つくろう、島の未来

2024年12月03日 火曜日

つくろう、島の未来

陽が傾き、色が変わりはじめた海をぼうっと眺めて座っていると、勢いよく軽トラックが視線を遮り、急停止。少し後進して目の前に停まった。ガチャリとドアが開き、笑顔の男が蟹股で近づいてくる。顔なじみの島の漁師だ。

初めて船に乗せてもらったとき、獲ったばかりのアワビから肝だけを口で引きちぎって頬張り、残りを投げてよこしてくれたことが印象に残っている。脇にドスンと腰を下ろすと海の具合を語り始めた。冗談を言い合って幾度か笑うと、また車に乗り込みエンジンをふかして走り去っていった。


8年前に地域を現場で勉強しようと思い立ち飛島に来たときには、島民の話す言葉がさっぱり聞き取れなかった。山口の実家も田んぼと山ばかりの田舎で方言はあったが、島の言葉は私にとって外国語だった。ただ頷いてリスニングをすること半年くらいでようやく会話になってきた。

私は「合同会社とびしま」という会社に所属している。当時は皆無だった若者の雇用をつくり島に暮らせる状況をつくろうと、UIターン4名で2013年に設立した。現在は20~30代の十数名で運営しており、旅館や飲食店の運営、旅行企画など観光に関する事業の他、水道施設の管理や除草、除雪作業など島の生活に関する事業も行う。

飛島のコミュニティは新しくなろうとしている。この濃厚な島の体験を、次に来る人たちに提供できるようなしまびとに、私はなれるだろうか。(2019年8月発行『季刊ritokei』29号掲載)


松本友哉(まつもと・ともや)
山形県唯一の島・飛島在住。1988年山口県生まれ。合同会社とびしま共同代表。大学卒業後に飛島に移住し、島のUIターンの若者と合同会社とびしまを設立。主に企画・デザインを担当。飛島を舞台に新しい自治体のかたちを模索している

     

離島経済新聞 目次

島人コラム

島々で暮らす人々による寄稿コラム。離島経済新聞社が発行するタブロイド紙『季刊ritokei』の定番企画「島人コラム」に掲載された中から、抜粋してお届けします。

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