「奄美にいけば黒糖焼酎、沖縄にいけば泡盛をがっつりいきますね」というぐっさんは、宮古島で「オトーリゴールド免許」(※1)をいただいたとのこと。南国の太陽のような笑顔で島々への愛を語ってくださいました。
(聞き手・鯨本あつこ/写真・長野陽一/撮影協力・CAFE246)
「ぐっさん」の愛称で親しまれる芸人・山口智充さんは五島列島(ごとうれっとう|長崎県)と奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)にルーツをもつ島2世です。自らを「島好き」と語るぐっさんに島々へどんな想いがあるのか伺いました。タブロイド紙『季刊リトケイ』6号に掲載されたインタビューをお届けします。
ぜんぶの島をまわりたい
リトケイ
島にルーツがあるとのこと。ご縁のある島について教えてください。
山口さん
親父は長崎の諫早の生まれですが、小さい頃に五島列島(※2)に疎開して育ったんです。おふくろは奄美大島(※3)。だから夏休みに遊びにいくのが島だったわけですが、飛行機もぽんぽん飛んでないですし、大阪の港から船でやっといけるような感じだったので、島に行くのは特別なことでした。ただ、ぼくは海が大っ好きなので子ども心に大好きな場所という意識が植え付けられていましたね。「今年は行かないの?行かないの?」と。
リトケイ
最近はお仕事でも訪れていらっしゃいますね。
山口さん
2004年に「ASIVI」(※4)でライブをやったんですが、東京、大阪、名古屋と続く全国ツアーの最後に奄美と、どっかで入れたかったんですよね。その時は自分で場所を選べる立場にあったので、吉本に言ってフルバンドで行きましたね。総勢8名で小っちゃいステージでがっちゃがちゃで。
ライブの前日に前乗りして、おふくろの田舎がある勝浦というところで久しぶりにおじさんと散歩に行ったんですが、そこで初めての感覚があって。
リトケイ
初めての感覚とは?
山口さん
防波堤に腰掛けて、ちっちゃい頃よく泳いでいた海をみたときに、なんか今まで感じたことのない「ぐわぁぁぁぁぁぁっ」という気持ちになったんです。自分が親になってはじめて感じる母親の存在というか、自分のおふくろがここで生まれて、大阪に渡り……というルーツをその海で感じたんです。この島で生まれたおふくろのなかにあったものがDNAでぼくに引き継がれていて、その場所にいったら「キンコンキンコン!!!ブウンブウンブウン!!!」と鳴るような(笑)。
リトケイ
ルーツを感じた瞬間ですね。
山口さん
ぼくの1枚目のアルバム(※5)に「白い砂浜へ」っていう曲があるんですけど、これは奄美空港から自分の集落(瀬戸内町)に着くまでのあいだに考えたもので、「DNAがさわぎだす」という表現があるんですが、まさしくそれだったんです。簡単に説明できない。ぼくのなかにある何かがぐわあってさわぎます。
次に瀬戸内町のシーカヤック大会に参加させてもらった時には、正式に観光大使にも任命していただいたので奄美がまた特別な場所になりました。テレビでアピールすることで、自分のルーツともつながれるし、そこに自分のルーツがあると意識することによって、島にいらっしゃる人にも受入れていただける。どんどん高まっていきましたね。島人としてメラメラと燃えるものが。
リトケイ
五島列島にも行かれていますね。
山口さん
五島もちっちゃい頃の記憶はありますし、2007年には五島(福江島)にもライブ(※6)へ行ったんです。親父が子どもの頃に住んでいた家に、ひいおばあちゃんが住んでいたんですけど今は誰も住んでいなくて。でも何十年かぶりにその家にも行ったんです。家の裏手は昔、海やったんですけど今は埋め立てられて道になっていて。そんなんもひっくるめて変わりゆく景色はあるんですが、家のなかに五右衛門風呂がそのままあったりすると、そこでも「ぐわぁぁぁっ」ときましたね。兄弟の多い親父たちはみんなここで育ってたのかと。ただ五島はまだゆっくりじっくり回れてないので、時間があったら行きたいですね。
リトケイ
ルーツ以外にもたくさんの島へ足を運ばれていますが、島のどういったところが好きですか?
山口さん
先日も宮古島(※7)に行ってきたばかりなんですが、やっぱり「海」が好きですね。とにかく海が好きだから、宮古島でもホントにずーーーっと入ってました。泳ぐじゃなくて「溶ける」っていうんですけど、ぼくは海に溶けているんですね。ちょっと自分からダシが出てくるくらい浸かっている感じで(笑)。もともと日本自体が島国なんで、言ってしまえば日本は島ですよね。海からどこかへつながるわけですし、その海をまず感じるというか。
沖縄でいえば久高島も忘れもしない良い島でした。泳いでいると目の前に何十種類もの魚がうわぁーっと寄ってきて、「これ見てみいっ!」って周りの人を呼ぶと、もういない。そういう現象はいっぱいありますね。島の人もそうだと思うんですけど、こっちが丸裸で海に溶けてたら違和感がないというか。見たことないけどこいつもデカい魚の一種かなという感じかもしれないですね。
あと、北海道の利尻島(※8)も最高でしたね。役場の方がライブを仕切ってくれて海産物をぜんっぶ集めてくれて、除雪車のデカい倉庫で打ち上げをやってくれて最高でした。
リトケイ
島の「人」の違いは感じますか?
