「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は「人には1年に1度、必ず訪れたくなる島がある」をキャッチフレーズに、「島旅」を専門に扱う旅行会社を立ち上げた旅の輪九州株式会社の代表・戸田慎一さんにお話を伺いました。
※この記事は『ritokei』20号(2017年2月発行号)掲載記事になります。
文・鯨本あつこ 写真・旅の輪九州
19,800円の壱岐ツアーで述べ6万人が島旅へ
2月1日、ヤフオクドームに近い福岡市内の商店街に、島旅専門のトラベルカフェがオープンした。運営する旅の輪九州株式会社は、昨年12月に設立されたばかりの新会社だ。
九州男児といえば豪快な熱血漢を思い浮かべるものだが、旅の輪九州の戸田慎一さんの人柄は、まさにその人。「大学の頃、島に出会った衝撃で人生が変わったんです」と語りはじめた戸田さんは、島への想いに目を輝かせる。
今から25年前、戸田さんが魅せられた島は、長崎県の壱岐(いき)だった。福岡港から高速船で約1時間の壱岐は、エメラルドブルーの海や、海の幸・山の幸に恵まれる島。島に渡った戸田さんは、民宿で出会った愛情たっぷりの女将のおもてなしに驚き、鮮度抜群のグルメに、美しい海に、星空に、感動を覚えた。「島旅の素晴らしさを世の中に広めなければいけない! と一瞬で思ったんです」。
福岡県の田舎町で育った戸田さんの家庭環境は、決けして温かいとはいえなかった。そんな環境をバネに小学生時代から経営者になることを志ざし、大学時代にバスツアーの添乗員を経験したことをきっかけに、バイト先の上司と共に、20代で旅行会社を立ち上げた。
会社を立ち上げた戸田さんは、早速、島への想いを形にする。「学生向けに19,800円の壱岐ツアーを発売したんです。最初は年間16人だったのが、今では年間3,000人。24年間売れ続けているベストセラー商品になっています」。福岡発着、1泊2日19,800円とならば格安だが、この代金には、フェリー代、宿代、レンタカー代のほか、夕食の舟盛りや壱岐牛のバーベキューまで付くという。
「19,800円っていい響きですよね」と戸田さん。曰く、学生が島旅に出やすい金額は、現地でのお小遣いをいれて25,000円なので、19,800円にこだわっているという。実際、このツアーをきっかけに、述べ6万人の若者が、かつての戸田さんのように島の魅力に触れているわけだ。その後、戸田さんがつくる島旅は、対馬、五島列島、甑島列島へと守備範囲を広げて行った。
島の悩みに触れるなか「人と人をつなぐ」ことを決意
島外の旅行会社が旅行商品をつくる際に重要なのは、現地との“関係性”である。戸田さんは、たった1時間の打ち合わせでも直接島へ足を運び、宿、飲食店、観光協会から自治体関係者まで、信頼関係を構築してきた。
「島には素晴らしい素材があるんです。でも、その良さに島の人が気づいていないことが多い」。島との関係が深まるなか、戸田さんは島側が抱える課題にも触れはじめた。「地域には活躍している人がいて、パワーがある。でも、頑張っているのに叩かれてしまう人や、個人だと戦えない人がいて、それぞれが悩んでいたんです」。
人には1年に1度必ず訪れたくなる島がある
そこで戸田さんは、各島に「点」で存在しているキーマンをつなぎ、島旅を盛り上げていこうと、のちに社名となる「旅の輪・九州」というプロジェクトを立ち上げ、ライブストリーミング配信による旅の紹介や、写真コンテストなどを通して、人と人をつなぎはじめた。
それから5年、旅の輪九州は法人化し、より多くの人が島旅に出会えるよう、誰でも気軽に旅の相談ができるトラベルカフェが開業した。
現在、旅の輪九州に在籍するスタッフには、島に暮らす現地人材も含まれる。鹿児島の上甑島(かみこしきじま|薩摩川内市)で現地スタッフを務める斎藤純子さんは、地元の観光業を盛り上げるべく、6年前に戸田さんを訪ねた。当時を思い出しながら戸田さんが笑う。「『弟子入りさせてください!』って言ってきたので、『弟子はとっとらん!』って、最初は断ったんですが(笑)」。
その後、斎藤さんは年間1,000人の観光客を受け入れるまでに成長。 現地の仕事を、旅のプロとして、ひとりの経営者として、影で支える戸田さんは、島側にとって頼れるアニキのような存在にもみえる。「人には1年に1度、必ず訪れたくなる島があると思うんです。いまの日本にとって、島で過ごす時間は大事。僕自身、育った環境が悪かったので卑屈になるタイプですが、定期的に島でリフレッシュしながら、よし、頑張ろう!と思っています」。
