つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

人口減少や高齢化により、 人材不足が全国規模で深刻化するなか、離島地域ではどのように「人材」 を集めていけるか。物理的・心理的な距離のハードルを乗り越える方法や、求職者と事業者と島のミスマッチを防ぐ方法など、働き手を集めたい島の事業者と共に「島の人材獲得」について語り合いました。

※この記事は『季刊ritokei』46号(2024年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

人物紹介

アイランデクス株式会社
池田和法(いけだ・かずのり)さん
1987年愛媛県出身。 神戸大学大学院在学中に離島専門の引越し屋 「アイランデクス株式会社」 を創業。全国10島に営業所を展開し、 引越し、 宿泊、 施設管理などの雇用を創出。累計2万人以上の離島移住と物流に関わる
https://islandex.co.jp

とくのしま伊仙まちづくり協同組合
大保健司(おおぼ・けんじ)さん

1987年和歌山県出身。 全国の離島60島を巡ったのち、2020年妻と共に徳之島に移住。10年かけて移住先を探した自身の経験を活かし、とくのしま伊仙まちづくり協同組合で移住者への住居・仕事・地域との橋渡しをサポートする
https://r.goope.jp/isenmachidukuri/

NPOリトケイ代表理事
統括編集長
鯨本あつこ(いさもと・あつこ)

1982年生まれ。地方誌編集者、 経済誌の広告ディレクター、イラストレーターなどを経て2010年に仲間と共にリトケイを設立。故郷の大分県日田市を拠点に全国の島々を訪ね、人の暮らしや自然、 社会のより良いあり方を探求中

リトケイ副編集長
ネルソン水嶋 (ねるそん・みずしま)

大阪出身、ベトナム生活を経て2020年より沖永良部島在住。島の多文化共生 国際交流がライフワーク。編集・執筆業の傍ら、 農業が盛んな沖永良部島で働くベトナム人ら外国人実習生のサポートも行う


まずは皆さんの会社のお仕事内容について教えてください。

全国10島に営業所を置いて離島専門の引越し業を中心に、シェアハウスや、宿泊施設、学生寮などの運営をしています。

引越し業務に従事するドライバーなどが最も多く、次いで顧客対応係や、空き家を改修する工務、 宿泊施設や学生寮の運営などで約50人が従事。8割が離島在住で、2割が鹿児島や福岡、東京、関西などの本土側に住んでいます。

引越しを通じて島で生きる人を支えるアイランデスクの仕事。 熱意あふれる仕事にはファンも多い

私のところは、徳之島の伊仙町で地域の人材不足解消と雇用安定化を目指して設立された複業協同組合(※) です。

移住者を正社員として雇用し、地元の事業者に人材派遣しています。 派遣先の事業所は介護施設2社、保育園1社、農業2社、学童保育1社の計6社、計6名が働いています。

※地域人口の急減に直面している地域において、 農林水産業、商工業等の地域産業の担い手を確保するための特定地域づくり事業 (季節毎の労働需要等に応じて複数の事業者の事業に従事するマルチワーカーを雇用する労働者派遣事業等) を行う組合 (参考:総務省

さまざまな職種の方がいるんですね。人手確保の方法として、求人はどのように行なっていますか?

弊社は出会いから採用に至ることが多く、引越し現場で出会った方に声をかけたり、関係者からの紹介で採用したりしています。お試し期間を設けて相互の適性を見極めつつ、正社員や業務委託などの形態で雇用しています。

本土で開催される移住相談会に参加したり、オンラインの求人プラットフォームで徳之島の魅力を伝えながら、直接求職者に声をかけたりしています。

プラットフォームでは、募集記事を掲出したり、自社の記事に「いいね」してくれた方や、島暮らしに関心を持つ人たちを探してダイレクトメールを送ってアプローチしています。

関心を示していただけた方にはオンライン面談で島のことや仕事内容をお伝えして希望に合った仕事を紹介、3カ月程度の試用期間を設けて採用しています。

徳之島のマルチワーカーは、冬場は全国でもいち早く収穫期を迎える徳之島のじゃがいも生産に従事できる

現在、募集はされていますか?

