「本を書いてみなよ。」ザアーザアーと雨が降る11月末の夜、建築関係者の友人からそう言われました。
僕が生まれ育った直島(なおしま|香川県)は「アートの島」「建築の島」として知られています。僕も大学と大学院で建築を学んだあと、建築系出版社で雑誌編集の仕事につきました。2014年からは生活を故郷に移し、今も建築メディアの活動を続けています。
僕が建築や編集の世界に進んだのは、やはり直島の影響を色濃く受けたからでしょう。直島では、アート施設だけでなく幼・小・中学校など多くの公共施設までをも有名建築家が設計しています。さらに“離島”ד現代アート・現代建築”という、お互い一見遠い存在であるものを組み合わせることで、他にはない風景が醸成されています。建築や編集的な土壌が豊かな土地なのです。
この土壌を未来に向けて活かしていきたいと僕は考えています。そのためには、島の人や観光客と建築が太い糸でつながることが大切です。愛があれば、どんなつながり方でもいいでしょう。“島の老若男女”が“建築について異常なほどよく知っている”なんて、武者振るいするほど魅力的な状況であり、組み合わせではないでしょうか。
もしかすると、島の人がアートだけでなく建築を事細かに説明しながら、島の外からのお客さんを案内する日がくるかもしれません。だから、僕は直島の建築についての本を書こうと思います。小さな島でそんな大きな想像をしながら。(2022年2月発行『季刊ritokei』37号掲載)
岡本雄大(おかもと・ゆうだい)
1988年直島生まれ。大学院中退後、新建築社、エー・アンド・ユーの編集部に勤務。2014年より地元の直島に拠点を移し、三菱マテリアルに従事するかたわら、建築や文化、風土に関心を寄せ、編集や写真の活動を続けている。