つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

家族、親戚、友達など、
いろいろな人の協力があり始まった甑島のアートプロジェクト。
そんな中、一番の張り切りをみせたのは意外な人物だっだそうです。
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③島と家族に起きた変化

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一番のファンはおじいちゃん?!

林太郎くん:みんなからちょっとずつ協力をしてもらって、
姉も車出してくれたり、弟も助けてくれたんですけど・・・。
なんだかんだ一番がんばってくれたのが、じいちゃんなんです(笑)
一同:おじいちゃん??
林太郎くん:昔、現場監督業をやっていたことも理由なのか、
みんなが制作してるところに、勝手に見守りに行ったりしていて。
でも、あれ?じいちゃん見かけなくなったな・・・と言ってたら、
いつのまにか自分で作品をつくってたんです。

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一同:へええ!
林太郎くん:もともと、
粘土を使って干支をつくったりしてたんですが、
アーティストに触発されて、作品をつくり始めちゃって。
僕の中で、じいちゃんの影響って大きくて。
実はじいちゃん、七面鳥を飼ってたんですよ。
大久保:一番身近に、一番面白いトサカがいたんですね(笑)
ヤブシタ:血筋だったということですね(笑)
すべてのルーツはおじいちゃんで、
おじいちゃんのアート魂にも火をつけちゃったんですね。

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林太郎くん:じいちゃんはそれから毎年、参加しています。
最初の年からアーティストとコラボレーションしてましたからね(笑)
ヤブシタ:おじいちゃんはおいくつですか?
林太郎くん:今年で88歳ですね。
ヤブシタ:島のおじいちゃんですし、
めちゃくちゃ元気なんでしょうね!
林太郎くん:はい。一番近くにいた すごいコアなファンというか。
イサモト:いいですね。心強いですね。
そういったわけで、1年目は成功だったと?
林太郎くん:僕たちにとっては、思う存分、制作できて、
展覧会ができたってだけでもう成功で。
イサモト:それで来年も、という話になったんですか?
林太郎くん:毎年やることは初めからきめていたんですが、
3年目はやらないようにしようって決めていました。
一同:???
林太郎くん:作家と話をしていて、マンネリ化するのはやだねって。
イサモト:なるほど。
林太郎くん:ただ、2年目やるって言ったとき、
親父がまた、めちゃくちゃ反対したんですよ。
「もう絶対にしちゃいかんぞ」と。
イサモト:・・・やはり。

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林太郎くん:でも、じいちゃんは「やれやれ!」と。
そりゃ、もちろんやることになりますよね?
イサモト:そうですね(笑)
林太郎くん:そういうわけで、2年目もやることになったんです。
でもやっぱりサポートスタッフはいるだろう、
ということで、京都造形大に進学していた山下が、
メンバー10数名を集めてくれたんです。
ヤブシタ:2年目にしてすごいですね。
林太郎くん:九産大(九州産業大学)からもスタッフが来てくれたり。
東京造形大だけじゃなく、多摩美(多摩美術大学)の学生もいたりして
参加大学も少しずつ増えていきましたね。
イサモト:なにやら島で面白いことをしてるらしいと。
林太郎くん:当時のスタッフの子たちは、
バカンスも兼ねて来てましたね。
好きなアートに関われて、家賃がタダということもあって。
イサモト:総勢でどのくらいの人数に?
林太郎くん:アーティストは15人、サポーター12人くらいでしたね。
イサモト:そんな大人数が1ケ月間、どこに住むんですか?
林太郎くん:島の空き家を借りて、
いくつかの家でそれぞれが暮らして。
イサモト:家を借りるのも大変そうですが。
林太郎くん:貸すところと貸さないところはあって。
でも、やっぱり父親やじいちゃんの今までの信頼関係とか
家族同士のつきあいで貸してくれました。
ヤブシタ:やっぱり林太郎くんのご家族が
島に根づいているからこそで、
おじいちゃんやお父さんのおかげですよね。
林太郎くん:ほんとにそうです。
イサモト:急に外の人間が行ってやろうとしても難しそうですもん。
林太郎くん:相当難しいと思いますね。
でも島にはそもそも、空き家を貸すっていう習慣があるんですよ。
たとえば、大規模な工事をやるときに、
内地から下請けの会社の人が来るときとか。

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(撮影:コセリエ)

ヤブシタ:民宿とかに泊まるんじゃないんですね。
林太郎くん:やっぱり経費削減の問題で。
ヤブシタ:空き家といっても人が暮らせるよう状態なんですか?
林太郎くん:そういう家もあれば、
ボロボロで埃とかダニがいるようなところもあります。
なので、アートプロジェクトのときは自分たちで掃除して。
僕ひとりではできないので、母や親戚が手伝ってくれたり。
そういうのがわかっていたから、
父は大変だって反対してたんですよね。
イサモト:そういうわけなんですね。

