鹿児島県大隅半島の南に浮かぶ屋久島(やくしま)へUターンして、コーヒーショップを営む島記者 高田みかこが、島ならではの小さな商いの話と季節のたよりをお届けする連載コラム。第2シーズンスタート!
#11 イベントが続々控える島の秋
サキシマフヨウがいたるところで薄紅色の大きな花を開き、エビズルやアマクサギが紫の実をつけ、華やかな島の秋がはじまりました。一年中緑なす島にあって、里山の花や木の実は、季節を知る貴重なよすがです。
茅の香りに包まれた十五夜の綱引き
中秋の名月に綱引きをしない地域があると知ったのは、成人してから。
それまでは、日本全国津々浦々で、十五夜に大綱引きをやっていると思っていたのでした。十五夜の綱引きは、南九州や沖縄に伝わる神事で、屋久島でも、各集落で月の出に合わせ、綱引きが行われます。口説き節にあわせて綱を引いたり、綱引き後に相撲をとったり、綱の素材も茅や藁、運動会用のロープを使うところもあり、その内容は集落によってまちまち。
一湊では、綱引きの季節になると、各戸が供出した茅と芯になる葛(かずら)が通りに積みあげられていきます。太いガジュマルの枝を櫓(やぐら)代わりに、集落総出で、こどもの胴ほどの太い綱になっていくのです。
当日は、「おつや口説き」の哀切な節回しに合わせ、東西に分かれて綱を引き、勝敗でその年の豊作や豊漁を占い、綱に触れることで、その年の無病息災を願います。
旅人も参加可能ですが、かなりハードな運動なので、スニーカーと軍手必須。翌朝の軽い筋肉痛のおまけ付きです。
お盆や七夕など、新暦に執り行われる行事が多くなったなかで、数少ない旧暦に則った催しは、起源が分からないほど、古くから伝わると聞きます。雨が降ったら、延期ではなく中止。チャンスは年に一回だけ、そんなストイックさもこの行事の魅力です。
太い綱が示すのは、生と死をつかさどる蛇、雨をつかさどる龍でしょうか。地面に何度も綱を落とすさまは、他の地域で盛んな、「亥の子突き」や「もぐら打ち」を忍ばせます。茅の甘く埃っぽい香りを嗅ぐたびに、時を超え、海を越え、連なる人の営みに思い至らされます。
■大人も熱くなる、運動会で親睦を深めて
綱引きと並んで、秋を盛り上げているのが、9月から11月にかけて毎週のように続く運動会。
集落対抗の町民体育大会では、大の大人が涙を流して悔しがり、集落別に催される運動会では、負傷者が続出するほど熱狂します。
一湊だったら大漁旗リレーなど、各集落、特色のあるプログラムが組まれ、順位だけでなく、笑いをとってなんぼの世界が繰り広げられるのです。島に移住してきた方々が、地元に溶け込む貴重な機会。深夜まで続く打ち上げに参加すれば、地元での認知度が急上昇すること請け合いです。
旅人が覗いても楽しい世界。自分の泊まっている民宿の主とともに運動会に参加した、なんて話もよく聞きます。知り合いを増やして、「ただいま~」と再訪する。そんな旅を楽しむ人が、この島にはたくさんいます。
■自然派ワインと音楽のハロウィンパーティー
忙しい秋の行事の合間には、友人たちと共催しているハロウィンパーティーも予定しています。
宮之浦の「KITCHEN&CAFE ヒトメクリ.」を会場に、音楽と自然派ワインを楽しむ夕べをはじめ、この秋で1年。ハイシーズンこそ休んだものの、ほぼ隔月で開催中。広い店内を、DJブースと飲食ブースに分け、毎回、島の飲食店をゲストに招いて、ワインに合う料理やスイーツを提供してもらっています。
ワインをボトルで通販することはできますが、グラスで試飲することはできない島暮らし、せっかくなので、まとめて買ってみんなで飲もうとはじまったイベント。当初の食事会形式が、どんどん大きくなって、誰でもウェルカムのパーティーになりました。
先出の「そらうみ」のジェラートや、「サンガンバーガー」のおでん、「きらんくや」のそば寿司、「ヤクニク屋」のヤクシカの煮込みなどなど、毎回様々なゲストショップを迎えます。
今回は、「そらうみ」のほか、今年オープンしたカフェ「kiina」と「吉田ドーナツ」。島外からきた友人たちの観光案内でもないかぎり、周囲130kmの島を一周する機会はまれ。生活圏が違うと、気になっていても行けない店もたくさんあって、「話には聞いていて、行ってみたかった」「食べてみたかった」なんて声も耳にします。
早寝早起きの島暮らしで、たまの夜更かしパーティーは、都会のそれよりも刺激的。赤ちゃんからミドルエイジまで、ゲストの年齢もさまざまです。
人口1万3,500人の島では、「顔は知ってるけど……」とか「あいさつはするけど、じっくり話すのははじめて」いう方もたくさん。たくさん食べて飲んでしゃべって、島の夜は更けていきます。
会場となる「ヒトメクリ.」は、『季刊ritokei(リトケイ)』の公式設置ポイント。島発のマガジン『屋久島ヒトメクリ.』編集部が営むレストランで、ときどきリトケイ本紙にも登場しています。
島の雑木で燻すベーコンやソーセージ、ヤクシカジャーキーの製造販売という新規事業の立ち上げのため、昨夏、発行された14号からしばらくお休み中ですが、来春刊行目標に、ただいま製作中とのこと。
1年半のあれやこれやがたくさん詰まった1冊になること請け合いです。
その他、11/5(金)~9(月)には、島外から研究者を迎えたテーマセッションや映画上映が催される「屋久島学ソサエティ第3回大会」、11/7(土)には、安房川沿いを1万4,000の灯篭が彩る「屋久島夢祭り」が予定されています。
観光シーズンいち段落の今こそ、ディープな島旅を楽しめるかもしれません。
(つづく)