つくろう、島の未来

2024年11月22日 金曜日

つくろう、島の未来

「島々仕事人」は島々に携わる仕事人の想いを紹介する企画。今回は、国東半島から船で25分。瀬戸内海に浮かぶ人口約1,900 人の大分県姫島でエコツーリズム事業を営む、技術集団 T・プラン株式会社の代表取締役社長・寺下満さんと、とも共に会社を支える溝辺有さんにお話を伺いました。

※この記事は『ritokei』21号(2017年8月発行号)掲載記事になります。

文・鯨本あつこ

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寺下満さん

「技術で島に貢献したい」。船上で描いた未来を実現

「きつね踊り」をはじめユニークな盆踊りが伝わる姫島。平成の大合併時には、1島1村で生き残る道を選び、役場では雇用確保のため40年以上前から役場職員の業務をシェアするワークシェアリング制度を導入するなど、独自の持続策が目立つ。

中津市に本社のあるT・プラン株式会社の寺下満さんは、そんな姫島で生まれ育った。夫婦で漁業を営んでいた両親は、かれいや太刀魚、夜行性の車えびを獲るため、昼夜を問わず家を空けた。寺下さんは「じいちゃん、ばあちゃん、近所の人、みんなに育てられましたね」と柔らかな笑顔で語る。「漁について行くのが楽しみでした。見たこともないような大きな魚や車えび、いろんな宝物が海の中から上がってくるような感じでした」(寺下さん)。

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しかし寺下さんが漁師を継ぐことはなかった。「船の上で親父と話しながら、徐々に魚が獲れなくなっている現状を聞き『漁師を継ぐな』とも言われていました。それで、漁業も農業も人の手がいる作業が多いので、エンジニアになって貢献できたらなと思いました」(寺下さん)。

県内の工業高校を卒業した寺下さんは、名古屋、神戸、横浜などで働き、26歳でフリーエンジニアとなり、28歳で起業。40歳の頃、ふるさとに貢献する事業を始めた。「親父に『孔子のような生き方をしなさい』と言われたことが生きる指針になっているんです。15にして学に志ざす。30にして立つ。40にして惑わず……という。だから20代は人脈作りと考え、30代で立って、40代で姫島に貢献しようと」。着実に見える寺下さんは「いろいろありましたけどね」と笑う。

人と自然に優しいシステムを事業として根付かせたい

寺下さんの夢は仲間との出会いにより加速する。13年前に寺下さんと出会った溝辺有さんは「目指すところが同じだったんです。技術者って一生技術をしたい人が多いのに、大手企業に入るとそのうち管理職になってしまう。だから技術者が好きな仕事をできるよう、技術者のための会社をつくりました」と話す。

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溝辺有さん

会社を立ち上げた2人は、技術者集団として大手企業で電機や自動車の技術開発に携わり、2010年からは県や大学との共同で、太陽光発電と蓄電システムをセットにした電気自動車の充電インフラ「青空コンセント」を開発。展示会に出展したところ、電気自動車を導入する鹿児島県薩摩川内市から声が掛かり、昨秋には上甑島と下甑島にも導入された。

「技術」が軸になることで多様な企業が島を訪れるように

人や自然に優しい技術でも、地域に根付かずに撤退してしまうものは少なくない。「普及させるには事業化がなにより。なんとか事業として成り立つモデルをつくりたいと思いました」(溝辺さん)。技術を持って地域に貢献するべく、2人は2014年に姫島エコツーリズム推進協議会を立ち上げた。

協議会のメンバーは地元企業、女将の会、商工会で構成され、村や県もアドバイザーに入り、複数の大学や企業がオブザーバーに加わる。多様な顔ぶれを表すかのように、姫島に実験導入されるエコカーはトヨタ、日産、ヤマハの4車種11台。複数メーカーの車両が一挙に導入される事例は、他に類を見ないという。

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「人口を減らさないためには仕事もつくらないと」という寺下さん。実際、島にオープンした拠点には、エコカーのレンタル業務を担当する地元の女性6名と、県外から移住してきた新卒者が勤務している。

協議会では電動ゴルフカートを活用し、高齢者の外出機会も創出。最高速度19kmと低速のため、介護施設で暮らす高齢者を乗せ島の風を感じるドライブへ出かけている。「ずっと施設にいたおばあちゃんのなかには30数年ぶりに同級生に会ったという方もいました」(溝辺さん)。

最初の1~2年は島の人も半信半疑でしたが、最近はようやく浸透してきました。ゆくゆくは島の外から来る人の車をなくして、島ではエコカーに乗ってもらいたいですね」と溝辺さん。そこで気になるのは、ガソリン車をベースに営む既存の事業者だが、「私たちは技術屋なので最初にそのあたりの話から入りました。今は車両の修理点検は島内の事業者にお願いしています。島のなかで完結できたら、技術集積にもなりますしね」と言う。

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さらにT・プランでは、島でパパイヤの栽培も開始。日々欠かせない水やり作業を軽減するために空気中から水分を抽出し農業に活かせる装置も開発中とのこと。島への愛情とネットーワーク、高い技術力が伴ってこそ叶う仕事は、今後ますます枝葉を広げていく。


【関連サイト】
T・プラン株式会社
大分県中津市牛神404-11

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』島々仕事人

「島々仕事人」は島と島をつなぐ仕事に携わる仕事人の想いを紹介する企画。日本全国の「島」にかかわる、さまざまな仕事人をご紹介します。

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