島に暮らす人、島が大好きな人、豊かな生き方を探す人などリトケイ読者におすすめしたい選書 「島Books」。今回はボランティアコミュニティ「うみねこ組」 のひとり海野智洋さんのおすすめ。
※この記事は『季刊ritokei』49号(2025年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の公式設置ポイントにてご覧いただけます。
大人たちはいま何を考えるべきか『遊びと利他』
『遊びと利他』北村匡平・著
「人に迷惑をかけないように」との考え方が行き過ぎた管理主義を招いて、街中の公園はずいぶん窮屈な場所になってしまった。
筆者は「利他」をキーワードに、「あそび=余白」のある遊び場のあり方をフィールドワークから考察。環境や他者との関わりに触発され、ルールを自力で編み出していく原体験となるような遊びを「生きるすべ」として次の世代にプレゼントする。(集英社/税込1,265円)
島旅の船上から探したくなる『愛しの灯台100』
『愛しの灯台100』不動まゆう・著
荒波のそばにすっくと立ち、航行の安全を見守り続ける灯台。日本には3,000を超える灯台があるそうだが、本書では離島の25基を含む100基の灯台がカラー画像で紹介されている。
灯台愛があふれて止まらない著者の知識に圧倒されながら、形状の違いや周囲の風景に絶妙に溶け込む様子がわかる写真ひとつひとつを眺めているだけでも楽しい。(書肆侃侃房/税込2,090円)
『フェーズフリー「日常」 を超えた価値を創るデザイン』
『フェーズフリー「日常」 を超えた価値を創るデザイン』佐藤唯行・著
災害への備えは大事だとわかってはいるけど忙しいし面倒だしついつい後回し・・・ そんな人も多いのでは?
筆者は「日常」「非日常=災害発生時」というフェーズの垣根を取り払う 「フェーズフリー」という概念を提唱、日常的に役立ち、いざというときにも人を救うデザインの製品や施設の事例を紹介。
まちづくりの基本概念に採用する自治体もあるとのことで、「自助」 「共助」を日常に組み込むヒントにしたい。(翔泳社/税込 1,870円)
『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」 の人々』
『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」 の人々』鹿子裕文・著
誰も逃れられないはずの老いを邪魔なもの扱いして見えないところへと追いやる社会は生きづらい。本書は、人がその人らしく命をまっとうできる介護施設をつくるために奮闘した人々の実話。
資金稼ぎに奔走する施設の人々のエネルギーに著者や周囲が巻き込まれる様子に思わず笑い、そして圧倒される。キレイゴト・絵空事に終わらない場づくりの迫力を感じる一冊。(筑摩書房/税込924円)
多くの人が活躍できる包摂社会とは?『みんなが手話で話した島』
『みんなが手話で話した島』ノーラ・エレン・グローズ・著 佐野正信・訳
18世紀から20世紀初頭まで、聾者(ろうしゃ)と健聴者の誰もが手話で会話する島がアメリカに実在した。
著者は島民への聞き取りと文献調査を重ね聞こえないことがハンディキャップにならず、誰もが社会にまじりあいながら働き、結婚し、子どもを育てていた島の様子を活き活きと描き出す。
人口減少が顕在化しつつある今こそ考えたい、豊かさについての貴重な実例。(早川書房/税込 1,188円)
紹介者
海野智洋(うみの・ともひろ)
東京の広告会社勤務。2017年に仕事で訪れた徳之島で離島の魅力に目覚め、日本中に「My 離島」を見つけたくてリトケイうみねこ組に参加。島の端っこで独り海を見ながら好きな本を読むことと、島の人たちとワイワイ酒を酌み交わすことを夢みながら、サラリーマン稼業に日々邁進中。好きな作家は太宰治、久生十蘭、堀江敏幸