日本の島々では、日々さまざまな取り組みが生まれています。 そんな島々から届くニュースをキャッチしているリトケイ編集部。2024年の春から夏にかけて編集部に届いた4つのメールから、リトケイ編集長がミライに向けた島の可能性をみつめます。
今回は、鹿児島県・奄美大島の南に浮かぶ、与路島と請島からのお便りです。
文・鯨本あつこ
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※この記事は『季刊ritokei』46号(2024年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
テクノロジーが支える極小離島の暮らし
6月に与路島から届いたメールにはこう書かれていた。「与路島を取材していただければ日本の課題とその取り組みが分かるのではないか」。
瀬戸内町の与路島は奄美群島でも「行ったことがない」と聞く奥座敷。人口約50人の島は、離島留学生の存在により学校が維持されている。緑を感じて8月に与路島を訪れた。奄美大島南部の町・古仁屋から定期船で1時間40分。与路鳥に到着するとメールの主、藤田谷館さんが出迎えてくれた。
藤田さんは今、4人の留学生が暮らす「与路グリーンハウス」(※)の里親として家族で移住。「人との交流が密接な暮らしを子どもにも体験させたかった」と言い、引越しの時には集落住民が荷物をバケツリレーするような濃厚なつながりと手付かずの自然を楽しんでいた。
※1990年より与路島で研究・生産施設を設けるノエビアが2014年に開設した離島留学生の受け入れ施設。2024年度より瀬戸内町に無償で貸与され、運営が引き継がれている
「与路島だと限られたものしか買えませんが、『ない』前提でスタートすればよいだけ。シンプルライフの実践ができています」(藤田さん)。
とはいえ最先端技術の導入もあり、与路島と隣島の請島には衛星インターネットサービス「スターリンク」が導入され、給食用の食材や医薬品を運ぶ大型ドローンも飛んでいる。「テクノロジーが進んでいるところに住んでいるんだなと感じます」(藤田さん)。
愛される「今のまま」を残し、社会問題は「新しく」解決
藤田さんは息子のほか5人の留学生を預かり、共同生活を行っている。与路小中学校の児童生徒は6人のみ。「日本の100景」に選ばれるサンゴの石垣を通り抜けて毎日学校に通っている。
今、藤田さんが悩むのは離島留学の持続的発展。環境は魅力的だが、来年度に向けた問い合わせはまだ少ない。「与路島だけでなく請島とも連携してやっていけないか」という藤田さんを頼り、請島に渡った。
実は与路島への渡航を決めた後、リトケイの来島を耳にした請島からもメールが届いていた。「2017年に休校から再開校した学校ですが、島内に未就学児がおらず、このままでは来年度から小学校がまた休校になる予定です」。メールの送信主は、池地郵便局長として16年が経つという林和樹さんだ。
与路島から約25分の請島は人口約80人。小道には花が咲き、あちこちでヤギが顔をのぞかせる池地集落は「島で安心して子どもを育てられる場所」と林さん。自身の子どもたちも請島育ち。今は親子留学を受け入れられるよう新たに空き家のリフォームを進めているそうだ。
一度閉じた学校を再開させる苦労を知る林さんは、来年度に向けてなんとしても留学生を集めたいと考えている。池地集落の区長・益岡一定さんも加わり、請島・与路島の実情や互いのアイデアを共有する時間、「留学生が活躍できる仕組みがあると良いかもしれない」「まずは請島、与路島で離島留学のプロジェクトチームをつくりたいですね」と夢が語られ始めた。
未来世代を育む子育て教育環境の魅力化は、より良い未来をつくる確実な一歩となる。奄美群島の奥座敷で、新しいミライが始まる瞬間に出会った。