島で暮らす人、島が好きな人、豊かな生き方を求める人へ離島にまつわる本を紹介する選書企画 「島Books」。今回は、リトケイの活動をサポートする助っ人チーム「うみねこ組」 のメンバーで、徳之島に暮らす松岡由紀さんがおすすめします。
太郎が見た沖縄の原風景 ヴィジュアル版 『沖縄文化論 忘れられた日本』
ヴィジュアル版 『沖縄文化論 忘れられた日本』
岡本太郎・著
1970年大阪万博テーマ館のプロデューサーであり、「太陽の塔」の製作者として知られる岡本太郎が、原体験となる日本復帰前の沖縄を旅した1ヵ月間の記録。
破天荒な芸術家として知られた岡本は、パリ大学でオセアニアの島々をフィールドに民俗学を修め、文筆家の才能は川端康成や三島由紀夫にも認められていた。
人が紡ぐ踊りや装飾のない「御嶽」にある実在感、そこに忘れられた日本文化の根源を見出している。(中央公論新社/税込1,320円)
選りすぐりの作品228点を収載 『田中一村作品集 [増補改訂版]』
『田中一村作品集 [増補改訂版]』
大矢鞆音・監修/解説 NHK出版・編
1958年、50歳で日本復帰直後の奄美大島へ移り住んだ田中一村。幼少期から絵画の才能を開花させてきた彼が、南の島に辿り着いて感じた島の空気感が、 湿度と彩度を纏って伝わってくる絵画集。
日々慎ましく暮らし、その目に映った奄美の命や風景と対話しつつ、生命を賭して仕上げた作品には、自然への畏敬と慈しみが溢れている。奄美大島にある 「田中一村記念美術館」でふれられる作品群からは、今も作者の存在が感じられる。(NHK出版/税込3,960円)
佐渡島のひとりの女の子の1年間と島の四季 『未来ちゃん』(新装版)
『未来ちゃん』(新装版)
川島小鳥・文/写真
彼女の表情の中に過去の自分や身近な誰かを見出してしまう、 既視感とノスタルジアに襲われる力強いエネルギーを持つ1冊。
被写体を注視してからフォーカスを全体に戻すと、家の建具や使われている食器、彼女が佇む佐渡島の風景との掛け合わせで、作品のさらなる奥行きが感情にダイレクトに訴えかけてくる。
何回ページをめくっても、「あの日の私」 が見つかり、深く懐かしい余韻に浸ることができる写真集。(ナナロク社/税込4,070円)
無為自然への回帰を説く 『無Ⅱ無の哲学 哲学編』
『無Ⅱ無の哲学 哲学編』
福岡正信・著
1913年愛媛県生まれの著者は、科学技術が隆盛する昭和40年代に不耕起・無農薬・無施肥・無除草を基本とした「自然農法」を提唱し、世界中に大きな影響を与えた。
実践から見出した 「無為自然の思想」を説き、個人の生き方から社会システム、 経済活動に至るまでその本質を看破し、既存の価値観を根本から問い直す。50年以上前に自然の本質と人間のあり方を説き、今も世界中にファンを持つ不朽の名作。(春秋社/税込3,080円)
名もなき人々の営みにみる日本村社会の原形『忘れられた日本人』
『忘れられた日本人』
宮本常一・著
「一部の権力者や支配者でなく、 名もなき普通の人々の営みの中にこそ真の歴史がある」という信条に基づき、地球4週分を歩き、1000軒以上の民家に泊まり込んで人々の人生と暮らしを記録した著者。
寄合いや田植え歌、飢饉や世間師の話など、生の充足があふれる語りは、学術記録より文学作品に近い。地域社会の見えないルールの中に貧くも生きる術があった日本の村社会の原形は、 現代社会に多くを訴えかける。(岩波書店/税込1,078円)
紹介者
松岡由紀(まつおか ・ゆき)
東京都生まれ。北大・Yale大学で農学と環境学を学ぶ。5年の海外生活を経て徳之島と出会い人生最大のCulture shockを受け移住。伊仙町役場に入庁し直売所百菜、地方創生、地域教育に携わる。自家農園ではアボカド・アテモヤを育てながらヤギ・鳥・猫達と半農半公務員生活。尊敬する作家は小林秀雄と三島由紀夫。