※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
生徒1人だけの始業式 島がにぎわった盆休み
雪と寒さに耐える冬
季節は巡り、また島にあたたかな春が来る
山形県の沖合にぽっかりと浮かぶ飛島(とびしま|山形県)。かつては遠洋漁業で栄え、一時は1,800人が暮らしていた島には、現在、約140人が暮らしている。平均年齢は70歳台。たった1人で始業式を迎えた島の中学生が翌春、卒業式を迎えると飛島の学校は休校状態となる。
この映画は、飛島唯一の中学生の少年が卒業を迎えるまでの1年間を追いかけたドキュメンタリーだ。ナレーションは入らず、人々の語りと映像だけで島の日々が綴られる。
教師と少年が対話するように1対1で進む学校の授業、理想の介護を実現しようと島に移住しデイサービスや宅配業を営む少年の両親や、トビウオ漁を営む老夫婦、会社を興し地域づくりに取り組むUIターンの若者たちの様子など、島で暮らす人々の日常がゆっくりと映し出される。
島の人たちは、よく働く。車が入れない細い石段を、荷物を抱えて配達する少年の母。船に乗り、網にかかったタコを揚げる漁師の足腰や、夜も明けきらぬうちから水を汲み、家中を拭き清めるおばあちゃんの手、幾たびも繰り返されてきたであろう暮らしの動作はリズミカルで、目が引きつけられる。
暴れるタコをぶつ切りにするおばさんの楽しげな手つきにも、細い筍の皮を傷つけないようやさしく剥いていくおばあちゃんの指先にも、島暮らしの幸がこぼれんばかりに宿っている。
「昭和初期は島にあるものだけで暮らしたのよ」と語り、娘時代から通う山道を、曲がった腰で杖をつきながら登るおばあちゃんや、久しぶりに港に入る息子の船を、背伸びをするように待ちわびるおばあちゃんの後ろ姿には、彼女たちが生きてきた歴史が漂う。
少年は毎日、4人の教師と席を並べて給食を食べる。空き教室には座る人のいない椅子が並んでいる。豊漁を願う祭りで祈りを捧げる宮司は、島で1人だけになってしまった。思うように魚が獲れなくなり、長年乗った漁船を手放してしまった漁師。港に浮かべた小型船は寒さでなかなかエンジンがかからない。
重機で除雪を行うUターンの若者たちは、かつて、親たちに「島に帰ってくるな」と言われて育ったという。そんな彼らは、少子高齢化が進む島の先行きを厳しく見つめながらも、仲間と力を合わせて島の暮らしを切り拓いている。
春が巡り、暖かな陽光のもと漁師夫婦は小舟を浮べ、少年は船に乗り、大漁旗と太鼓の音に見送られて島を巣立っていく。映画の幕が下りても、島の営みは続く。今日も島で汗を流す彼らと、それぞれの場所で生きるすべての人に幸多かれと、島の太鼓が胸に響く。
(文・石原みどり)
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『島にて』
配給:東風
監督:大宮浩一、田中圭
製作:『島にて』製作委員会
2019年/日本/99分/DCP/ドキュメンタリー
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東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。