島にまつわる本を紹介する島Books。今回は、大阪・肥後橋で小さなアート系書店を営む石川あき子さんの本棚より、島の記憶を描く5冊を紹介します。
※この記事は『季刊ritokei』42号(2023年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
いま書き残す、島の人たちの生活史『水納島再訪』
住民わずか20人程の沖縄本島北部の小さな離島、水納島(みんなしま|沖縄県本部町)。本島から船で15分、夏の間は海水浴客であふれる。縁あって島を繰り返し訪れるようになった著者が、コロナ禍のオフシーズンに島で過ごし聞きとった、離島の日々の苦労とそのなかでの楽しみ、戦争と開発の歴史、自然の美と厳しさ。
島人たちの言葉から、外部の力に翻弄され変わり続けてきた島のこれまでと今を細やかに描く。
(講談社/税込1,760円)
人と風景が物語る島が重ねた時間『見果てぬ海』
世界を旅したあと故郷の長崎の島に戻った写真家は、日本でもっとも離島が多い長崎の海に散らばる島々の撮影を始める。質素な木造のカトリック教会、仏教徒の集落、神社、隠れキリシタンの信仰を引き継ぐ人。
静かな島の澄んだ空気が伝わってくる美しい写真と島の人々から聞いた話や、自身や家族の体験を紡いだエッセイには、日本の辺境である島々の、海を通じて世界に開かれていたかつての姿が見え隠れする。
(赤々舎/税込4,950円)
「南洋群島は親日的」の奥にある複雑さ『南洋と私』
屋久島(やくしま|鹿児島県)のビーチで読んだ中島敦の小説をきっかけに“南洋”に興味をもった著者。日本統治下の南洋に暮らした人々とその足跡を追って、サイパンから八丈島(はちじょうじま|東京都)、沖縄へと島を辿る。サイパンの公学校で日本語を学んだ先住民の子どもたち、新天地を求める親に連れられ日本の離島から南洋へ渡った子どもたち。
凄惨な時代を生きのびた一人ひとりの記憶・記録と感情が交錯し織物のように戦争の姿を描きだす。
(中央公論新社/税込924円)
伝承歌はタイムカプセル『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』
曲は琉球音階、詞は大和という屋久島に伝わる幻の歌「まつばんだ」。奄美群島の沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)が北限とされる琉球音階がはるか北の屋久島で歌われるのはなぜか。
これまでも伝承歌にスポットをあててきた著者が島育ちの歌い手と移住者である編集者とともに、地元の人の話を集め、島の聖地を訪れ、先達の調査の助けを得て、この歌に刻まれた祖先の記憶=ソングラインを紐解いていく。
(キルティブックス/税込2,640円)
音で残す島の暮らし『うみなりとなり』
絶海の孤島、南大東島(みなみだいとうじま|沖縄県)に惚れ込んだサウンドスケープとフィールドレコーディングの2人組がつくった、島の暮らしに密接した音を収録したCDと“音絵”冊子、音の解説入りの録音場所マップのセット。
風がサトウキビを揺らす音、農作業や定期船の音、鍾乳洞や生き物たちが奏でる音、雨がトタン屋根を打つ音、そして祭り。CDを再生すれば、時間と場所を超えて南大東島の音の風景がひろがる。
(Marie Iwata,Eisuke Yanagisawa/税込2,400円)
紹介者
石川あき子さん
1999年から大阪市内の美術書店で出版や国内外への卸にも携わり、2004年に大阪・肥後橋にCalo Bookshop&Cafeをオープン。近年はインドネシアのインディプレスに興味あり。『水納島再訪』を読んですぐに水納島へ行きました。