つくろう、島の未来

2024年11月24日 日曜日

つくろう、島の未来

鹿児島県大隅半島の南に浮かぶ屋久島(やくしま)。周囲約130kmの円い島の、山と川と海が接するわずかな平地に、ひしめき合って暮らしています。Uターンして、自らもコーヒーショップを営む島記者が、島ならではの小さな商いの話と季節のたよりを届けます。

#02 しまのがっこう事情

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■花の見ごろは3ヵ月

白谷雲水峡の太鼓岩から望む森が、花霞で煙る季節になりました。
「桜の季節もいいですよ」というと、意外に思われる方も多いようですが、
苔の森に、白い花びらが舞い降りて、桃源郷もかくやの美しさです。
1月下旬から寒緋桜が咲きはじめ、川沿いの染井吉野、里山の山桜、南から北、
里から山へと桜前線が移動する屋久島。3ヵ月くらいはどこかで花見が楽しめます。

私が好きな桜は、3月半ば、志戸子(しとこ)集落から望む山桜。
山が桃色に染まるように花開きます。山そのものが生き物のように、花開く前にぐっと紅くなって、はじけるように次々に咲かせるのです。山桜を伐らないといわれる志戸子の先人たちの知慮の賜物。息子を島の東、宮之浦の保育園に送る片道20分、山から吹き下りた花びらの中をドライブするのも今年で最後となりました。

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コーヒーショップのバックヤードでゴロゴロしていた赤ちゃんもついに小学生。今年の一湊小学校の新一年生は3人。複式学級でのスタートです。私のころが30人ちょっと、父の時代が150人くらいという激減ぶりで、周囲をおののかせています。

人口約1万3,500人の屋久島に小学校は8校あります。一湊小学校区である、吉田、一湊、志戸子集落は、移住者も宿泊施設も飲食店も少なく、のんびりとしたローカル色の強いエリアです。一方、交通の便がいい宮之浦や安房、温暖で平地の多い島の南の小学校では移住者も多く、これほど減少してはいないとききます。

そんな中、島の西側にある永田・八幡・栗生の3つの小学校では留学制度を設け、島外の子どもたちが里親の元から通学しながら、島暮らしを謳歌しています。

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中学校は統廃合が進み3校。一湊中学校が平成25年に閉校になったことも、人口流出に影響しているのかもしれません。一湊中学校の跡地利用については、屋久島町のホームページにて6月30日まで、提案や事業者を公募中です。

 

高校は公立の屋久島高校が1校、私立の通信制の屋久島おおぞら高校が1校あります。屋久島高校では、来年から島に住民票のない生徒を積極的に受け入れていくとのこと。

気になる島の産婦人科事情はというと、屋久島にも産婦人科はありますが、諸事情で、息子は鹿児島市内の助産院で生まれました。とびきりごはんのおいしい助産院です。出産予定日が迫ると長距離移動に様々な制約が生まれるので、島外での出産を希望する妊婦は、予定日1ヵ月ほど前に島を出ます。幸い鹿児島市内は、産婦人科が多く、離島からお産にくる妊婦に経済的負担が少ないよう、各種滞在サービスも充実しています。

■先輩母さん、ヒジョンさんのこと

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この助産院で紹介されたのが、半年前にお産した屋久島在住の先輩母さんヒジョンさんでした。韓国の釜山出身のヒジョンさんは、日本で栄養師の資格を取得するほど、日本語堪能。得意の料理を生かし、夫婦で韓国家庭料理店&民宿「プコチュ」を営んでいます。

 

桜と同じく、屋久島で韓国料理というと、意外に思われるかもしれませんが、これがいいんです。屋久島産の野菜をふんだんに使った料理は毎日でも食べたい優しい味付け。

島の春の味覚ツワブキと韓国の「オデン(!)」なる薄いさつま揚げを炊いた1品など、初めて出会う料理が新鮮です。子連れ旅の友人にも真っ先にすすめる店で、子ども椅子やカトラリーも揃い、お子様ランチもあるのです。

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「山に雲がかかっている景色が好きなんです。今でも、そんな景色に出会うと『あぁ、これが好きでここに住んでいるんだな』って」根っからの雨好きで、屋久島では「月に35日雨が降る」と聞いて心の中で歓声をあげたと言います。

 

海辺の大都会釜山で育ったヒジョンさん。修学旅行で訪れた雪岳山国立公園の美しさに驚き、山への憧れを抱いたそう。千葉で暮らしていたころ、写真集で知った屋久島に興味を持ち、短大の卒業旅行で初めて来島。宮之浦川のベンチに腰掛け、霧の向こうの森を眺めながら「ここに住みたい」と思ったそうです。

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2004年 パートナーが先に移住、2年後にヒジョンさんも合流。お子さんを授かり、2010年 空港近くに土地を求め、自宅 兼 飲食店 兼 民宿をオープンさせました。保育園に預けていたって、いっぱいいっぱいの私ですが、子育てしながら新築開業まで成し遂げたヒジョンさん。食べることが大好きで、思い出の食べ物や研究中のメニューについて、いつも楽しそうに語ってくれます。

実は、観光客が増える週末、食堂プコチュはお休み。民宿に予約が集中する週末は食堂を休み、宿に専念。試行錯誤を重ねながら、自分たちのペースで島暮らしをおくっています。

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庭にはかわいいツリーハウス、近くの森で虫探し、週に一度は磯遊び……。生き物好きのヒジョンさんのお子さんから、同い年の我が子も大いに刺激を受けています。

4月からふたりは新1年生。
新しい季節のはじまりです。

つづく

     

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