座間味島(座間味村)や竹富町の庁舎建設をはじめ、島々の行政機関と連携した公共事業を数多く手掛ける大和リース。島の方々と連携し、より良いミライをつくるために心がけている想いについて、大和リース株式会社・民間活力研究所の辻大輔さんにリトケイ事務局長の多和田が聞きました。
※この記事は『季刊ritokei』46号(2024年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
人物紹介
辻大輔(つじ・だいすけ)さん
大和リース株式会社 民間活力研究所 公民連携三課。滋賀県出身。 妻は愛媛県上島町生名島出身。沖縄支店在籍時は座間味村を担当
多和田真也 (たわた・しんや)
NPOリトケイ事務局長、 ファンドレイジング担当。那覇市出身。母方のルーツは宮古島。 2児の父として離島留学や島での養育事情について学んでいる
何をしたら儲かるかではなく何を必要とされているか
大和リースが離島地域の事業に力を入れる背景について教えていただけますか?
大和リースの事業の根底には、「何をしたら儲かるかではなく、何を必要とされているか」という「公の精神」があります。人手不足や財政難など、これからの社会課題が先行している離島自治体の首長や職員の皆さんと接するなかで、地域の必要と私たちの事業がマッチしたと考えています。
なるほど。実際に、島の暮らしを支える仕事にはどのような点に意義を感じていますか?
ひとつは人材不足への貢献です。弊社の基幹事業のひとつはPPP(※)といわれる公民連携事業で、離島地域でも公共施設の整備を中心に仕事をさせてもらっています。
※PPP……Public Private Partnership の略。 官民が連携して、公共施設やインフラなどの整備・運営を行う考え方
座間味村の庁舎建設では、リース方式(※)を活用して、資金や資材の調達、輸送、人手確保の課題に対して、設計から建設、維持管理運営までをワンストップサービスで対応させていただくことで、公共サービスの向上と村職員の業務負担軽減に貢献できました。
※リース方式……民間が資金調達から公共施設の設計・建設、維持管理などの業務をトータルで行い、 そのサービス対価をリース料として受け取る契約の仕組み。 初期投資を抑え費用を平準化することができる
新しい手法に不得手な職員さんにとっても頼りになりますね。
これまでの公共工事は「建てて終わり」という流れでしたが、 我々は完成後も長期に渡って地域の方に使い続けてもらえる事業にすることを大切にしています。
座間味村の庁舎建設の経験でいきますと、座間味村らしさを庁舎でどう表現していくかを重視しました。沖縄らしさを感じられる赤瓦や花ブロックを取り入れたり、大きなひさしをつくって観光客の休憩スポットにしてもらったり。その土地らしさをいかに表現できるかを考えました。
沖縄のイラストレーターpokke104さんが庁舎づくりに関わられているのもそのひとつですね。
pokke104 さんは座間味村の観光大使でもあるので、彼女と協業してワークショップを開催し、子どもたちと島の魚を描いてもらい、庁舎の内装に活用しました。
島には高校がないので子どもたちは中学を卒業すると島外に出ざるを得ません。そんな子どもたちが庁舎づくりに関わることで、島や庁舎に愛着を持って「また戻ってきたい」と思える取り組みになるといいなと思いながら、地域の事業者や関係者の皆さんと一緒に取り組みました。
庁舎づくりに関われるとは、なかなかない経験なので、子どもたちの誇りになっているはずです。
より良い仕事を行うため地域との信頼関係を重視
座間味村の場合、 宮里哲村長やpokke104さんとのつながりもあって理想的な事業にできました。ただ、我々の通常業務の範疇だけでは、そうしたキーマンや地域住民との出会いや巡り合わせがなかなかありません。ですから、リトケイのイベントなどで新しいつながりができるといいなと考えています。
11月に開催する 「未来のシマ共創会議」はそのために企画したイベントでもあるので、良い出会いをどんどんつくっていきましょう!
