つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

2019年秋、鹿児島最北端の長島町が舞台となる映画が封切りされた。長島大陸映画実行委員会が企画した『夕陽のあと』は、日本が抱える社会問題を背景に「あらゆる人が暮らしやすく、次世代を育みやすい故郷でありたい」と願う島の人々の想いから生まれた作品だ。監督は奄美大島や加計呂麻島で撮影され、話題を呼んだ『海辺の生と死』でメガホンをとった越川道夫監督。島という土地と、そこに生きる人々を描く映画づくりについて、越川監督に話を聞いた。

※この記事は『ritokei』31号(2020年2月発行号)連動記事です。

聞き手・鯨本あつこ 写真・牧野珠美

越川道夫監督

ritokei

『夕陽のあと』は長島町発のプロジェクトですが、監督を引き受けられた経緯を教えてください。

 

越川監督

長島でプロジェクトが進んでおり、ほぼ決まった段階で、私に話がありました。私がプロデューサーとしても監督としても、地方でつくる映画を手掛けてきたことが大きいのかもしれません。

私にとって最初のプロジェクトは函館で、函館の人たちが委員会をつくり『海炭市叙景』を映画化したいという話があり、プロデューサーを引き受けました。

その時、町の人と話をしながら、東京以外の場所で映画をつくって公開することについて自分なりに模索したことがあったのですが、同じように長島の委員会の方に初めてお会いした時も、島や地方で映画をつくることについての考えを説明するところから映画づくりがスタートしています。

『夕陽のあと』©2019長島大陸映画実行委員会

ritokei

2017年には加計呂麻島が舞台の『海辺の生と死』(※1)も撮られています。

(※1)2017年公開。太平洋戦争末期の奄美群島・加計呂麻島を舞台に『死の棘』などの作家として知られる島尾敏雄(永山絢斗)と妻・ミホ(満島ひかり)の出会いを描いたラブストーリー

 

越川監督

『海辺の生と死』は地方発の映画ではないのですが、島の人たちが相当数出演される映画で、どのように島と関わっていくかを考えなければならなかったので、私に話しが来たのだと思います。

ritokei

長島町の印象は?

 

越川監督

とても伸びやかでした。島としては複雑な歴史を持っているかもしれませんが、人の印象が明るくて伸びやか。五月役の山田真歩さんが「ここの人たちには心に鍵がかかっていない」とコメントしていて、うまいこと言うなと思いました。

ritokei

島の人々と、映画をつくられる時に大事にされていることは。

 

越川監督

私の特色だと思うのですが、私のイメージに島を合わせないことです。東京の勝手なイメージで別の土地をつくらない。

本土にいると、奄美と沖縄の違いがわかりませんが、その島を知っていけば、どの島も地域も、植生まで含めて違うことが分かると思います。

東京でも、島でもどこでも、私のイメージにその場所を合わせるのではなく、私がその場所の中から見つけていくことが大事なのです。

ritokei

『夕陽のあと』には社会問題も含まれ、東京と島の対比としても見ることができました。

 

越川監督

『夕陽のあと』の重要な点であり、『海辺の生と死』を撮る時に奄美から教わったことですが、一番気をつけたのは、ひとつの場所にどう一緒にいるか? ということです。

都会では、人と人とのつながりが分断されてしまっています。

一方、長島や奄美には、自然のあり方も含めて、バラバラに存在するものが一緒にいることを意識させる余地がまだある。

『夕陽のあと』©2019長島大陸映画実行委員会

ritokei

いわゆる共生社会のような。

 

越川監督

共生という言葉はあまり好きではありませんが、何かが共にそこにあるということの基本があると思っています。

当たり前ですが、鳥やセミは勝手に鳴きます。島尾伸三さん(※2)が、「子どもの時はたくさんのセミの鳴き声で友達の声が聞こえなくなるようなことも多く、妹は怖がっていました」と話してくれたことがありました。鳥やセミは物語の都合では鳴かないのです。

映画ではどうしても物語の進行に効果があるように「効果音」としてセミや鳥の声を再構成しますが、実際はそうではありません。

『海辺の生と死』で、トエ(満島ひかり)が夜にシマ唄を歌うと、離れたところでリュウキュウコノハズクが鳴き始め、歌い終わると止むシーンがあります。本来バラバラにいるものが一瞬出会い、終わってしまうとまたバラバラになる。

バラバラに存在するものが同じ場所にいても良いことを、どのように表現したらよいのか。

加計呂麻島や奄美大島で撮っている時に、このことを強く考えなければいけないと思いました。

(※2)島尾敏雄とミホの息子。写真家、作家として活動

ritokei

共に存在するものを、コントロールせずに描くという。

 

