つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

世界自然遺産登録の候補地として注目される奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)は、島内の全市町村で地元コミュニティFM局を聴取できる「ラジオの島」でもある。草分けとなった「あまみエフエム ディ!ウェイヴ」に続き、島内各地で次々とコミュニティFM局が開局し、隣島の徳之島(とくのしま|鹿児島県)でもミニFM局が開局するなど、あまみエフエムが開局して10年の広がりを追った。

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徳之島北部・ムシロ背の海岸風景

「ラジオの島・奄美大島」では日本初のラジオ活用も

奄美大島で続々とコミュニティFMの開局が可能となった背景の一つには、「あまみエフエム」開局にも関わった地元企業・奄美通信システムの存在がある。

奄美通信システムは、通信無線、防災無線、放送関係の送信所などの施設の設置やメンテナンスを行う専門企業だ。

山が多く地形の複雑な奄美大島では、NHKや民放テレビ局の中継所が数多く設置されており、奄美群島最南端の与論島(よろんじま)までをカバーする放送電波の中継地にもなっている。そうした施設の設置や保守管理には、地元の地形を知り尽くした技術者の存在は欠かせず、2004年に第11回NHK電波功労賞を受賞している。

コンテンツづくりや音響を得意とする奄美エフエム運営団体・特定非営利活動法人ディの代表理事 麓憲吾(ふもと・けんご)さんと、放送関連の技術面を得意とする奄美通信システムの出会いが、奄美大島初のコミュニティFM局の開局を支え、「あまみエフエム」の活躍と奄美通信システムの技術力が、その後の「エフエムうけん」「エフエムせとうち「エフエムたつごう」開局につながった流れだ。

奄美通信システムが「エフエムうけん」のために独自に開発した、緊急時に「J-アラート(※)」を自動で放送に割り込ませるシステムは、日本初の試み。「エフエムうけん」での導入後、奄美大島内のみならず、鹿児島県本土の垂水市(たるみずし)など、島外各地のコミュニティFM局でも採用されているという。

※J-アラート……「全国瞬時警報システム」の略称。通信衛星と市町村の同報系防災行政無線や有線放送電話を利用し、住民に緊急情報を伝達するシステム

奄美通信システム代表の椛山廣市(かばやま・ひろいち)さんは、「近年、防災意識の高まりによって、放送機材などのハードに対しては国や自治体などで補助制度が設けられ、コミュニティエフエム局の開設がしやすくなってきています」と語る。

広がる「ラジオの島」の萌芽

地元のコミュニティラジオを防災や地域活性化につなげてきた「ラジオの島」奄美大島の影響は、同じ奄美群島内の他の島でも広がりを見せた。

奄美群島の南部に位置する、人口約13,000人(※)の沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)の和泊町(わどまりちょう)では、2011年に「NPO法人エフエム沖永良部」(77.8MHz)が立ち上がった。後に廃業しているが、2014年まで町の中心街でミニFM放送が続けられていた。

※平成27年国勢調査

沖永良部島の海岸風景

また、奄美大島の南に浮かぶ人口約19,000人(※)の徳之島(とくのしま|鹿児島県)では、2014年に島の住民10人が集まり「住民有志らでつくる徳之島FM普及会」を発足。島内でインターネット接続事業を提供する徳之島ビジョン株式会社の親会社・関西ブロードバンド株式会社(神戸市)が放送機器の提供と運営費をまかない、2014年9月に「徳之島ミニFM」(76.4MHz)を開局した。翌2015年に特定非営利活動法人徳之島晴天ネットを設立し、運営にあたっていた。

※平成27年国勢調査

朝5時に方言で元気な掛け声のかかる「島口ラジオ体操」で始まり、島の生活情報や、島在住のボランティアパーソナリティによる自主制作番組を放送。台風などの災害時には注意を呼びかけていた。

ミニFMのため、ラジオ電波の放送範囲は徳之島町(とくのしまちょう)にあった放送局周辺のみだったが、各世帯に設置された防災用IP告知端末を活用し、インターネット経由での放送も行っていた。しかし、島内にはIP告知端末が普及していない地域もあったため放送は全島に及ばず、高額な端末の普及費用や開局後の運営費用などがネックになり、2016年4月末から放送を休止している。

徳之島の北部は奄美大島の「エフエムせとうち」の放送電波が届くため、同局が提携している「あまみエフエム」の一部番組を聴くことができる。「徳之島ミニFM」のボランティアパーソナリティの一人として活動を支えた丸野清さんは、「皆で島を盛り上げようと頑張っていたので、徳之島の放送休止は残念。いつも奄美大島から届く放送を聴いて、うらやましく思っています」と語る。

「徳之島ミニFM」ボランティアパーソナリティの一人、丸野清さん

つながるコミュニティFM局の輪

近年、島々のコミュニティラジオ局の輪がつながり、新たな活動の広がりが生まれ始めている。

2015年3月、「あまみエフエム」と沖縄県のコミュニティFM放送局らが協力し、FMラジオ放送の訓練を行う特別番組「琉球弧防災ネットワークラジオ311」が放送された。

番組では沖縄県の「FMよみたん(中頭郡読谷村|なかがみぐんよみたんそん)」が中心となり、「エフエム那覇(那覇市)」、宮古島の「エフエムみやこ(宮古島市)」、「あまみエフエム」が連携して必要な防災情報を共有する練習が行われた。

4局は「琉球弧メディアネットワークを立ち上げる会」として連携。台風などの自然災害時にスムーズに防災情報の共有を行い、災害時に放送が行えなくなった場合に連携する放送局同士が助け合い、安定した情報配信が行われるようネットワーク構築を目指している。

「あまみエフエム」代表の麓さんは、「奄美大島の中でも、島内のコミュニティFM局同士で、番組の提携や情報共有など連携していこうと呼びかけています」と語る。

奄美大島の北に浮かぶ種子島(たねがしま|鹿児島県)では、NPO法人ガジュマル種子島が、コミュニティFM局「FMたねがしま」の開局準備中。「あまみエフエム」や奄美通信システムが、アドバイザーとして種子島に招聘(しょうへい)され、コンテンツづくりや放送技術面でのサポートなど、開局に向けた支援を行なっている。

各地で誕生するコミュニティエフエムが、地域の安心安全を守り、地域に根ざした文化とコミュニティの醸成の場や、島外とのコミュニケーションツールとして活用されるよう、各局の取り組みに期待がかかる。

参考資料:
コミュニティFMの災害放送におけるクロスメディア活用の可能性と課題〜2010年・奄美豪雨水害を事例として〜/東京大学大学院情報学環 古川柳子(2011年)
ラジオの島・奄美-「あまみエフエムから始まる島の自文化語り」/中京大学 加藤晴明(2017年)


【関連サイト】


あまみエフエムディ!ウェイヴ


FMよみたん


エフエムみやこ


エフエム那覇


FMたねがしま設立プロジェクト

     

離島経済新聞 目次

ラジオの島 奄美大島

世界自然遺産登録の候補地として注目される奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)は、島内の全市町村で地元コミュニティFM局を聴取できる「ラジオの島」でもある。草分けとなった「あまみエフエム ディ!ウェイヴ」に続き、島内各地で次々とコミュニティFM局が開局するなど、あまみエフエムが開局して10年の広がりを追った。

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