アートプロジェクトの誕生は、
まず林太郎くんのおじいちゃんのアート魂に火をつけました。
それから7年。プロジェクトを続けてきたことで、
島に変化があったそうです。

島とアートで起きたこと

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(撮影:コセリエ)

イサモト:7年間、育ててきたアートプロジェクトですが、
島の人たちはどういう風に変わってきました?
林太郎くん:直接関係しているのかどうか定かではないんですけど、
神社にお金が集まって切れたままになっていた手綱が
新しいものに変わったり、
ここ数年、踊られていなかった盆踊りが復活したり。
イサモト:すごいですね。
林太郎くん:島の人たちそれぞれが、
うちのじいちゃんみたいに、
何かしら態度なり、表現なりで現し始めたというか。

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(撮影:コセリエ)

ヤブシタ:島を見直し始めたってことなのかな?
林太郎くん:そうかもしれないですね。
3年目に展覧会をやらなかったときには
「何で今年はやらなかったんだ」って言われました。
民宿の人が「今年はお客さん少なかった」と思ってくれたみたいで。
他にも「外から来る人が家の前を通るからきれいにしといたんだよ」
って言われたり。
ヤブシタ:観る人が来るからでしょうね。
林太郎くん:そうなんです。作品だけじゃなくて、
島を”観る”人たちが来るからなんですよね。
細い路地を入って行って、そこに作品があったりするんです。
どこに作品を置くかっていうのは、
作家が滞在して作品をつくり始めてからでないとわからないことだから、
そうやって気を配ってくれていたりだとか。
イサモト:それって、すごい変化ですよね。

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(撮影:コセリエ)

林太郎くん:食事処でも、
「人が来ると思って多めに準備していたのに」とか。
飲食業の人は夏の展覧会の間に人が来る分、
ちょっと多めに用意しとかなきゃと思ってくれてたみたいで。
商工会では、何か島の名物を出せるように
「きびなご丼」っていうのを考えてくれたりしました。
ヤブシタ:へえ!
林太郎くん:「きびなご丼」は、
島特産の「きびなご」を使った漬け丼なんです。
イサモト:美味しそうですね。
林太郎くん:それをそれぞれの食事処で
好きなようにアレンジしたりして。
それはそれで、お店によっては
大変だってところもあったりするみたいですが、
そういうことを、実験的にでも島の人たちが
やり始めたってことが大事で。
島の若い人たちが自分たちで「いか釣り大会」を企画したり、
そういった新しい動きというか、
いろんな企みが動き出している感じですね。
ヤブシタ:林太郎くん主導ではなく、自主的になんですか?
林太郎くん:そうなんです。
だから僕らのプロジェクトの影響なのかはわからないですが、
親戚のおばちゃんに言わせると「もうぜんぜん違う」と。

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イサモト:すごいことですね。
林太郎くん:たとえば役所で働いている人は、普段、白とか黒とか
落ち着いた色の服装で出勤する人たちが多かったんだけど、
ある日おばちゃんが花柄の服を着始めたり(笑)。
そういう風に個人レベルで、
自己主張をし出した話を聞いたりしましたね。
イサモト:面白いですね。
林太郎くん:そういうこともあるんだ〜と思いましたね。
単純な毎日の営みの中での”表現”というか。
そういうのが少しずつですけど、出来始めてるというか。
それが文化に結びついていくきっかけにはなるのかなって。
イサモト:アートイベントって、
全国各地のいろんなところでやってるし、
有名な人が展示すれば、
たくさんの人が観に来てくれるのって当然だと思うんだけど、
甑島の場合、島の人と一緒につくってるような気がするんです。
場所もそうだし、稲刈りを手伝ったり、
島の人も一緒に参加しているような感じがします。
林太郎くん:有名なアーティストがポンときて、
お客さんがバーっとたくさん来て、
その場所の民宿だったり船がパンク状態になる・・・
とかではなくて、もっと個人同士のつきあい。
たとえば、アーティストとファミリーの関係の中で、
アーティストの位置というか、
人間が社会にどういう風に携われるのかなっていうことを、
直に感じたかったんですよね。
僕の中で、アーティストっていうのは、
孤独の中であぁだこうだともがきながら、
閉じられた世界に生きるイメージがあって。
そういう在り方ではなくて、
もっとアーティストとしての有効な生き方というか、
もっと社会に反映できる生き方ができたらいいなって。

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イサモト:甑島でいろいろなことが融合されて、
よりいい「トサカ」が生まれていくという?
林太郎くん:そうですね。
イサモト:まさにトサカづくり(笑)
ヤブシタ:つまり島とアーティストとの掛け合わせ、ですもんね。
林太郎くん:僕の中ではやっぱり「交配」なんですね。
ヤブシタ:ものすごく一貫してるんですね!

     

離島経済新聞 目次

アートフェスで列島をつなぐー甑島の林太郎くんインタビュー

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