つくろう、島の未来

2020年09月24日 木曜日

『与論島の山さん 薬草に捧げた人生と幸せな終末へのメッセージ』
山 悦子 2019年10月/KADOKAWA 1,500円+税

※この記事は『季刊リトケイ31号』「島と世界とSDGs」(2020年2月発行)掲載記事です。

はるか日本の南にある、サンゴと花の美しい島。そこに行けば命を守る暮らしがあり、誰もが家で家族に看取られ魂が先立つ島。この本を読み、与論島を拠点に活動する、かりゆしバンドの歌「たましいの島」が心に浮んだ。

昭和16年、鹿児島県与論島に生を受け、今も島で暮らす薬草名人・山悦子さんは、島外で子育て真最中の30歳の時に脳腫瘍を患う。経済的な理由で手術を断念したが、そのとき心にあったのは死への恐怖より「納得して死にたい」との思いだったという。

まだ幼い2人の子ども達との思い出をつくろうと故郷の島に帰り、幼少期より母から教わった薬草を活用した食事を取り入れながら日々を暮らすなか、突然に病は去った。以来、山さんは45年以上にわたり、島内に100種類以上ある薬草の研究に取り組んできた。この本は、そんな山さんに出会い心動かされた様々な人々の力によって編まれた。

沖縄と交易し、薬や病院のなかった与論島へ多くの薬草を持ち帰った山さんの祖父、その知恵を受け継いだ母、そして山さんへとつながる家族の薬草との歩みに始まり、山さんの庭で栽培される薬草や、ジュースやサラダなど手軽に薬草を取り入れるためのレシピも、カラー写真入りで紹介されている。

文中で山さんが繰り返し語る、自然の恵みに感謝し先祖を敬い感謝する心は、周りの人をいたわり助け合う島人の生き方に重なる。読み進むにつれて、薬草だけでなく島の暮らしこそが、様々な問題を抱えた現代社会を健やかに生き抜くための叡智に満ちていることに気づかされる。

若くして余命宣告を受けた山さんが死を恐れなかった背景には、島に受け継がれる死生観があった。死者の魂が亡くなった場所に宿ると考えられてきた与論島では、自宅で死を看取る割合が6割(※)を超え、全国でも突出している。

(※ 2015年厚生労働省統計。与論町61.7%、全国平均12.7%)

人が息を引き取る姿を見せることは見送る下の世代へ向けた命の教育となり、先祖が家の守り神となることで死は忌むべきものではなくなる。

巻末の特別インタビューで、長年与論島で医療に携わる古川医師が、島の終末医療では強い薬で感覚を鈍らせることをしないため、自分の死期を自覚できる人が多いのではないかと語っている。医師は多くの人を看取るなかで、島の文化や本人の意向を尊重することが大切だと教わったという。

死について考えることは、よりよく命を扱うことにつながる。人がお互いをかけがえのない存在として認め合い、限りある生をせいいっぱい慈しみ幸せな終末を迎えるために、命との向き合い方を島に学びたい。

(文・石原みどり)

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