つくろう、島の未来

2025年09月02日 火曜日

つくろう、島の未来

「ぐっさん」の愛称で親しまれる芸人・山口智充さんは、両親の生まれが奄美大島と五島列島(福江島ほか)という生粋の島ルーツ。2013年のリトケイインタビュー以来、2度目の登場となるぐっさんに今回伺ったのは「魚」から見えてくる世界。

全国の離島を含む国内 3,000漁港にスポットをあてるテレビ番組「魚が食べたい!—地魚さがして3000港—」を見つめる中で感じてきた、島々の魅力や可能性について伺いました。

※この記事は『季刊ritokei』50号(2025年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

聞き手・鯨本あつこ 写真・長沼輝知

ritokei

海や魚に興味を持ったきっかけは?

ぐっさん

やっぱり自分のルーツが奄美大島と五島列島という島国のDNAを受け継いでいるんで、海に対する興味とか意識はもともと強かったですね。

魚への興味が深くなったのは、お友だちのさかなクンのおかげです。さかなクンから得る知識が、僕にとっての魚の世界を食べるだけではない、深くて楽しいものにしてくれました。

ritokei

4,000種以上もいる魚の世界は奥深いですよね。『魚が食べたい!』には各地の漁師さんが登場されていますが、その印象は?

ぐっさん

漁師さんにも一人ひとり個性があるので、「漁師」といって一括りにすることはできなくて、同じ魚を狙っていたとしても、漁法や歴史に違いが見られるのはおもしろいですね。

地域ごとに特色があるし、いろいろな方言も聞けるし。海に向かう姿の向こう側で抱えているものとか、家族のこととか、漁師をする前の経歴とか、そうしたものが漁をやっている時に見え隠れする、その人の人生観も魅力的です。

番組を見てくれている漁師さんたちも、他の漁師さんがどんな漁をやっているかを見るのを楽しみにしてくれているんです。どういう仕掛けで獲って、どう絞めて、どう料理するんだろうとか。

ritokei

漁師さんが楽しみにしていらっしゃるというのはすごくいいですね。

ぐっさん

すごくうれしいですね。『魚が食べたい!』の撮影と言ったら「いつも見てるよ」という答えが返ってくる番組になってるんだなというのはすごくありがたいです。

ritokei

離島は特に漁業水産業が盛んな地域が多いので、魚をテーマにすることで、おのずと島にも目が向くのがうれしいです。番組を通じて課題を感じることはありますか?

ぐっさん

今はどこの漁港でも後継者不足が問題になっていますね。その中で「こういうものを残していこう」とか「次世代に漁の楽しさを伝えたい」とか、そういう方もたくさんいらっしゃる。

今日獲れる魚のことだけじゃなくて、広い意味で日本の海のこととか、漁業の将来をずっと考えていらっしゃる漁師さんを見るとすごいなと思います。

ritokei

本当にそうですね。温暖化による海の変化もありますよね。

ぐっさん

僕らも目の当たりにしています。そこで実際に漁師さんがどう対応されているか。魚がいなくなったからもうやめようじゃなくて、いなくなった分はこうしていこうとか、この魚はもう駄目だから次こうしていこうとか、臨機応変に対応している漁師さんもいらっしゃいます。

「生きる」という生命力を感じる漁師さんを見ると、すごいなって思いますね。番組ではほんの一部を切り取らせていただいているわけですが、漁師さんは何十年もやっていらっしゃる。ご苦労も喜びも、その先に見えるものも、その漁師さんの人生と人生観が見えた瞬間が何かぐっとくる瞬間がありますね。

ritokei

そうした背景を知らずに、スーパーで売っている魚を素通りしてしまうことは、もったいないように思います。

ぐっさん

そうですね。市場であろうがスーパーであろうが鮮魚店であろうが、必ず獲った人がいるということですからね。このインタビューを読んだ方が、スーパーに行ったときに魚を見る目が変わってくれたらいいなと思います。

さかなクンから学びましたけど、みんな基本は決まった魚しか食べてないから、食べられるのに食べられてない魚が多いわけです。見た目が悪いからといって弾かれる魚もたくさんあるけど、おいしい魚もいっぱいある。それをもっと食べられたらいいなって僕も思います。

ritokei

そうですね。食べ方が分からないというのもきっとあると思うんですけど、でもやっぱり知らないともったいないですね。魚のことも漁師さんのことも。

ぐっさん

行ってみないと!食べてみないと!ということなんです。 家から動かずにいろんな情報が入ってくる時代になった今だからこそ、現地に足を運ばないと感じられないもの、見れないもの、食べられないものに魅力を感じられるか。

