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インタビュー

【島Interview|訊く】「島への想いが僕の原動力」糸数陽一さんインタビュー

ウエイトリフティングの選手として活躍する糸数陽一さんは、沖縄県の久高島で子ども時代を過ごした。
島を駆け回って遊んだ日々が基礎体力を養ったという。その後アスリートとして成長した糸数さんは、2016年リオデジャネイロオリンピックで日本新記録を達成した。
糸数さんに競技のことやふるさとの島へ向ける想いを伺った。
※この記事は『ritokei』20号(2017年2月発行号)掲載記事になります。

聞き手・石原みどり/写真・渡邊和弘

–日本新記録おめでとうございます。

ありがとうございます。「テレビや新聞で見たよ!」って言われるのはうれしいですが、身長が160cmとあまり高くないので、「意外と小っちゃいんだね」とも言われるんですよ。写真は大きく見えるように写してくれるので、実際に会うと驚かれることも多いですね(笑)。

-ウエイトリフティングを始めたきっかけは。

久高島(※)の中学校で2年生のときの担任の先生が、「階級制のスポーツなら身体能力が生かせるよ」と勧めてくれたんです。漁の手伝いで網を引っ張ったり、海で遊んだり、体を動かすのが好きだったので。そのときの先生の言葉が運命的な出会いだったと思います。

-島でしていたお手伝いや遊びが体力づくりに役立ったんですね。

基礎体力は身につきましたね。久高島は本当に小さな島で、1周回っても8キロメートルくらいだから、島全体が遊び場でした。テレビゲームはほとんどせずに、自然の中で毎日、走り回って遊んでいました。

やることがないと、頭を使って面白い遊びを考えるんです。漁港のとこから海底まで4〜5メートル潜って、下に沈んでいる石を抱いて足で思いっきり漕いで浮上して、誰がいちばん大きい石を上げられるか競争するとか。今思えば、いいトレーニングだったなあと。

これまでウエイトリフティングをやってきて、大きな怪我で競技から離れるということが少なかったんです。親が丈夫な体に産んでくれたことに加えて、島での子ども時代のおかげで怪我をしない体づくりができて、順調に記録を伸ばしてこれたのだと思います。

-高校から沖縄本島に進学して本格的に競技を始めたのですよね。

中学のときに沖縄本島にある強豪校の豊見城高校へ見学に行き、初めて競技を体験させてもらったときに、周りがすごく褒めてくれたんです。そこで「全国大会に出れば、飛行機にも乗れるんだよ」という甘い言葉にも誘われて。島育ちで、飛行機で本土へ行くことに憧れていたこともあったので、すぐにその気になりました。

中学卒業後に、島を出て豊見城高校に進学し、ウエイトリフティング部に入りました。10名弱いた島の同級生たちも一斉に島を出て進学しましたが、豊見城高校に入ったのは僕1人だったので、知り合いは全くいませんでした。

-ホームシックにはなりませんでしたか。

1クラス40名で全校900名もいる高校に入ったので、始めは環境の違いにとまどいもありましたが、学校で級友やウエイトリフティングの仲間がたくさんできて、島を離れたさみしさを感じずに済みました。

部活では、フォームからみっちり指導していただき、毎日泣きながらトレーニングしていました。僕は手が小さく、しっかり握力をつけるためにストラップなしで練習し、手の皮が擦りむけてボロボロになりました。毎日全身筋肉痛で、階段を上るのもきついし、通学で自転車をこいでいると足が吊ったりして。

でも、練習を続けていると、バーベルを楽にスムーズに上げるやり方を体が覚えてくるんです。筋肉痛で体はきついんですが、記録は上がっていく。それが不思議で面白くて、夢中で練習する日々でした。

高校1年生のときに部が全国大会で優勝したんです。周りの先輩方がとても強くて、先生に「(これまでの)記録を追い越せ」といわれて練習していたのに、いざ全国大会へ行ってみると、そこまでの記録を出せる選手が他校には全然いない。「あれっ、豊見城高校ってそんなに強かったんだ」と驚いたのを覚えています。

-元々の素質もあり、環境にも恵まれて成長できたんですね。

ところが、そこで調子に乗ってしまったんです。翌年、厳しかった先生が退官していなくなり、練習しながらも、心のどこかに「勝てるでしょ」という驕りが出たんですね。そしたら6月の九州総体で優勝を逃してしまって。そのとき「2番は嫌だ」と痛感したんです。それからは「絶対負けたくない」という気持ちで練習に臨んでいき、その後の全国大会では、負けることはなかったです。

