つくろう、島の未来

2018年12月15日 土曜日

NHK大河ドラマ『西郷どん(せごどん)』メインテーマで印象に残る歌声を響かせている里アンナさん。
鹿児島県の奄美大島で生まれ育ち、3歳から島唄を歌い始めたという。
島唄で培った歌声を携え、ミュージカルやドラマにも出演するなど、国内外で多彩な活動を続ける里アンナさんに、ふるさとの島のこと、歌や演技の奥底にある思いを聞いた。
『季刊ritokei』23号(2018年2月発行号)に掲載された記事のロングバージョンを2回にわたりお届けします。

(インタビュー前半はこちら)

聞き手・石原みどり 写真・Rino Kojima

—2005年のメジャーデビュー後は、イベント出演やコンサート、アルバム制作など活動。2010年にはシルク・ドゥ・ソレイユ(※)の公認ボーカリストに認定されていますね。

※シルク・ドゥ・ソレイユ……世界トップクラスのダンサーやアスリート、舞台照明や衣装などのアーティストらによるエンターテイメント集団

ラスベガスでシルク・ドゥ・ソレイユの演目のひとつとして上演されていたセリーヌ・ディオンのコンサートを観て、歌と演出の素晴らしさに「このステージに立ちたい!」と感動したんです。

帰国して少しした頃、シルク・ドゥ・ソレイユのボーカルオーディションがあることを耳にし「受けたい!」と。それから無事合格して公認ボーカリストになることができましたが、新しい演目ができるタイミングで世界中の公認ボーカリストの中から選考されるので、まだショーに出たことはありません。

—この先、出演の機会が楽しみですね。2013年、2015年とミュージカル『レ・ミゼラブル』(※)の舞台にも立たれていますね。

※『レ・ミゼラブル』……フランス人作家ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆した同名小説を原作に世界で上演されたミュージカル

オーディションを受けたのは、自分の音楽の方向性に迷っていた時期。それまで所属していた事務所を辞め、原点に戻ろうと島唄のライブを1年間続けた後でした。

島にいた頃は、地元の歌い手の方々と触れ合いながら生活の一部として歌っている実感がありましたが、東京に出てきたら、もう全然別世界。東京で音楽を続けるうちに「私、どうして東京で島唄やってるんだろう?」と、分からなくなってしまったんです。

そんな時、知人から「『レ・ミゼラブル』全キャストのオーディションがあるから、受けてみたら?」と勧められました。

それまでにも、色々な方にミュージカル出演を勧められたことがあり、演技もダンスも経験がないからと尻込みしていたのですが、その時は、やりたいことを探していて、何でも挑戦してみようと思っていたので、ダメ元で挑戦しました。

—どんな審査があったんですか?

始めは歌の審査があり、先に進むと演技も含めた審査があり、最後にはイギリスの現地スタッフが来日して審査がありました。

私の場合は、演技の経験がなかったので特に時間がかかったのではないかと思います。1次審査からファンテーヌ役に決まるまで、8カ月かかりました。

公演が始まると、毎回演出家からダメ出しがあり、「こうだったから次はこうして」というのが延々と続き、不安の中でただ必死に役を務めました。

2015年の再演時は、感情の表現を掘り下げて考える時間が多かったですね。例えば、劇中曲の「夢やぶれて」は、ひとつの曲の中で感情が激しく変化する。メロディとして捉えると綺麗な曲ですが、表現するのはすごく難しい。

稽古では私の隣に演出家が立ち、「ここはこう」「こういう感情だ」「ここはもっと違う感情でしょ!」と言われながら歌ったり、上演中にも様々な演出の変更に対応したり……。

—子どもの時は、ただのびのびと島唄を歌っていましたが、その時は深く思考することで表現を広げる機会だったのかもしれませんね。

それはありますね。ポップスを歌っていたときもそうだったのですが、標準語で歌うのは私にとって英語のように難しい。

島唄は何も考えなくても「自分はこれなんだ」という核があるのですが。言葉に対して感情をどう表現したらいいのか、すごく難しいです。

—『西郷どん』メインテーマには歌詞がありませんね。作曲家の富貴晴美さんからは、どんなリクエストがあったのですか。

曲の中に奄美の島唄の声を入れたいということで、ライブを観ていただき、お声がかかりました。「曲の中で西郷さんの人生を描きたい、音楽を引っ張る気持ちで歌を歌ってほしい」と言われました。

私の解釈では、私のパートは西郷さんが奄美で過ごした時間。島に流されて言葉も分からない中での暮らし、そして薩摩に戻り、前に向かって歩き始める流れをイメージしました。

—曲の中でガラリと空気が変わりますよね。アンナさんの声からは、哀切さと同時に神秘性も感じます。

よく「どんな気持ちを込めて歌っているんですか」って聞かれるのですが……何も考えてない(笑)。

何も考えてないというか、無心です。

『西郷どん』でも曲の全体的な流れや西郷さんの気持ちの動きなどを考えた上で、最終的に声を出しているときは、無心。考えながら歌うと、歌い方も変わってしまうような気がします。

—コンテンポラリーダンス(※)の公演に歌で参加するなど、海外でも多彩に活動されていますが、今後はどのような活動を?

※コンテンポラリーダンス……バレエ、フラメンコ、ジャズダンスといった既成の枠に捉われない自由なダンス表現

ダンサーの動きに合わせて歌うことの難しさを感じつつ、楽しんでいます。世界中にいろんな音楽があるので、その中でどう自分の声が活きるか、島唄がどう発展していくか、そういったことを考えるとすごく楽しいですよね。

私の根っこは奄美にあるので、島唄を軸に枝分かれしながら成長する1本の木のように、これからも歌を通して色々な表現に挑戦していきたいです。

里アンナの声に奄美を感じてもらえたり、奄美を知らなくても、日本のどこの地方の出身なんだろうとか。私の歌を聴いて、そういうことを思ってもらえるような歌い手になりたいと思っています。


(お話を聞いた人)
里 アンナ(さと・あんな)

1979年鹿児島県奄美市(旧笠利町)生まれ。伝説の唄者(うたしゃ)・里 国隆に教えを受けた祖父・恵 純雄の手ほどきで3歳より島唄を始め、島唄の大会で数々の賞を受賞。2005年に山本寛斎プロデュースの「愛・地球博」に参加、日本コロムビアより「恋し恋しや」でメジャーデビュー、これまでに7枚のアルバムを制作。2013年と2015年に新演出版『レ・ミゼラブル』にファンテーヌ役でミュージカル出演。2016年にNYで初の単独島唄ライブを開催、フラメンコ舞踏団Arte y Soleraスペイン公演や、ベルギーの振付家シディ・ラルビ・シェルカウイのダンス作品「ICON」の世界ツアーに歌手として参加するなど、国内外で活躍する。シルク・ドゥ・ソレイユ公認ボーカリスト。2018年 のNHK大河ドラマ『西郷どん』メインテーマに歌と三味線で参加、唄が上手と評判の島の女性・里千代金役でドラマ出演。

イベント情報/
里 アンナ×佐々木俊之コンサート

2018年5月21日(月)
18:30開場 19:00開演
出演:里 アンナ(島唄・三線)、佐々木俊之(ドラム)
ゲスト:富貴晴美(大河ドラマ「西郷どん」音楽担当/作曲家・編曲家・ピアニスト)
会場:豊洲シビックホール
チケット:4,000円(税込)全席指定
問い合わせ:ミンファプラン03-5378-5690

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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