元を辿ると、大和リースとリトケイの縁は、島好きである北哲弥社長がリトケイを発見してくれたことでした。そうしたご縁からも、リトケイを介して地域の方々と積極的に関わり、対話されようとする大和リースの姿勢を感じ取ってきましたが、大和リースには業務外でも離島地域に関わられている方がいますよね。
そうなんです。社長と社員の有志メンバーはこの2年、姫路市の男鹿島でキャンプを楽しんでいて、私も男鹿島のビーチクリーンに参加させていただきました。座間味村を訪問する時は、「プロジェクトマナティ」という個人でできるビーチクリーンにも協力しています。
伊豆大島に滞在されていた大和リースの社員が、夏祭りのボランティアを志願された時はおどろきました。
はい。 伊豆大島で仮設庁舎の建設事業を担当していた社員が、地元の夏祭りで輪投げのお手伝いをさせていただいた件ですね。
伊豆大島でのお話は、大和リースからの相談を受けてリトケイ経由で島の方におつなぎしましたが、島の方にも喜んでもらえたので、私たちもうれしかったです。
こうしたお手伝いは、地域の方とコミュニケーションがとれる機会になるので、 私たちにとっても貴重でした。
確かに、ビーチクリーンにしても、お祭りのボランティアにしても、それによって「ありがとう」と言われることは大事ですが、地域の方々と信頼関係を築く時間になりますね。
大和リースの社員が自発的にお祭りのボランティアを申し出られたことは、仕事で関わる地域の方々とどうすれば信頼関係を構築できるか、真面目に考えられた結果の現れだとも感じました。
一緒に何かをやるっていうことはすごく大事なポイントですよね。私も沖縄支店に赴任していた頃は、地元の方と一緒に地域活動をすることで、少しずつ信頼関係を得ることができました。今でも沖縄に帰ると、顔を出すだけですごく受け入れてもらえています。
仕事に関していえば、日々の業務だけでも忙しいので、なかなか地域との関わりが持てない人もいるとは思います。けれど、ちょっとした気持ちの切り替えでできるようになるので、やはり、離島など小さなコミュニティで地域の方と接する経験は、結果的に事業にも活きてくると思います。
大和リースが掲げている「何をしたら儲かるかではなく、 何を必要とされているか」を探求するためにも重要ですよね。
竹富町の庁舎建設では環境負荷の低減にも配慮
大和リースでは他にも、自己成長につながる機会をつくられているんですか?
離島に限らずですが、 生物多様性のコンクールを社内で行なっています。全国の事業所がそれぞれの地域でどんなことができるかを考え、取り組んでいるんです。
例えば、沖縄だとサンゴの植え付けを行ったり、赤土の流出を防止するお手伝いをしたり。秋田支店では商業施設の一角にビオトープを造り、小さなところから生物多様性に貢献できる取り組みをしています。
ネイチャーポジティブ(※)が求められる時代、それぞれが環境意識を高められる機会は重要ですね。
※ネイチャーポジティブ……生物多様性の損失を止め、 回復軌道に乗せること。 環境省は2030年までに 「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を実現することが、2050年ビジョンの達成に向けた短期目標として掲げている (参照:環境省HP)
環境配慮という点では、 2022年に竣工した竹富町の新庁舎にも活かされています。これまでと同じ規模の庁舎で使っていたエネルギーを50%以下に抑えるため、LED照明や日差しの直射熱を遮るルーバーを設置しながら、環境配慮に対応した庁舎づくりをしています。
竹富町には世界自然遺産の西表島もあるので環境意識の高い住民の方にも愛される庁舎になるといいですね。ちなみに、環境に配慮した建築だとコスト高になるようにも思いますが、その点は?