越川監督

長島町は、(ひとつの島の中で)人々がどのように一緒にいるか、外からの人たちをどのように受け入れていくかを模索しているので、『夕陽のあと』というテーマを選んできたんだと思います。

私はそうしたことに奄美で深く付き合ってたことが大きく、その後はどこで映画を撮っても、ちゃんと土地と向き合わなければいけないとエコーしています。

私は所詮、一時期だけ来て去っていくので、向き合いきれるものではないとは思います。島の水を飲んで育ってない者が、その島を知ることはやはり難しいけれど、映画を撮る以上はそこに向き合わなければ、何も映りません。

『夕陽のあと』©2019長島大陸映画実行委員会

ritokei

監督が土地と向き合いながら映画が出来上がっていくのですね。

 

越川監督

私たちは、その土地の人たちを描いています。もちろん俳優が演じるわけですが、映画に出てくる、五月やおばあさん(木内みどり)は島で育っている人です。 その町で育った子どもは、どこから風が吹いてきて、どっちに海があって、どんな植物が育っているのかに影響されている。

浜松で育った私もそうでした。今でも帰ると、運河から駅まで距離があるのですが、風向きによって、潮の匂いして、湿度を感じて、それを感じると帰ってきたなと思います。

それをどう撮ろうかと考えなかったら、その町の人が撮れません。役者達も含めて、その土地の人のように撮るにはどうしたらよいかと考えざるを得ない。それが面白いところでもあるし、一番苦労するところだと思います。

ritokei

島ではどのような時間を過ごしていますか?。

 

越川監督

歩いています。 そうすると、生えている植物とか、海への距離感とか、どのくらい山が迫っているかとか、どんな風が吹いているとかわかります。何をするわけではないのですが、島をぶらぶらする時間は大事だと思います。

ritokei

見せ方でこだわっていることや、結果的にそうなっている部分はありますか。

 

越川監督

とても特別なことをするわけではないのですが、例えば『夕陽のあと』で、五月が地元のおっちゃんに船を借りる時、「おっちゃん、船借りるね」と言うと、おっちゃんは「五月ちゃん、魚の様子見に行くとや?」と言いますが、そのセリフは脚本にはありません。

海に対して、その土地の人たちの向き合い方があると思うので、その時に何と言うかは、その人に考えてもらい、決めてもらいます。そのようなことを端々に入れていくことではないでしょうか。

『夕陽のあと』©2019長島大陸映画実行委員会

ritokei

確かに、作られてすぎていないと感じる場面も多くありました。

 

越川監督

あまり解釈しすぎないで、そのまま画面の中に置いておくことはよく考えます。

人の心は複雑なものをはらんでいるので、妙にドラマにしない、妙に解釈をしない。そのまま花束のように束ねて置いておくことを心がけます。

もしかしたらとても個人的なことかもしれませんが、それをどう大切にするか。そのようなことを一つでも多く画面の中に置いていくことを心がけています。

ritokei

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 

越川監督

私はやはり、島に行って映画を撮ることが好きです。

田舎である以上、排他的なところはあるかと思いますが、根本には、人間だけでなく、異なるいろんなものが同じところに一緒にいる。

『夕陽のあと』を見てくれたある古本屋さんの言葉ですが、「寛容さについて、都会の私たちがどう考えていくかを突きつけられる」と。

島では、外から来るもの、人間以外のものに対しても、どのように一緒にいるか? を常に突きつけられるような気がします。

私はそれを常に考えながら、島で映画を撮っています。

越川道夫(こしかわ・みちお)
1965年生まれ、静岡県浜松市出身。助監督、劇場勤務、演劇活動、配給会社勤務を経て、1997年に映画製作・配給会社スローラーナーを設立。熊切和嘉監督『海炭市叙景』、ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』などの作品をプロデュースした後、2015年の『アレノ』で劇場長編映画監督デビュー。2017年には作家・島尾敏雄と島尾ミホの出会いを描いた『海辺の生と死』を監督。さまざまな作品を手掛ける

『夕陽のあと』©2019長島大陸映画実行委員会

『夕陽のあと』
豊かな自然に囲まれた鹿児島県長島町にやってきた茜(貫地谷しほり)は、食堂で働きながら地域の子どもたちの成長を見守り続けている。一方、夫とともにブリの養殖業を営む五月(山田真歩)は、赤ん坊の頃から育ててきた7歳の里子・豊和との特別養子縁組申請を控え、“本当の母親”になれる期待に胸を膨らませていた。そんな中、行方不明だった豊和の生みの親の所在が判明し、背後に東京のネットカフェで起きた乳児置き去り事件が浮かび上がる……。母親であることを手放した女と、母親になると決心した女のふたりの願いが交差する人間ドラマ。2019年11月8日より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
https://yuhinoato.com/

     

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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