旅の輪九州は九州が起点だが、戸田さんが描く未来には「旅の輪日本」が広がっている。「大手旅行社の場合、年間1,000人が動かなければ旅行商品にできないです。でも、うちでは1人からでも島旅をつくりたい」。その情熱から生まれる新たな島旅が、1年に1度、必ず島を訪れるファンを増やしていく。
【関連サイト】
旅の輪九州
旅の輪九州株式会社 トラベルカフェ
福岡県福岡市早良区西新7-1-57
10:00〜18:00(土日祝休み)
離島経済新聞 目次
『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人
「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。
- 島々仕事人 #042 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 森谷哲さん、末岡真理子さん
- 島々仕事人 #041 テクノラボ 林光邦さん・田所沙弓さん
- 島々仕事人 #040 シャボン玉石けん株式会社 松永康志さん
- 島々仕事人 #039 株式会社てしま企画 林亮平さん・林紗里さん
- 島々仕事人 #038 天草エアライン株式会社 営業部長 川﨑茂雄さん
- 島々仕事人 #037 株式会社おてつたび 代表取締役 永岡里菜さん
- 島々仕事人 #036 アンター株式会社 代表取締役 中山俊さん
- 島々仕事人 #035 株式会社萌す 代表取締役CEO 後藤大輔さん
- 島々仕事人 #034 株式会社Retocos 代表取締役 NPO法人リトコス 代表理事 三田かおりさん
- 島々仕事人 #033 株式会社かもめや 取締役COO 宮武周平さん
- 島々仕事人 #032 南西旅行開発株式会社 代表取締役 内山貴之さん
- 島々仕事人 #031 海と人をつなぐプロデューサー 長谷川琢也さん
- 島々仕事人 #030 一般社団法人 離島振興地方創生協会 理事長 千野和利さん
- 島々仕事人 #029 地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合(EAS LLP)事務局長 畑山博康さん
- 島々仕事人 #028 KabuK Style Co-CEO 大瀬良亮さん
- 島々仕事人 #027 ジーエルイー合同会社代表 呉屋由希乃さん
- 島々仕事人 #026 上場企業を育てあげ、ふるさとの島に新会社を設立 サンフロンティア不動産株式会社 堀口智顕さん
- 島々仕事人 #025 「離島への引越しは高い」常識を疑い起業。アイランデクス株式会社 池田和法さん
- 島々仕事人 #024 minne GMOペパボ株式会社 阿部雅幸さん
- 島々仕事人 #023 「しまものプロジェクト」推進チームKDDI、ルクサのみなさん
- 島々仕事人 #022 「どこでもオフィス」「LAMP壱岐」 株式会社LIGのみなさん
- 島々仕事人 #021 「伝泊」山下保博さん
- 島々仕事人 #020 離島キッチン 代表取締役 佐藤 喬さん
- 島々仕事人 #019 合同会社GENEPRO(ゲネプロ) 齋藤 学さん
- 島々仕事人 #018 婦人倶楽部プロデューサー ムッシュレモンさん
- 島々仕事人 #017 「技術で島に貢献したい」T・プラン株式会社 寺下満さん・溝辺有さん
- 島々仕事人 #016 旅の輪九州 戸田慎一さん
- 島々仕事人 #015 アカデミック・リソース・ガイド 岡本真さん
- 島々仕事人 #014 株式会社エー・ピーカンパニー バイヤー 倉本満隆さん
- 島々仕事人 #013 SIMPLICITY(シンプリシティ) 飲食部門総括 梅原陣之輔さん・総料理長 渡辺一貴さん・プロダクト担当 井出八州さん
- 島々仕事人 #012 旅作家 小林希さん
- 島々仕事人 #011 東京愛らんどシャトル ヘリコプターパイロット 小野寺剛志さん
- 島々仕事人 #010 五島列島支援プロジェクト 小島由光さん
- 島々仕事人 #009 pokke104
- 島々仕事人 #008 せとうち暮らし編集部
- 島々仕事人 #007 離島引っ越しレスキュー隊
- 島々仕事人 #006 『しーまブログ』編集長 深田小次郎さん 4
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- 島々仕事人 #005 東海汽船船長 加藤治樹さん
- 島々仕事人 #004 「しま体操」島系のみなさん
- 島々仕事人 #003 佐渡料理店 きたむらさやかさん
- 島々仕事人 #002-2 鹿児島空港職員 五田加代子さん
- 島々仕事人 #002-1 副操縦士 水口健一郎さん
- 島々仕事人 #001 客室乗務員 林美穂さん