-とんとん拍子にきた後に負けを経験したことで、心に火がついたんですね。その後の競技人生の中で心に残る出来事はありましたか。

悔しかったのは、ロンドンオリンピックに出られなかったことですね。1枠しかない男子の枠を他の選手と世界ランキングで争って、わずか1キロの差で負けてしまったんです。もう少しでオリンピックという舞台に手が届いたのにと思うと、すごく悔しかった。

しばらくは「バーベル触りたくないな」という気持ちで一杯でした。でも、それまで応援してくださった方々のことを考えたとき、最高の舞台に立って結果を残すことが恩返しだと思った。あのときの悔しさが、僕を今回のリオデジャネイロオリンピックに連れてきてくれたのだと思います。

-リオでは、惜しくも3キロ差でメダルを逃しました。

リオの後、銀座でオリンピック選手の凱旋パレードがありましたよね。あのとき僕は、近くのスポーツジムでランニングをしながらテレビでそのパレードを見たんです。「あと3キロ上げていれば、自分もあそこで歩いていたのかな」と。とても悔しい思いをしました。

-メダルを取るか取れないか。明暗をはっきり感じたんですね。

故郷の久高島へ報告に行ったとき、始めは自分の中で「すみません、メダルが取れなくて」という気持ちで一杯だったんです。だけど、島に行ったら皆が「頑張ったね、新記録おめでとう」「お疲れさま、大舞台でしっかり頑張ったね」と言葉をかけてくれました。温かく受け入れてもらえたことで、これまで頑張ってきて良かったなと思えるようになりました。

ロンドンには1キロの差で出られず、リオでは3キロ差でメダルに届かなかった。今回は東京オリンピックで金メダルを取るための試練を与えてもらったのだと捉えて、今はもう前を向いています。いきなりは強くなれないので、先ずは来年の世界選手権でのメダル獲得に向けて練習しています。一つ一つ取り組んで結果を出していきたいですね。

-久高島に帰ったときは、どんな風に過ごしていますか。

普段通りです。ご飯食べて、人と会って話をして。島に帰ったら、一人の島人に戻って安らげる。小さい頃から知ってくれているおジイやおバアがいて。人だけじゃなく、島の自然や、島の神様も見守ってくれていると感じています。リラックスできるだけじゃなく、島で過ごして帰ってくると、全身にパワーが漲るんです。

-糸数さんに憧れる子どもたちもたくさんいそうですね。島で育つ子どもたちに伝えたいことはありますか。

久高島のような島で自然の中で遊んで育った子ども達は、身体能力も高いし、運動が好きな子が多いと思います。それに島は家族みたいなもので、人もあったかいから、それが自分の心の強さにつながる。沖縄だけじゃなくて全国の島がそうなんじゃないかと思うんですけど。島への想いが僕の原動力になっていますから、久高島で子ども時代を過ごせたことは、とても幸せなことだったと思っています。

スポーツに限らず、全国の島々で育った子どもたちが、さまざまな分野で外に出て活躍することで、地元の島も元気になって盛り上がると思うんです。自分みたいに、島から世界で活躍する子がたくさん出てくるといいですね。僕も東京オリンピックに向けて頑張るので、見ていてください。

(※)久高島
沖縄本島の南東約5キロメートルに位置する、周囲約8キロメートルの島で人口は約270人。五穀発祥の地、神の島と呼ばれ、12年に一度行われる祭祀「イザイホー」(1978年以降行われていない)など、島をあげての年中行事が多く行われている。


(お話しを聞いた人)
糸数陽一(いとかず・よういち)

1991年沖縄県生まれ。子ども時代を父の故郷である久高島で過ごし、沖縄本島のウエイトリフティングの強豪・豊見城高校に進学。高校から本格的に競技を始め、2年連続の高校3冠を達成。2008年アジアユース選手権優勝。2016年のリオデジャネイロオリンピックではスナッチ133キロ、クリーン&ジャーク169キロで日本新記録達成。トータル302キロで2015年の全日本選手権で出した300キロの日本新記録を更新した。身長160センチ。階級は62キロ級。趣味は山登り。

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『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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