世界自然遺産登録の候補地として注目される奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)は、島内の全市町村で地元コミュニティFM局を聴取できる「ラジオの島」でもある。草分けとなった「あまみエフエム ディ!ウェイヴ」に続き、島内各地で次々とコミュニティFM局が開局するなど、あまみエフエムが開局して10年の広がりを追った。
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写真提供:あまみエフエム
1,800人の村に誕生した公設民営ラジオ局「エフエムうけん」
1市2町2村の奄美大島内で最も人口の多い奄美市で2007年に開局した「あまみエフエム ディ!ウェイヴ(77.7MHz)」に続き、2010年には奄美大島南部にある人口約1,800人の宇検村(うけんそん)で「エフエムうけん(76.3MHz)」が放送を開始した。
「エフエムうけん」は全国初となる公設民営ラジオ局だ。開局の背景にあったのは、村が全戸約1,000世帯に整備していた防災行政無線の老朽化。一機あたり5万円と高価な受信機を更新し、その後に発生が予想される故障やメンテナンス費用を負担するよりも、コミュニティラジオ局を開局し、防災と地域活性化に役立てることが狙いだった。
ラジオはケーブルテレビなどの有線放送とは異なり、電波法上、自治体による放送局の直営はできない。そこで、村役場が主体となり、ラジオ局の開局・運営母体となる「NPO法人エフエムうけん」を設立。元法務局の支所だった建物を村が譲り受け改修。機材を入れて放送局が誕生した。
高い山に囲まれた宇検村は、長い間、一般の放送局の電波が届かない地域だった。そのためラジオ受信機がない家庭も多く、村が一部費用を補助し、各戸1,000円の負担で受信機の普及を図った。
写真提供:エフエムうけん
放送局の整備費用は2,000万円。年間の運営費300万円は村から交付される補助金で賄い、役場職員が勤務時間外でボランティアパーソナリティとして関わる。
村民が出演するトーク番組「ゆんきゃぶりー(おしゃべり)」や「アンマー(お母さん)の知恵袋」などの自主制作番組のほか、「あまみエフエム」や、後述の「エフエムせとうち」、東京・江東区のコミュニティエフエム「レインボータウンFM」で出身ミュージシャンらが運営する奄美関連番組、鹿児島の「MBCラジオ」、「エフエム鹿児島」の中継放送を行う。
村の子どもたちに大人気なのが、村内に5校ある小学校の「学校便り」を読み上げる番組だ。子どもたちは日中ラジオを聴くことができないため、CDに焼いて学校へ配布し、給食の時間に校内放送している。
リスナーである子どもたちから番組への音楽リクエストも多く、頻繁にラジオネームが呼ばれる常連もいるという。番組を通じて、地域内でも交流する機会の少ない距離にいる同世代を身近に感じる機会が生まれている。
また、島外のリピーターがパーソナリティを務める番組もある。昆虫採集が好きで奄美大島に年1回のペースで通い続けて9年になるという渡部勝也さんは、2014年から「エフエムうけん」で「むしのざれごと@ラジオ」を担当。元々声優をしていた渡部さんは、旅行で訪れた奄美大島で「あまみエフエム」や「エフエムうけん」にゲスト出演。その縁で「エフエムうけん」でトーク番組を持つことになり、2017年9月で3周年を迎える。
渡部さんは「島のリスナーから直筆のファンレターを10通以上いただきました。遠く離れた距離にいても、島の人たちの心の温かさを感じながら番組をつくっています」と語る。ラジオのコミュニティは、遠く東京まで広がっている。
3つの2次離島を持つ瀬戸内町の「エフエムせとうち」
続く2012年には、人口約9,000人を有する奄美大島南部の瀬戸内町(せとうちちょう)で、島内3局目となる「エフエムせとうち(76.8MHz)」が開局した。宇検村をモデルに、瀬戸内町がスタジオと放送施設を整備。NPO法人エフエムせとうちが、地元ケーブルテレビ局「瀬戸内ケーブルテレビ」のバックアップを受けながら運営している。
瀬戸内町は奄美大島南部地域のほか、加計呂麻島(かけろまじま)、請島(うけしま)、与路島(よろしま)の2次離島を有するため、送信所を本島側・加計呂麻島・与路島の3カ所に設置。受診ラジオ端末は町の負担で無償配布し、約55,000世帯ある町内全戸でラジオが聴取できる体制が敷かれた。
番組構成は行政・防災情報番組や、地域おこし協力隊などがパーソナリティとして出演する「きゅうだろ きばりんしょろや〜(今日も頑張っていきましょう)」や町民が企画する様々な番組に加え、「あまみエフエム」、「エフエムうけん」、前述の「レインボータウンFM」の一部番組、「MBCラジオ」などの中継放送も行っている。
図書館と歴史資料館を兼ねる「瀬戸内町立図書館・郷土館」が制作する番組「ブックブックさんみじゃれ(散らかった)」「せとうちなんでも探検隊」は、開局以来続く人気番組だ。
また、瀬戸内町出身のミュージシャン里 恵(さと・めぐみ)さんがパーソナリティを務める「サトメグ放送局」は、里さんが暮らす宮城県から島に音源を送付。「エフエムせとうち」と「あまみエフエム」で放送されている。
独自の番組編成を行う「エフエムたつごう」
さらに2014年、約6,000人の人口を有する龍郷町(たつごうちょう)で「エフエムたつごう(78.9MHz)」が開局。奄美大島のラジオ局は4局となり、島内の1市2町2村全てでコミュニティFMが放送されるようになった(※)。
※大和村(やまとそん)は「あまみエフエム」が放送されている。
「エフエムたつごう」の運営は、島内で通信無線、防災無線、放送関係の送信所などの施設の設置やメンテナンスを行う専門企業の株式会社奄美通信システムと、同社代表の椛山廣市(かばやま・ひろいち)さんが出資して設立した「NPO法人コミュニティ らじおさぽーた」が担当。
龍郷町は奄美市北部の笠利(かさり)地区と中心地の名瀬(なぜ)に挟まれる立地にあり、「あまみエフエム」と放送エリアが一部重なるため、「エフエムたつごう」では、「あまみエフエム」と提携せず、独自の番組編成を工夫している。
写真提供:エフエムたつごう
特徴は音楽番組の比率の高さ。インターネット経由でリクエストを受付けて順番に放送する音楽番組「すぐリク」は、独自に開発したシステムでリクエストの受付から楽曲送出までが完全自動化され、若者に人気だという。
自主制作番組のほか、「エフエムうけん」「エフエムせとうち」との共同制作番組、「レインボータウンFM」の一部番組を放送。町民がパーソナリティとなって発信する各種番組も、毎日放送している。
シマ唄の歌手による民謡番組や、医師による医療情報番組、プロサーファーによるマリンスポーツ関連番組、懐メロ同好会による昭和の歌番組など、バラエティに富んだ番組ラインナップが、町内に暮らす人材の豊かさを物語る。
(記事 後編に続く)
参考資料:
コミュニティFMの災害放送におけるクロスメディア活用の可能性と課題〜2010年・奄美豪雨水害を事例として〜/東京大学大学院情報学環 古川柳子(2011年)
ラジオの島・奄美-「あまみエフエムから始まる島の自文化語り」/中京大学 加藤晴明(2017年)
【関連サイト】
あまみエフエムディ!ウェイヴ
エフエムうけん 763ブログ
NPO法人 エフエムせとうち76.8MHz
エフエムたつごう