つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、SIMPLICITYのみなさんに、日本食文化の再発見を目的とするプロジェクト「FOOD NIPPON」について伺いました。4年目となる2016年度は四季を通じて奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)、大隅諸島(おおすみしょとう|鹿児島県)、先島諸島(さきしましょとう|沖縄県)といった南西諸島(なんせいしょとう)をテーマに開催されています。
※この記事は『季刊ritokei』17号(2016年5月発行号)掲載記事になります。

文・磯木淳寛 写真・渡邉和弘

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風土に根差した豊かさをお店で表現

SIMPLICITY 代表の緒方慎一郎さんが主宰する「FOOD NIPPON」と名を打つプロジェクトがスタートしたのは2013年。

会場となるのは、SIMPLICITYが運営する和食料理店「HIGASHIYAMA Tokyo」(東京都目黒区)。日頃から日本各地に息づく家庭料理や郷土料理を現代に再解釈し、表現している。

「FOOD NIPPON」では、緒方さんはじめ、スタッフ自らが、四季ごとにテーマとなる地域の生産者、加工者、流通者に会うために現地に足を運び、そこでの交流やインスピレーションを元にコース料理を創作。期間限定で提供している。これまでに北海道、岩手、香川、大分、長崎などを取り上げてきたが、2016年は年間通じて「南西諸島」にフォーカス。鹿児島や沖縄の島々へ足を運び、各地をテーマにした料理を提供している。

地域の味は、その土地で使われている調味料の個性に左右されるところが大きい。だから彼らが地域に向かうときには、まずは地元の調味料を丹念に調べるのだという。

現地では郷土料理屋で味を確かめ、可能であれば一般の方のお宅にも伺い、“お母さんの手料理”をいただくこともある。

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飲食部門総括の梅原さんは「屋久島(やくしま|鹿児島県熊毛郡屋久島町)に行った際、農作業の合間に食べる小昼にたまたまお邪魔することができたのですが、ふかし芋とキビナゴなどが食卓いっぱいに出てきて、何といってもその量に驚きました。でも、それらを味噌汁で流し込むようにしていただくと、しっかりとお腹に収まってしまうんですね。午後の作業が控えていても、この食事なら満足感がありながらももたれない。よく考えられた食文化だなと感心しました。そのまま店のコース料理に加えることはできないですが、こうした体験がヒントとして蓄積されていくんです」と話す。

料理店でありながら、彼らが表現したいのはいわゆる「舌で感じる味覚」だけではないという。料理はあくまでもひとつの表現の形。なによりも、その風土に根差した知恵や豊かさを丁寧にすくい上げ、伝えていくことが目的なのだ。

「種子島(たねがしま|鹿児島県西之表市)では、300年以上前から伝わる祭祀である御田植祭も見てきました。地域の祭りとして代々受け継がれてきた伝統行事を目の当たりにして、子どもが大人に憧れられる行事が残っていることの素晴らしさに、とても勇気をもらいました。私たちがやろうとしているのは、こうした豊かさを現代の表現として落とし込んでいくことなんです」(梅原さん)

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伝統を現代に転換する実験

「FOOD NIPPON」は、料理を盛り付ける器にもこだわり、その地域でつくられたものにしつらえる。作家にとっては多くの人の目に触れ、評価される貴重な機会ともなるが、これらも現地の工房を直接訪ねるなかで見つけている。

「伝統工芸品をそのまま使わせていただくこともありますが、意見交換を経て新たに作品の制作を依頼することもあります」

そう話すのは、プロダクト担当の井出八州さん。奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県奄美市)をテーマにしたときには大島紬の染料となる車輪梅そのものでつくった器を染め、食器として料理を盛り付ける試みも行った。

「郷土食も工芸品も、暮らしの知恵の中から生まれるもの。その知恵をほんの少し現代に転換することで、今の食卓に合う新しい提案になるかもしれない。『FOOD NIPPON』は、それらを試す実験の場でもあるんです」(梅原さん)

お客さんの反応や店での手応えといった“実験の結果”は、次の表現や商品を生むきっかけとして役立ててもらうため、生産者や作家にもフィードバックを行い、好評を得ている。

「私たち自身、地域と出会うことでたくさんの知恵をいただいている立場でもあります。店での日々の料理に活かせる発見も多いですし、関係性を深めることでお互いに高め合っていけたら」(渡辺さん)

「残すべきもの、今残さないと消えてしまうものを注意深く見極めて取り上げていきたいですね」(梅原さん)

伝統は守るだけでなく、交わり、刷新することでより力強いものとなる。そんな哲学を感じさせる「FOOD NIPPON」の活動は、これからも地域の豊かさを、次の世代へと伝えていく。


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FOOD NIPPON 2016「南西諸島」
〈夏〉2016年 6月6日(月)〜18日(土)
〈秋〉2016年 9月5日(月)〜17日(土)
〈冬〉2016年12月5日(月)〜17日(土)
特別ランチコース ¥ 3,500/特別ディナーコース ¥8,200
(税込、ドリンク料金別)

HIGASHI-YAMA Tokyo
住  所:東京都目黒区東山1-21-25
電  話:03-5720 -1300
営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:00)
     18:00〜25:00(L.O.24:00)
定休日:日曜(昼は日曜・月曜休)
>> higashiyama-tokyo.jp

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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