奄美大島の瀬戸内町で運営している学生寮のサポートをしながら物流事業を担う仲間と、新上五島町の中通島で始めるシェアハウスと運送事業の立ち上げメンバーを募集したいと思っています。

現在は6名の移住者が組合に所属していますが、マルチワーカーとして働くなかで地域の企業に就職が決まると組合に欠員が出る仕組みなので、求人は随時受け付けています。

随時求人は大変そうですが、 複業協同組合で働く移住者が定住につながることは、制度が目指すゴールのひとつですよね。

採用に関してご苦労されている点やお困りごとはありますか?

オンラインの求人プラットフォームに登録している方は、徳之島を目指しているわけではなく「どこかに移住したい」と考えていることがほとんどであること。

また、島の仕事というと、漁業などをイメージされる方が多いのですが、伊仙町の場合は長寿子宝で知られる地域ということもあって、実際は保育園や介護分野が人手不足なんです。

全国規模の求人プラットフォームだと、素敵な出会いがあるかもしれない一方で、離島以外の地域でも良かったという方だと、ミスマッチも起きやすかったりしませんか?

弊社でも同じような悩みがあるので、人材募集では費用対効果をどう取るか頭を悩ませています。

総勢50名が働くアイランデクスでは、全国の離島から社員を集めた合宿も定期的に開催している

もともと島に通っていたり、ゆかりがある人でない限り、求職者がイメージする島の仕事や暮らしと現実にはギャップが生じやすいものだと思います。その上、島で働くには移住が伴うので、ミスマッチの影響も大きい。事前の情報でいかにミスマッチを防ぐかがカギですね。

都会で仕事を探している人は、フルタイムで就業するイメージも根強いと思いますが、島には家族経営の延長のような事業者も多いから、フルタイムじゃない求人ニーズもありますよね。

求職者の方も、いきなり就職を目指すのではなく、先ずは島にある細々とした仕事を組み合わせながら道を探っていくようなやり方もあるかなと思います。

いくつかの仕事を組み合わせれば、生計を立てられますしね。 一般的な仕事のスキルが、ある地域ではすごく求められている場合もあります。島の中で自分ができることの価値をしっかり認識できると、色々な仕事につながっていくと思います。

島では、都市部に比べて1人ひとりが担うもののインパクトが時に何百倍にも何千倍にもなりますよね。生きがいややりがいを求める方には、ローカルの暮らしや仕事はとても魅力的だと思います。

「いつか島に帰ってきたい」と思えるよう、島の小学校で島の魅力や他地域との違いを紹介する大保さん

島の求人に関して、こんなサポートがあったらいいなという希望はありますか?

リトケイ読者の中から 「島で働きたい人」を集めたコミュニティがつくれないでしょうか?

リトケイ読者は島に興味関心のある方がほとんど。島暮らしにあこがれている方もいるので、そうしたコミュニティはつくれますね。

こちらも「島で暮らしたい人」とうまくつながりたいです。当組合では未経験者歓迎の事業者さんが多く、空き家対策も手がけているので、仕事と合わせて住まいも紹介できます。興味のある方はぜひ、お試しで徳之島に来てほしいです!

介護や保育など求職者が持っているスキルと、希望する規模やエリアの島を掛け合わせて、うまく紹介できる仕組みができると良いですよね。

リトケイ読者は都市圏に限らず各地にいるので、例えば、奄美群島にアクセスしやすい那覇や鹿児島の読者とつなぐ仕組みがあると良いかもしれません。

いきなり移住や仕事のマッチングに進む前に、「こんにちは〜」 みたいな感じで島とつながれる関わりしろをつくりたいですね。地元の方と知り合って仲良くなって「こんな求人があるよ」と声がかかる。そんなワンクッション置いたつながり方をつくれるとより広がりそうです。

当社のような引越し業務は、関わりしろがつくりやすいんです。以前に引越しを依頼していただいた移住者の方に「1度でいいから手伝って!」とお願いして、そこから採用につながることも。引越しの際にも当社のビジョンに共感して選んでくれているので、私たちも求人時に声をかけやすいんです。