山口さん
やっぱり違いますね。ノリでいえばエンジンがかかる時間とか、最初からぐわぁ!ってなるところとか。ただ、違うからどうということではなくて。ぼくは島や人と接する時は溶けていくので、そこにどう反応してくれるかで。先日の宮古島ライブはキャパ800人の市民会館だったんですが、スタンディングでみんなすごい盛り上がってくださって、その翌日は地元の人に「そんなこと島の人はしない」と言われました。ぼくはどこにいってもこのノリでいくから、結果的にそうなったことですが嬉しかったですね。もともとやらないんじゃなくて、もともと持っているからで、こっちが丸裸でいったから通じたのかなって。
宮古島ではライブ中にステージにあがってくる人もいて、それもひとつの現象かなぁと思うと面白い。ぼくのライブでは、後ろのお客さんの顔も見えるよう会場を明るくしてもらっているのですが、会場を見ているとだんだん近づいてくる人が見えて、ステージまできた時に律儀にサンダルを脱いでいるんです(笑)。それが目に入ったりすると基本的な島の人の良さがみえる。みんなは宮古んもんとして恥ずかしいと言うんですが、人も含めた風土とか、そういうのはやっぱり好きですね。奄美のときもライブ中に黒糖焼酎を差し入れてくれるおっちゃんがいたり(笑)。
リトケイ
「人が好き」というのは島で良く耳にしますね。
山口さん
都会で「人間に疲れたから離島に移住する」って人は結構いるじゃないですか。そういう人は島でも暮らしていけないですね。島こそ人とのコミュニケーションの最たる場所だから。都会の人と合わないだけで島の人と合うならいいですけど、人間自体が嫌な人は島には住めないですね。自分でいうのも何ですが、ぼくは良い人が大好きで。どこの島にいっても仲間になりますね。そして増えていきます。だから次にいった時に顔を出さないといけないところが増えてきて足らないんですよね、休みが(笑)。
でも、日間賀島(※9)には毎年行っています。10年前に番組で行かせてもらったのがきっかけで、プライベートでも行きはじめて。「乙姫」という宿があるんですが、 毎年1回は行ってますね。その家族に会いに行く感じで「ただいま!」って言いに帰れる島があるのは、素晴らしいことだと思います。
リトケイ
島の方々や島ファンの読者へメッセージをお願いします。
山口さん
読者のみなさんというより自分に対する課題ですけど、日本の島ぜんぶ見てみたいですね。ぼくも「シマダス(※10)」を見て勉強しているんですけど。これだけステキなところが400島以上もあって、島々と、島の人たちと、文化と、歴史にふれていけるということを、一生かけて楽しめるカテゴリと考えるとわくわくする。まわれないとは思っていないので、一生かけてまわれたらと思います。いろんなものが島にしっかりある。ぜひみなさんも。
(お話を聞いた人)
山口智充(やまぐち・ともみつ)さん
大阪府四條畷市出身。よしもとクリエイティブエージェンシー所属芸人。「ぐっさん」の愛称で幅広い層から人気を集める。五島列島と奄美大島にルーツを持つ「島好き」として、テレビ番組内で島々を散策する島めぐりシリーズや、全国の離島でライブを開催する「島めぐりライブ」で因島、佐渡島、淡路島、福江島など数々の島を巡回している。2013年夏に発売された3枚目のアルバム「最近、空を見上げてるかい?」は、プロデュース、作詞、作曲、編曲に加えてジャケットの題字や写真撮影のすべてをぐっさん自身が行ったというぐっさんワールド全開の作品。
※1 オトーリゴールド免許…宮古島独自のお酒の飲み方「オトーリ」に参加すると発行されることがある
※2 五島列島…長崎県の島々。五島列島は福江島をはじめ大小140の島が連なる島々
※3 奄美大島…鹿児島県奄美群島の島。国内の有人離島で最も人口が多い約7万人が暮らす
※4 ASIVI…奄美大島の繁華街、屋仁川通りにあるライブハウス
※5 1枚目のアルバム…2009年に発売されたソロアルバム『(有)山口モータース』
※6 五島のライブ…2007年に開催された『山口智充 旅公演 島めぐり IN 五島(福江島)』
※7 宮古島…沖縄県宮古諸島の島。人口約5.5万人
※8 利尻島…北海道の島。人口約6,000人
※9 日間賀島…愛知県知多半島沖の島。人口約2,000人
※10 シマダス…(公社)日本離島センターが発行する日本の離島辞典