つくろう、島の未来

2024年12月07日 土曜日

つくろう、島の未来

島にまつわる本を紹介する島Books。今回は、宜野湾市で沖縄文化を発信するカフェを営む編集者三枝克之さんの本棚より、心に島を描く5冊を紹介します。

※この記事は『季刊ritokei』41号(2023年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

島では現実は物語になり、物語は現実となる『島とクジラと女をめぐる断片』

『島とクジラと女をめぐる断片』 アントニオ・タブッキ・著 須賀敦子・訳

北大西洋に実在するポルトガル領・アソーレス諸島。かつて捕鯨基地として栄えたこの島々の物語を『インド夜想曲』で知られるイタリア文学の巨匠が、手紙、聞き書き、伝記、ルポ、法規、掌篇小説などさまざまなテキストを織り交ぜながら綴る。
どこまでが記録で、どこからがフィクションなのか、読者にはその境が分からなくなるが、この手法自体、空と海の狭間に漂う“島”を描くにはふさわしい。
(河出書房新社/税込814円)

島に流れる時間が私小説を神話に変える『南洋通信』

『南洋通信』 中島敦・著

1941年、著者は南洋庁の官吏としてパラオに赴任、日本統治下のミクロネシアの島々を訪ね歩く。本書にはその間に日本にいる家族に送った手紙と南島に想を得た掌篇を収録するが、出色は後者。おそらく実際の出来事を昇華した私小説の類だろう。
しかしそこに描かれる南洋の風土や島人の習俗は、午睡の微睡みの中で先祖が語る、神話のようだ。その一篇「寂しい島」は、ぜひ絵本化したい作品。
(中央公論新社/税込990円)

心に孤島を抱く、イスロマニアたちへ『増補改訂版 奇妙な孤島の物語』

『増補改訂版 奇妙な孤島の物語』 ユーディット・シャランスキー・著 鈴木仁子・訳

副題に「私が行ったことのない、生涯行くこともないだろう55の島」とある。
陸の孤島・東ドイツで育った地図フェチの著者が、実在する辺境の島々の綿密な地図を描き、各島にまつわる実話を紹介したビジュアルブック。それら事実の物語はどれを取っても小説より奇なり。
孤島は世界の縮図であり、演劇的な舞台空間。むき出しの人間性が凝縮され、必然的に物語となる。
(河出書房新社/税込3,190円)

発見されても実在しなかった、うたかたの島『地図から消えた島々』

『地図から消えた島々』 長谷川亮一・著

海図上にあっても実在が確認できない島、疑存島。戦前までは「中ノ鳥島」「グランパス島」など、日本近海や北太平洋にも多くの疑存島があった。本書はそれらの島々の“発見”から“消滅”までを辿る。
副題「幻の日本領と南洋探検家たち」が示すようにその背景にあったのは、帝国日本の南進への野望と一攫千金をもくろむ冒険商人たちの欲望。幻の島は“山師”ならぬ“海師”たちの夢の跡なのだ。
(吉川弘文館/税込1,980円)

島が失われるごとに、一つの世界が消える『不思議な島旅』

『不思議な島旅』 清水浩史・著

副題は「千年残したい日本の離島の風景」。島民が一人だけになった島、失われた島文化の名残、かろうじて灯火を継いでいる島の風習。著者はそんな「島が生きている証し」を求め歩く。
島には島の数だけの文化、歴史、風習、知恵がある。島はそれぞれが固有種であり、完結した世界だ。島が無人になること、暮らしの記憶が消えることは、この世から世界が一つ消えることにほかならない。
(朝日新聞出版/税込869円)


紹介者

三枝克之さん
編集者、文筆家。2003年より沖縄本島に暮らし、05年に宜野湾市で「CAFE UNIZON」をオープン。ここ数年は「チュラネシア」のコンセプトで沖縄と台湾の繋がりを調査中。島の原体験は、母の生まれ島・沖永良部島。

     

離島経済新聞 目次

島Books&Culture

関連する記事

ritokei特集