神奈川県横浜市の山下公園に係留する「氷川丸」は、唯一現存する戦前から戦後にかけて利用された大型貨客船。戦時中は病院船として戦火を進み、戦後は復員船・引揚船として人命を救助してきた。
そんな氷川丸の船内で起きた人間模様を描いた長編アニメーション映画『氷川丸ものがたり』の上映会がこの夏、離島地域でも開催される。
2016年5月、同作品を離島で上映するプロジェクトがクラウドファンディングサイトで目標金額を達成。第一回目の離島上映会が8月25日に中ノ島(島根県海士町)で開催されることに決まった。映画『氷川丸ものがたり』の離島上映会を企画した背景について、氷川丸ものがたり事務局の玄 真琴さんに聞いた。
@氷川丸ものがたり製作委員会
ー映画『氷川丸ものがたり』について教えてください。
この映画の原作は、戦後70年を迎えた今“戦争を経て、今の平和がある”ことを伝えたい気持ちで、著者の伊藤玄二郎が執筆しました。その本を見たアニメーション制作会社である虫プロダクション株式会社から声が掛かり、映画化に至りました。
氷川丸はもともと豪華客船でしたが、戦争がはじまって病院船になり、赤十字のマークをつけて各国の傷ついた将兵を運ぶ船になりました。また、戦後は復員船として兵士を運ぶようになり、その後、引揚船として兵士に関わらず日本に帰国する人々を運んできました。
戦火を抜けきれず沈んでいった船が多い中、氷川丸は今も現存する唯一の船です。それだけ希少価値があり、歴史を知っている氷川丸の中で何が起こっていたのかを物語として描いたのがこの作品です。
一口に戦争と言っても、若い人にとっては関わるきっかけが少ないですよね。身内に戦争を体験したおじいさんやおばあさんでもいない限り話を聞くこともありません。
若い人にとって今、横浜に係留されている氷川丸はただの動かない船にしか見えないかもしれませんが、この映画を見たあとに氷川丸を見ると、また違う印象を得ることができるはず。この作品が例えば、小さな子どもにも何かを感じてもらえるきっかけになればと思っています。
ー離島上映会を企画した理由は?
深いところでは平和の大切さを伝えたいということがもちろんあります。そして、まずは氷川丸を知ってもらいたいという気持ちもあります。その上で、船の重要性にも目を向けるような機会がつくれたらいいのではないかと思っています。
今、日本では船員が減っているんですね。でも、海運業は日本になくてはならない産業で、石油をはじめ多くの貨物は船で行き来しています。だから担い手が減っている状況があることも、もう少し一緒に考えられるような機会をつくれたらいいのではないかと思いました。
離島は海や船が生活の一部になっている地域ですよね。その地域の方が、この作品を見てどんな感想を抱くのか。その感想を海に接する地域の人々の声として他地域にも届けたいです。
8月25日に海士町での上映が決まっていますが、1カ月クラウドファンディングで広報することによって海士町という島のことも広報させていただきました。ただ上映会を開くだけでなく、上映会をきっかけに船や海に関係のある地域のPRにもつなげたいと思いました。クラウドファンディングで目標金額よりたくさんご支援をいただいたので、父島の上映会もサポートできることになりました。
氷川丸は京都府の舞鶴や神戸、瀬戸内海、北海道などを運行した船なので、今後はそんな所縁のある地域の離島でも上映会を開催していけたらいいですね。
【あらすじ】
1930(昭和5)年 5月、横浜港からアメリカ・シアトルに向け、処女航海に出港した氷川丸を、岸壁に座りじっと熱い目で見つめる13歳の平山次郎がいた。野球少年の次郎は関東大震災で母を亡くし、南京そばの屋台をひく父の源三を手伝いながら、二人で暮らしている。ある晩、屋台で手を動かしながら、氷川丸に乗ってみたいと熱く語る次郎を、微笑んで見つめる二人の紳士風の客がいた。彼らは、氷川丸の秋永船長と松田事務長だった。それがきっかけとなり、次郎の氷川丸での日々が始まった。(『氷川丸ものがたり』ホームページより)
※離島での上映会に興味のある人は下記ホームページのお問い合わせから質問可能です。
【関連サイト】
長編アニメーション映画『氷川丸ものがたり』ホームページ