であるアウトドアヨガを深めるべく、山や川、新しいスポット探しは続きます。

ひと汗かいたあとに、島の食材をたっぷり使ったスムージー

島の南西、平内地区にオープンしたアナンダチレッジは、4メートルという高い天井と窓いっぱいに広がる水平線が魅力のスタジオ。開け放たれた窓からは、心地よい潮風が吹き、オーナーの国本ミキ先生自ら、無垢材にミツロウを刷り込んだという床が、さらさらと足裏に触れます。ヨガ後のスムージーは、地元野菜やフルーツたっぷり。インスタグラムに毎日アップされる「今日のスムージー」に季節の移り変わりを感じます。

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いくつかの島を候補に、移住を検討していた国本家。古い友人であるしずくギャラリーの中村夫妻を通じ、同世代の移住者たちと触れ合う中で、自然に屋久島に決めたといいます。2年ほど賃貸物件で暮らしたのちに、自宅兼スタジオを新築。夫は東京に勤めながらの通い婚生活も、友人たちに恵まれて「虫が多いこと以外、苦労はない」と涼しい顔。海中温泉や野菜の直売所、カフェにレストランにギャラリーと、移住者に人気のエリアで島暮らしを満喫しています。

義父の魚と義母の野菜

島の東、小瀬田のクラヨガは、小川のせせらぎが、耳に心地よい森の中の一軒家。

サトコ先生は、屋久島育ちの旦那さまとともに、この春、やってきました。出会った当初から「いずれは、島に帰ってお店をやりたい」と語っていたので、心づもりは十分。

開業資金を貯めてから、という計画もあったのですが、「東京暮らしも満喫したし、いつかいくなら、今、行こう!」と、サトコ先生が背中を押す形で、引っ越し。

甥や姪たちと泳ぐ川の透明度、義父の釣りあげる魚と義母の畑の採れたて野菜、ヨガの生徒たちからの島情報。「素直に満足」という暮らしは始まったばかり。沢の歩き方や魚のさばき方、島に暮らす者の小さなコツを1つひとつ身に付けている途中なのです。

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今年も海辺ではハマユウやハマゴウの花が咲き、花の香りはますます濃く、湿度は増して、ひと呼吸ごとに森を吸込むような、屋久島ならではの季節の盛り。

     

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