- 『塩の道』
宮本常一 著(講談社|1985年|820円+税)
暮らしに寄り添い文化の基層を探る。歩く人が日本の原点に迫る
山口県周防大島(すおうおおしま)生まれ、日本を代表する民俗学者・宮本常一。その生涯の多くを旅に費やし、離島や山村、農漁村など半世紀にわたって約三千もの村々を訪ね歩き、膨大な記録を残している。その見聞と体験を通して日本文化の基層を探り続けた宮本は、まさに稀代の“フィールドワーカー”であった。
民俗学者・田村善次郎は、宮本のことを「世間師と呼ぶにふさわしい人」と評している。“世間師”というのは、宮本の故郷山口県でよく聞かれる言葉で、「広く旅をして広い見聞を持ち、世間のことを良く知っているだけでなく、ある見識を持っていて、事ある時には良き相談相手となり、周りの人に役立つ人」というニュアンスで使われるそうだ。宮本にとって民俗調査というのは、人々の暮らしのなかに入り、若者から年寄りまで一人一人が持つ“人の歴史”を掘り起こしていくことだった。宮本は民俗学者でありながら、時に良き相談相手となり、農業経営や技術の指導者となり、そして頼りになる“友人”の一人となっていたのだろう。
本書には、宮本が最晩年の講演会で語った「塩の道」「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」の3篇を収録。日本人のきめこまやかな文化と食との繋がりを鋭い考察力で描いている。表題作「塩の道」では、塩に見る人々の生活の知恵、暮らしの変化を紐解いていく。最も身近で暮らしに欠かせない塩は、その歴史となると昭和の始めまで目立って研究されていなかったという。本篇では、塩の流通の歴史や製塩法の発達を追いながら、今ではほとんど消えかけてしまった“塩の道”をたどる。
たとえば、どのようにして山間部の人が塩を手にしていたのか……。
各地で様々な工夫がなされていたが、特に興味深いのは、瀬戸内海地方の山で暮らす人々の話。彼らは雑木を焼いて作った灰を持ち、海岸の村々でそれを塩と交換していた。灰は軽いため持ち運びも容易で、一度に大量に運べるという利点がある。海岸の人はというと、麻をさらすのに灰のアクを利用していたというから、実に合理的な方法だと言える。
塩を通して人々の暮らしを見ると、いかに先人たちが知恵を絞り、塩を得るために手段を尽くしていたのかがわかる。他2篇でも、日本各地をくまなく歩きまわった宮本ならではのエピソードがあり、学術書としてのみならず読み物としても非常におもしろい。
生涯にわたってフィールドワークを重ね、人々の心に仕舞われていた“生きた物語”を記録し続けた、宮本常一。そのまなざしを通して見る日本は、実に表現豊かで、知恵と工夫にあふれ、土くさくもあたたかい。日本人とは何か、生きるとは何かを考えさせられる名著である。
(文・北坊あいり)



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