※この記事は『季刊ritokei』35号(2021年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
いま、地球の海で何が起きているのか
数億年を生きるサンゴのささやきに耳をすませる
「海は神聖な場所。いただく場所。全ての食べ物は海からやってきたという教えがあります」。久高島(くだかじま|沖縄県)で海ぶどう養殖とガイド業を営む男性は、サンゴ礁に集まる魚を捕り、食べるのが島の文化だと語る。この映画は、世界各地でみられるサンゴ礁の白化現象と、サンゴの研究や保全に取り組む人々の声を取材したドキュメンタリーとして、豪州・日本・中国の合作で制作された。
日本の研究者はサンゴを「地形をつくる生物」だと指摘する。骨格を発達させ海中に形成するサンゴ礁は、小さな生き物の格好の棲みかとなり、それを餌とする魚が集まり海に生命の豊かさをもたらす。卵を産み繁殖する動物でありながら、細胞内に藻類を共生させ、光合成によって栄養と酸素を生み出す植物のような側面をも備えるサンゴ。その生態は、興味深い。
現在、世界的に問題視されるサンゴ礁の白化現象は、1980年頃から報告されている。1998年に石垣島(いしがきじま|沖縄県)の海で起こった大規模な白化は、梅雨期の淡水・土砂流入とエルニーニョ現象による高水温の複合的な原因によるものとされた。沖縄では2013年にも再び白化が起こっている。2016年、世界的規模で白化が起こった際は、イタリア半島ほどもあるオーストラリアの巨大なサンゴ礁グレート・バリア・リーフの約三分の一が死滅。この年の白化現象は気候変動がもたらすサンゴ礁への深刻な影響を示しており、日本でも、陸の影響を受けない宮古島(みやこじま|沖縄県)沖の八重干瀬(やびじ)で白化が見られた。
豪州・日本・中国でサンゴの保全や環境教育に取り組む人々も登場する。沖縄本島でサンゴを養殖する男性は、「サンゴを埋め立てた陸の上にもう一度海をつくった」と語る。度重なる白化現象に胸を痛めながらも、陸上でサンゴの苗を育て、海に還す活動を続けている。
サンゴは通常光の届きやすい浅瀬に生息することが多いが、久米島(くめじま|沖縄県)の海底40メートルでは、ミドリイシの大規模な群落が見つかっている。水温変化に対応して生息する水深や分布を変え、白化により共生する藻類を放出し、新たな藻類を共生させて生き延びようとするなど、サンゴはしなやかで強い回復力を秘めた生物であることも研究により分かってきた。なにしろ、地球上で人間よりも長く、数億年を生き延びてきているのだ。
「地域の海との関わりが良ければ、海は美しくなる。海との関わりを忘れたら海は悪くなる」「未来を失うのは人間が先ではないのか、サンゴは警鐘を鳴らしている」。サンゴに深く関わる人々が口にする言葉には、自然への畏怖が込められる。海からのメッセージを受け取り、私たちはどうありたいか、未来を語り合いたい。
(文・石原みどり)
【関連サイト】
『セーブ・ザ・リーフ 〜行動するとき!〜』
企画原案:Australia Asia Film Group, MCMS TV
撮影・監督:島崎誉主也
2021年/オーストラリア・日本・中国共同制作/60分/ドキュメンタリー
東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。