実際、低環境負荷な建物をつくろうと言うと、建設コストに反映してくることもあります。ただ、実は沖縄の場合、冬場はあまりエネルギーを使わないので、ちょっとした工夫をするだけでお金をかけずに環境対応ができるケースもあるんです。
「公民連携D チャンネル」が新たな事業アイデアの源泉に
そうしたアイデアを事業に反映できる背景には、 大和リースが主催する「公民連携Dチャンネル (※)」などの学習機会もあるように思います。
Dチャンネルでは 「防災」などをテーマに、最新技術やアイデアをオンライン配信されていて、私は先日「フェーズフリー(※)」に関する講義などを拝聴しましたが、 とても勉強になりました。全国の自治体職員も多く参加されていて、とても良い取り組みですよね。
※公民連携Dチャンネル……大和リースが主催する公民連携に関する知見や先進的アイデアを発信・ つながりの場を提供するセミナー
※フェーズフリー……身のまわりにあるモノやサービスを、 日常時はもちろん、 非常時にも役立つようにデザインしようという考え方 (出典::日本フェーズフリー協会HP)
フェーズフリーの会は反響も大きかったですね。まだまだ導入できていない地方自治体が多いので、Dチャンネルを通じて有益な情報を提供したいと考えています。
離島地域の災害や有事に備えられるよう、リトケイでも防災に力を入れていきたいと考えているのでとても勉強になりました。
公民連携と防災はまだまだ結びついていないところがあるんです。防災をテーマにした勉強会を開くにも、行政側からすると防災系の担当者と防災に直接関わらない企画系の担当者では観点がずれてしまうのです。
とはいえ、発災時にはスムーズな連携が求められます。「未来のシマ共創会議」も、持続可能なシマをつくるためのヒントやアイデアを皆で共有し、新たな共創連携が生まれる場としていきますが、さらに専門的な情報を求める人には、Dチャンネルのような専門コミュニティにアクセスしてもらいたいです。
最後に、今後に向けてより力を入れたい事柄について教えてください。
例えば、 島でビーリクリーンをするにも拾ったごみを持ち帰ったり、処分したりというところは大和リースでは担えないので、専門領域の異なる事業者と連携して、より良い課題解決に取り組みたいと考えています。
また、大和リースの事業は主に公共からのお題に対して解決策を提案する形でしたが、地域の皆さんとのつながりをきっかけに、民間の方々が持つ困りごとに対して、一緒に解決策を考え、実行する術を民間側からも提案していきたいです。
今後は人材不足はより進んでいきますし、離島自治体の皆さんもなかなかひとつのことに専念する時間がないと思います。ですから、我々のような民間事業者が協力できることで地域に貢献していきたいです。
そのためにも地域の方々とのつながりや、温かいコミュニケーションが大事なんですね。
沖永良部島では和泊町庁舎(左)、 大崎上島では大崎上島町定住促進住宅(右)を手がけた
伊豆大島のお祭で得た気づきと経験
2023年夏、 伊豆大島の夏祭りで輪投げボランティアを体験した大和リースの中島純一さん、廣村武一さんの体験談をご紹介します。
「印象に残っているのは、地元の高校生と一緒に設営準備を行ったことです。 最初はお互いに少し緊張していましたが、作業を進めるうちに自然と打ち解け、和やかな雰囲気で協力し合うことができました。
イベントの締めくくりに花火も打ち上げられ、空を彩る鮮やかな花火は本当にきれいでした。民宿でいただいたご飯もとても美味しく、心も体も満たされました。ボランティア活動を通じて、多くの人々との出会いや新しい経験を得ることができました」 (廣村さん)
「祭りの準備は観光協会の方と学生アルバイトの皆さんと出店の位置決め、ゲーム屋台の設営、花火開催時の注意喚起の設置などをしました。祭りが始まると、どこからともなく島の子どもたちが現れ、ゲーム屋台で遊んでくれました。
私は輪投げの運営を任され、上手く輪が投げられない子にはアドバイス。子どもたちの笑顔と一生懸命な姿勢にふれ、多くのエネルギーをもらい、改めて子どもたちのエネルギーは都会や島など関係ないのだと実感しました 」(中島さん)
2024年11月14日(木)開催の「未来のシマ共創会議」には大和リース株式会社も出展。イベント会場にて直接お話しできます。ぜひご来場ください。