つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

日本の島々では、日々さまざまな取り組みが生まれています。 そんな島々から届くニュースをキャッチしているリトケイ編集部。2024年の春から夏にかけて編集部に届いた4つのメールから、リトケイ編集長がミライに向けた島の可能性をみつめます。

今回は、日本海の西の入り口に位置し、日本一多くの海洋ごみが流れ着くと言われる長崎県・対馬島からのお便りです。

文・鯨本あつこ

>>前回の記事(沖永良部島・佐木島)はこちら

※この記事は『季刊ritokei』46号(2024年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

海洋ごみの防波堤・対馬が挑戦する「アート」プロジェクト

6月に対馬から届いたメールには、世界規模の大問題に「アート」で立ち向かうプロジェクトと、その必要が訴えられていた。

問題の主役は「海洋ごみ」。対馬海流とリアス式海岸により年間3~4万立方メートルもの海洋ごみが漂着する対馬は「海洋ごみの防波堤とも呼ばれている」と、メールの送り主である対馬市SDGs推進課の久保さんは語る。

対馬の沿岸にはリアス式海岸が広がる

海洋ごみは放っておけば「マイクロプラスチック」を大量発生させる原因にもなる。対策が急がれる一方、現場から聞こえるのは「キリがない」「予算がない」という嘆き。対馬市には毎年3~4万立方メートルの海洋ごみが漂着するが、予算が足りずに回収できているのは2~3割程度となっており、国からの補助金も十分とは言い難い。

民間企業からの出向職員として対馬にやってきた久保さんは、会社を辞めて対馬に留まった人。愛着ある島が抱える難題に「アート」を掛け合わせたプロジェクト「Ocean Good Art」(以下、OGA)を自ら立ち上げた。

世界の重要課題は世界との連携により解決

OGAの目的はふたつ。アートを通じて海洋ごみ問題を啓発することと、アート作品を販売した利益を回収・処理費用に充てることだ。2024年冬、第1弾プロジェクトとして招聘したアーティストが約1ヵ月間、島に滞在しながら、島内各地で集めた海洋ごみを素材に6点の作品を制作。現在は島内外での展示・販売を行っている最中という。

素材収集を行うアーティストのしばたみなみさん
プラスチックや流木でつくられた作品「連なり」

OGAにはテクノロジーも活用される。海洋ごみから生まれたアートの証明書としてNFT(非代替性トークン)を発行し、作品の価値を担保。また、NFT保有者向けのDAO(分散型自立組織)を設立し、DAOメンバーで海洋ごみ対策を行うことも検討されているという。そもそも海洋ごみの原因は世界中にある。インターネットやアート市場を通じて、世界中から必要資金を集めることができれば、それほど理にかなったことはない。

「(対馬の場合)海洋ごみの回収率をあげようと思うと億単位の資金が必要になります」という久保さん。OGAは対馬市を中心に島のクリエイターや島内外の技術者、ギャラリーなどとの連携が行われているが、参加ギャラリーやアーティスト、展示場所、アート購入者とつながりをいかに増やせるかが直近の課題。

島に押し寄せる世界規模の環境問題をいかに解決できるか。OGAの広がりに期待がかかる。

特集記事 目次

なつかしくてあたらしいミライの島を共につくろう

この特集では、日本の島々で進む、あたらしい未来を模索する具体的な取り組みをピックアップ。

海に囲まれ、土地にも資源にも限りがある離島は、解決が必要な社会問題や、その対策の良し悪しを把握しやすいのが特徴。社会の一歩先をいく取り組みが、各地で進んでいます。

大自然や人と共存する古き良き知恵や生きるすべと、最新テクノロジーや画期的なアイデアを掛け合わせた未来は、あたらしいだけなく、なつかしいだけでもない。心豊かに生きることのできるミライの島をつくるヒントを探求しましょう。

ritokei特集