つくろう、島の未来

2022年01月18日 火曜日

つくろう、島の未来

※この記事は『季刊ritokei』36号(2021年11月発行号)』掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

緑の小島を彩る花や生き物、人の笑顔
海に飛び込むように感じたままを描くカラフルな彼女の話

鹿児島と沖縄の間、奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)の南端にある古仁屋(こにや)からフェリーに乗り、加計呂麻島(かけろまじま|鹿児島県)の西阿室(にしあむろ)集落へ。この作品の主人公・ちゃずさんはユーモラスな画像投稿がSNSで人気を博し、約10万人のフォロワーを抱え、書籍化もされている人気イラストレーターだ。

夫と東京で暮らしていたちゃずさんは、夫との話し合いを経て期間限定の島暮らしを始める。そんな彼女の存在をラジオの放送でたまたま耳にした俳優の国武綾さんは、その暮らしに強く心惹かれ島を訪れる。そして未経験ながらドキュメンタリーを撮ろうと決意し、本作『夫とちょっと離れて島暮らし』が生まれた。

自然をモチーフに絵を描くのにも、東京では想像しながら描いていたというちゃずさん。島で自然の色や形の美しさに感動し、その気持ちのまま絵を描けることを喜ぶ。幸せそうに絵を描き、島の人たちと世間話を楽しむ。

なじみの飲食店には彼女のギャラリーコーナーができ、ダイビングショップや宿からの注文で壁画や襖絵も制作。古仁屋で開いた個展には全国からSNSのフォロワーが訪れ、1年限定のつもりで始めた島暮らしはもう1年延長することに。

ちゃずさんは今は亡き父親との間にいい思い出がないと感じていたが、島暮らしを重ねるなか、周囲に溢れる自然の音や匂いから、子どもの頃に父親とキャンプを楽しんだ記憶が思い出されてきたという。誰もが忙しそうな都会では、悩みを抱え込み、頑なになることもあったと語るちゃずさん。けれど島には、綺麗な海や山々を被う緑がある。港に入ってきて悠々と泳ぐウミガメや庭に遊ぶ小鳥を眺め、ご近所さんとゆるい会話を楽しむ時間は、ちゃずさんをホッとさせてくれたようだ。

2年と少しの島暮らしを経て、自分が本当にしたいことに気付いたちゃずさんは、夫の暮らす東京へ戻る。旅立つ彼女に集落一同からの贈り物は、寄せ書きされた白いつなぎと真っ赤なウイッグ。折り紙の首飾りもかけてもらい、船に乗る。見送る人たちと彼女をつなぐ紙テープは、お互いにちぎれるまで握りしめられていた。

温かく見守られての船出は、ちゃずさんの描く絵のようにカラフルで、彼らと共有したさまざまな思い出のようでもあり、旅立つ人の幸福を願う皆の想いが込められているようにも感じた。

心が疲れて迷子になったら、立ち止まって深呼吸したくなる。そんな時、側に居て欲しい人や身を置きたい場所はどこだろう。そんな場をつくることの大切さを島で見つけたからこそ、ちゃずさんは帰ったのではないか。映画を見終えて、そんなことを考えた。

(文・石原みどり)


夫とちょっと離れて島暮らし
出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島西阿室集落のみなさん、けんちゃん他
監督・撮影・編集・ナレーション:國武綾
制作・配給:Amami Cinema Production

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