つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

  • 『秘島図鑑』
    清水浩史 著
    (河出書房新社|2015年|1,600円+税)

想像に身を委ね 遠くへ想いを巡らす 絶海に見えてくる 孤高の島の物語

日本が有する6852島もの島々の中には、かつて人が上陸した、もしくは暮らしていた痕跡をもつ無人島がある。そしてその多くは、人を寄せつけないような深い紺碧の絶海に「もの言いたげに」佇む孤島である。本書は、国内外問わず数々の島旅を経験してきた著者が、あえて「行けない島」に着目した、おそらく日本初の“秘島”専門のガイドブックである。

秘島と聞いてもあまりピンと来ないだろうが、ここでは「リモート(遠く離れた)感がある」「住民がいない」「知られざる歴史を秘めている」など、著者が決めたいくつかの定義にあてはまる島を秘島と呼び、厳選された33島を巡る。さまざまな文献をたどって紐解かれた島々の歴史はとても興味深い。

第一部のガイド編では、各島の歴史と現状が丁寧に綴られる。例えば、玄界灘の真ん中に浮かぶ福岡県・沖ノ島は「神宿る島」と呼ばれ、古くから島全体が信仰の対象として崇められている。一木一草一石たりとも持ち出してはならないという掟や、女人禁制の伝統が粛々と守り続けられている希有な島だ。

また、東京から約1,300kmも離れている南硫黄島は、火山島のため周囲は断崖絶壁で、その不気味な威圧感は「秘島の中でも、ピカイチ」。定住者こそいないものの、漂流者が暮らしたという記録がある「人跡ほぼ未踏」の地。この漂流者の発見以来、開戦までは小笠原と硫黄島を結ぶ定期船が年1回、漂流者の有無を確かめるためだけにこの島へと向かい、汽笛を鳴らしながら島を一周していた。現在は毎年一度だけ「硫黄三島クルーズ」と呼ばれるツアーがあり、島の近くを周遊できる貴重な機会となっている。

第二部の実践編では、実際に行けなくても秘島を身近に感じるための、具体的な方法が挙げられる。この「行けない」ということを逆手にとったような、著者の秘島へのアプローチの仕方がとてもユニークで面白い。

例えば、「本籍を移してみる」。なんとも大胆な方法だが、本籍は今住んでいるところに関係なく国内ならどこにでも変更可能なため、無人島にも本籍を置くことができる。たとえ実際に住めなくても、自分は「その島とつながっている」という実感がわき、秘島に愛着をもてるというわけだ。

「島には、人の営みが凝縮されている」と著者が語るように、秘島で繰り広げられるのは、ある意味とても人間くさく濃密な人々のドラマだ。こうした背景や物語を知ることは、未来の日本を考えるために重要である。秘島を想うことで、自分の住んでいる街や故郷だけでなく、遠くのどこかを想う気持ちの大切さに気づかされる。改めて日本の島々の自然の豊かさと、奥深さを知ることができる一冊である。

(文・北坊あいり)

     

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