引越しを通じて体験を共有できるのは、うらやましいです!私たちも、まずは島に来ていただくことが大事だと思っています。

長寿・子宝の島として知られる徳之島では、元気いっぱいの島の子どもたちが住民のエネルギーの源

リトケイでも以前取材させていただいた「おてつたび」(※)のようなマッチングサービスを利用して、短期間働いてみながら地域のことを知っていく方法もありますよね。

今後、離島地域の人材不足はますます深刻化すると見込まれているので、リトケイでは島にすてきな働き手が増えるよう、さまざまな求人事業者と連携しながら、 求人のサポートをしていきたいと思います。

※人手が欲しいローカルの事業者と、 お手伝いをしながら知らない地域を旅する人を結ぶマッチングサービス

求人に関して、中長期で働いてくれる人が良いというのは、あくまで雇用側の都合だと思うんです。どんな仕事も、中学生の職場体験みたいに気軽に体験することができたらおもしろいですよね。

例えば「徳之島で3日間だけジャガイモ掘りをしに来ない?」という企画があったら、私も参加してみたい。特に、幹部候補を採用したい時は、事前にお互いを深く知ることが必要なので、お試し体験も必要だと思います。

11月開催「未来のシマ共創会議」(※)では、イベント後に離島での合宿に案内できるツアーもつくりたいと考えています。

※真に持続可能な世界をつくるためのアイデアや実践を 「離島」 「シマ(コミュニティ)」 から追求する参加型カンファレンス。 2024年11月14日開催

「人生に離島を」を掲げるアイランデクス池田さんの仕事風景。
その想いやビジョンに共感したメンバーが新たな仲間となっている

島の仕事では、都会に比べるとやはり最低賃金や事業規模の関係で給与や待遇で劣る面があるので、経営者がビジョンや経営理念をしっかり語って共感していただくことが大事だと思います。言行一致しているか、自ら常に襟を正す姿勢も忘れずにいたいですね。

ビジョンを求職者にしっかりと伝えることは大切ですね。

ビジョンや理念を外部に発信してきた経験が少ないと、言語化が難しい場合もあるかもしれません。

そこは言語化の得意な方に伴走してもらいながら表現できるといいですね。

求人情報に限りませんが、リトケイの記事は島で生きる方々の想いや考えを読者が知れる媒体であるよう制作しています。

最近、リトケイでは離島にゆかりのあるクリエイティブ集団を立ち上げました。採用でお困りの際はご相談いただければ、島に明るいクリエイティブチームが皆さまの情報発信をお手伝いさせていただきます!

情報発信の面では手が回らないこともありそうなので、リトケイさんのサポートがあるのは心強いです。

島ではリトケイに記事が載っていたり、「島の話題が広がるTシャツ」(※)を着ていると、そこで話すきっかけができて地元の人と仲良くなれたりする。そんな時に、リトケイが長年かけてつくってきたコミュニティの力を感じます。

※日本の有人離島約400島をあしらったリトケイのオリジナルTシャツ

ありがとうございます。最後に、リトケイ読者へ向けて一言お願いします!

当社が掲げるスローガン 「人生に離島を」「再会」を贈りたいと思います。島でお会いしましょう!

いろいろとお話ししていて、移住の相談から仕事・住居・地域との橋渡しまでワンストップでできることが自社の強みだと気づきました。「島に住みたい人」と「採用したい企業」のつなぎ役として頑張りたいと思います。

最初は好奇心からでも、興味を持っていただけたら、ぜひ徳之島にお越しください。お待ちしております!

リトケイが島の人事をサポート「シマの人事部」はじめます

NPOリトケイではリトケイ編集部や離島在住人材が、自治体や企業の人材獲得を支援する「シマの人事部」をスタート。『ritokei』を活用した求人案内も可能です。 お問合せフォームよりお気軽にお問い合わせください。

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特集記事 目次

なつかしくてあたらしいミライの島を共につくろう

この特集では、日本の島々で進む、あたらしい未来を模索する具体的な取り組みをピックアップ。

海に囲まれ、土地にも資源にも限りがある離島は、解決が必要な社会問題や、その対策の良し悪しを把握しやすいのが特徴。社会の一歩先をいく取り組みが、各地で進んでいます。

大自然や人と共存する古き良き知恵や生きるすべと、最新テクノロジーや画期的なアイデアを掛け合わせた未来は、あたらしいだけなく、なつかしいだけでもない。心豊かに生きることのできるミライの島をつくるヒントを探求しましょう。

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