つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は図書館を「情報環境」と位置づけ、国内の情報環境について取材・掲載する専門誌『LRG(ライブラリー・リソース・ガイド)』を発行する、アカデミック・リソース・ガイドの岡本真さんにお話を伺いました。
※この記事は『季刊ritokei』19号(2016年11月発行号)掲載記事になります。

文・鯨本あつこ 写真・大久保昌宏

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図書館は「情報環境」。島々の情報環境を追いかける

昨年、発行された『LRG』10号の特集は「離島の情報環境」。誌面には、公共図書館、学校図書館、公民館図書館や書店など、全国315島にある「本が集まる場所」の情報が並び、丁寧に綴られた取材記事からは、島の空気を感じ取ることもできる。

例えば、県内に39の有人島がある沖縄で島々に本を運び1日限りの図書館サービスを行う沖縄県立図書館の話に、クラウドファンディングで資金調達を行い、蔵書を増やした海士町中央図書館の話。さらに、本を入れた7つの木箱を7つの有人島に順々に運ぶトカラ列島の移動図書館や、「オンバ」と呼ばれる手押し車に本を並べる男木島(おぎじま|香川県)の小さな移動図書館の話など。島の人がどこでどのように「本」にふれることができるのか、島々の実情が風景となって見えてくる。

アカデミック・リソース・ガイド(ARG)は、図書館などの文化施設をつくるコンサルティング業務を主軸に『LRG』を発行する会社だ。図書館という、リアルかつアナログな場にこだわる同社だが、代表の岡本さんはネットを熟知する人でもある。

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岡本さんは大学卒業後、学術雑誌の編集者を経てYahoo! JAPANに入社。サービスプロデューサーとして、ユーザーらが知識や知恵を教えあう「Yahoo!知恵袋」の開発を担当した。「『Yahoo!カテゴリ』の分類を担当していたときに平成の大合併があり、3,000から1,700に再編された町や村の情報をひたすら追いかけているうちに、自治体にも詳しくなりました」(岡本さん)。

日本を代表するIT企業で、数千万人が訪れるサイトを運営していた岡本さんは、同じく人の波が押し寄せ続ける六本木の職場に通う日々のなか、「実際に人が訪れる場所づくり」に興味を持ちはじめ、Yahoo! JAPANを辞めてARGを設立した。

ネットを熟知しながらも、リアルな情報環境にこだわる理由

日本中の「リアルな情報環境」を追かけ始めた岡本さんはある時、島に出会う。「もともと旅好きで島にも足を運んでいましたが、友人がつくった離島の本を読むうちに、離島については考えることが多いと感じました」。それから、出張先の近くに島があれば、できるだけ足を延ばすようになった。

「離島は日本の縮図である可能性が高くて、防衛上の大事な拠点でもある。そこで、そんな島にどうすれば若い人が根付くのか?と考えたとき、重視されるのは子育てができる環境ではないかと思ったんです」。そこで島の情報環境について調べを進めると、かつて広島の島々で運行していた移動図書船の存在などを知り、さらに興味が深まった。

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全国各地には、図書館がない、あるいは施設はあっても住民に不十分と感じられている地域がある。岡本さんは「図書館は島と都市の公平感を生むもの」と言いながら「人が育つ環境には格差があり、子どもは親や場所を選べない。けれど、そんな世の中の不公平感は極力なくしたい」と、図書館にこだわる理由をのぞかせた。

しかし、今はインターネットがある時代。疑問や悩みを「ネットで検索」すると、それこそ「Yahoo!知恵袋」から答えが見つかることもある。「確かに、ネットがあれば8割がたの問題は解決できる。しかし、情報を組み合わせて思考することは、まだまだネットだけでは答えられません」(岡本さん)。昨今期待が高まるAI(人工知能)についても「まだまだ」な点が多いため、ネットの有用性を認めながらも、「人間の優秀さ」の方に信頼を置いている。

「情報がある」ということは、「参照軸」を持てるということ

 

「情報を組み合わせる思考」の例として、岡本さんは図書館がまちづくりの一翼を担った北海道の置戸町立図書館を挙げた。80年代、置戸町では地元住民らが木材を生かした新規ビジネスを検討し、図書館が木工に関する資料を収集。図書館で勉強会が開かれ、木工芸品を製造する「オケクラフト」が誕生。小さな町の経済を支える産業に育った。「情報はただ得るだけでは意味がない。その土地にあるものを活かし、どう未来をつくるかが大事」(岡本さん)。

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男木島図書館外観

それまで図書館が存在しなかった地域からは、「今さらいらない」という声が聞こえることもある。しかし岡本さん曰く「『おれは本を読まない』という人も、実際は農業関連の本を農協で購入して読んでいることがあります」とのこと。

生活や仕事に直接役立つ情報は、島の未来を考えるヒントにもなる。「素材において、島は負けない」と言う岡本さんは「情報や知識を駆使すれば島でも負けない。知識をもっと武器にしてほしい」と結んだ。


【関連サイト】
アカデミック・リソース・ガイド株式会社

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

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