伊豆諸島北部に位置する伊豆諸島最大の島、伊豆大島(いずおおしま|東京都)。移住から5年経つ今も、島の魅力発掘の冒険にいそがしいデザインユニット「トウオンデザイン」。彼らが運営しているコミュニティースペース『kichi』での活動や日々の出来事をつれづれに。
小さな木工作品に込める被災地から伝える想い
宮城県牡鹿郡女川町、日本有数の漁港である女川漁港を抱える“漁業のまち”です。
しかし、2011年3月11日に突如として発生した東日本大震災によって町は大きな被害を受けます。地震が引き起こした津波の被害は甚大で、沿岸部は壊滅的被害を受け、町内の7割の建物が流されてしまいました。
震災発生から1ヵ月後、地域活性化の為の企画立案や商品開発、店舗開発のコンサルティング等、さまざまな仕掛けづくりを行っていた(株)Y.M.Oの代表取締役である湯浅さんは家具職人とともに女川町を訪れます。
そこで目の当たりにした光景は想像を絶するものでした。
そのあまりの惨状に愕然とした湯浅さんは被災地で途方に暮れている人たちに何か目的を持ってもらえるようなことができないだろうか、何か仕事をつくることができないだろうかと考えはじめます。やがて、一緒に女川町を訪れた家具職人が木工品の製造スキルを持っていたことから、木工製品の開発を思いつきます。
「壊滅状態となっていた女川町に再びたくさんの魚が戻ってきて欲しい」
そんな願いから、魚の形をしたキーホルダーを考案。ストラップには魚のモチーフと“.onagawa(ドットオナガワ)”という文字を刻印。「お魚がどっととれる女川に戻りますように」という想いを込めました。
そして誕生した「onagawa fish」。
被災した地元の主婦たちが中心となり丁寧につくりあげられた作品は瞬く間に話題となり、多くの方々の手に渡っていきました。
そして時は経過し、2013年10月16日。
伊豆大島で台風26号の影響による局地的豪雨により、“山津波”と呼ばれる大規模な土砂災害が発生。島の中心地である元町地区を中心に島に大きな被害をもたらしました。
その状況をニュースで知った湯浅さんは女川町での復興支援活動の経験から、何か伊豆大島のために協力できることはないだろうかとお話を持ち掛けてきてくれました。その際に双方の橋渡しを担って頂いたのが中小企業診断士の川口さん、東北の被災地支援や伊豆大島でも何度か経営支援を行っていたご縁からお話は急ピッチに進みます。
そして新たなお魚「oshima fish」が誕生します。
「oshima fish」はonagawa fishをベースにストラップ部分には“oshima”のロゴを刻印し、仕上げに伊豆大島産の椿オイルを塗っています。また「oshima fish」を包装するパッケージの台紙デザインも新たに起こし、台紙の裏側にはこの作品を世に出す目的や想いを記載しました。
「3.11の震災を機に、宮城県女川町で生まれた『onagawa fish』。作品には「手元に置くことで、防災意識を持ってもらえたら」という想いが込められています。“自分も災害に見舞われるかもしれない”という意識を心の片隅に持ち続けていて欲しい。そして、『onagawa fish』は海を渡り『oshima fish』へ女川町と大島町より“未来の災害における悲劇を減らしたい”という共通の想いを込めてつくる、手づくりの木工作品です」
一品一品すべて手作業でつくられる、クオリティの高い木工作品。
いつまでも手元に置いておきたくなる一品が生まれました。
使用する木の種類は「椿(伊豆大島産)」「桜」「胡桃」の3種類。
中でも、椿は緻密で硬い木材の為、すべすべ感が最高です。
仕上げに塗る椿オイルとの相性も抜群です。
椿の木は伊豆大島の元町で伊豆大島の文化を伝える資料館や一刀彫体験等を営む藤井工房主宰の藤井さんよりご提供いただいたもの。乾燥に2年以上を費やしているからこその“つるすべ感”これは是非、体感して欲しいと思います。
そして、何よりも『災害の記憶を風化させてはならない』。
『防災意識を持ち続けていて欲しい』という想いを込めて届ける大切な一品になりました。