音楽でいえば、わざわざフェスにあれだけたくさんの人が集まるのと一緒で、わざわざ足を運びたい人とか旅をしたい人はいっぱいいると思います。

だから『魚が食べたい!』 という情報でも、あの漁港に行ってみたいな、このお店行ってみたいな、この島に行ってみたいなと、みなさん感じていらっしゃると思うんです。それで実際に旅に出て行くきっかけになってほしいですね。行ったらその魚が食べられるんですから、本当に。

ritokei

山口さん自身、番組の200回記念では八丈島に行かれて念願のお魚を味わえたそうですね。

ぐっさん

はい。くさや(※)を目当てに八丈島に行って、地元の方と一緒にくさやをアテに島の焼酎を呑みました。くさやって都会のマンションで焼くと怒られるかもしれませんが、島だとおいしさも香りも全然違う。

※伊豆諸島原産の魚の発酵干物で、独特の強いにおいが特徴。 塩水に魚を漬け込み、発酵させた「くさや液」に浸した後、天日干しで乾燥させてつくられる

番組でも「今、ここでしか食べられない魚」を探しているので、それを食べにわざわざ行くということができてうれしかったですね。やっぱり、その場で食べるのが絶品なんです。

ritokei

次に行きたいところを挙げるとしたら、どこかありますか?

ぐっさん

行ったことないところも含め、行きたいところを挙げるときりがないですね。

ritokei

島に対して感じている可能性はありますか?

ぐっさん

やっぱり可能性は絶対あるなと思いますね。『魚が食べたい!』を見ていても、これから漁師になりたいという人を受け入れる環境をつくってくださっている島もあるんですよね。

漁師さんの世界って親が漁師じゃないと難しい世界なのかと思っていたんですが、実はサラリーマンからでもなれるし、定年退職してからなっている方もいらっしゃる。そういう可能性があることは、番組をやりながら知りました。

島全体が新しい人を受け入れる環境をつくっていて、役場にもそういうシステムがあって、住む場所や手当があることをまず知ると、いろんな可能性が出てくると思うんですよね。

ritokei

国全体でも二拠点居住が推進され始めたので、時々漁師をするようなこともいいですよね。

ぐっさん

そうですね。その島独特の文化を味わいながら、漁業とかできたら最高なんだろうな。それで可能性がどんどん広がってきたら、本格的にやるのもいいだろうし。漁師ってゴリゴリのイメージもあるじゃないですか。

移住者だとなかなか入りにくいコミュニティもあるけれど、そうじゃないところもあるのを、『魚が食べたい!』を見ていても発見できますね。

ritokei

番組に登場していた対馬の「フラットアワー」でも、東大出身の若手漁師が漁業権をとって持続可能な漁法に挑戦しながら活躍していますよね。

ぐっさん

もちろん最初はご苦労されていると思います。けれど、結果が出てくると周囲も認めざるを得ないというか、やっぱり昔からの伝統的な考えと今の考え方を融合していくのが一番いいと思うんです。

感覚だけで魚が獲れる漁師さんもすごいし、データを駆使してやってらっしゃる若い漁師もすごい。それが一緒になったときは、日本の漁業はすごいことになるんじゃないかなと思います。

お話を伺った人

山口智充(やまぐち・ともみつ)さん
1969年大阪府出身。高校卒業後、サラリーマン生活を経て1994年にデビュー。バラエティー番組、ドラマ、映画、ラジオ、ナレーション、アニメのアフレコ、ライブなど、幅広く活動中。母の出身地である奄美大島・瀬戸内町では2009年より観光大使を務める。

BS朝日 「魚が食べたい!—地魚さがして3000港—」(毎週水曜日21:00〜22:00) は、日本全国に約3,000ある魚港を魚好きディレクターが突撃訪問し、地元でしか食べられないおいしい地魚を食べ歩くドキュメントバラエティー。

日本とその周辺海域に生息する約4,400種のうち豊洲に入荷する魚は百数十種類程度。日本に存在する“市場に出回らない魚”を、全国津々浦々の漁港を訪問するディレクターと、コメンテーターを務める山口智充さんが紹介します。


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>>【訊く】山口智充さん「ぜんぶの島をまわりたい」(2013年)





     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

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