つくろう、島の未来

2021年02月25日 木曜日

俳優、コラムニスト、似顔絵を折り紙で表現する「折り顔」作家として活動、東京・下北沢でカレー店「般°若(パンニャ)」も営む松尾貴史さん。
大のお酒好きでもあり、1992年日本酒造組合中央会・日本酒大賞奨励賞を受賞、日本ソムリエ協会名誉ソムリエの称号を持つ。
紀行番組で島々の酒場を巡ったという松尾さんに、島旅や島酒場の思い出を伺った。

※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

聞き手・石原みどり
写真・渡邉和弘
協力・佐渡の酒と肴 だっちゃ

ritokei

今日は、佐渡島(さどがしま|新潟県)のお料理やお酒を囲みながらお話を伺いたいと思います。松尾さんは、番組の撮影で佐渡島にも行かれていますね。

松尾さん

島々の酒場を一人で飲み歩く紀行番組『離島酒場』(CS放送「旅チャンネル」)で、東京の伊豆諸島(いずしょとう)や日本最西端の与那国島(よなぐにじま|沖縄県)など10島を巡り、佐渡島にも伺いました。佐渡は金山があって各地から人が来ていたし、流刑地でもあったので、古くから多様なものが混じり合って来た文化の深さを感じました。米もいいから酒造りや食の文化も豊かですよね。

番組出演のきっかけは、知り合いのプロデューサーから「吉田類さんや太田和彦さんたちが行かないような酒場に行こう!」と誘われて、島々を巡ることに。全部いい旅でしたよ。本当に楽しませてもらいました。

ritokei

ちなみに、初めての島旅は、どちらへ?

松尾さん

若かりし頃、同級生3人で神戸の港から大島運輸の長距離フェリーに乗り込んで、奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)最南端の与論島(よろんじま|鹿児島県)へ。地元のおばあちゃんの言葉が全然分からなくて、1972年の沖縄返還以前まで国境の島だったことを実感しました。夜は口上を述べて黒糖焼酎の盃を一気飲みする「与論献奉」で酔いつぶれました。

ritokei

島酒の聖地・与論島で洗礼を受けたんですね(笑)。

松尾さん

撮影でも色々な島に行きましたが、島の方は思いやりがあって温かいですよね。シャイなんだけど、ちょっと馴染むと親しくしてくれる、そんな変化もうれしくて。

思いやりがあるというのは、想像力の豊かさだと思うんです。街中にいる人よりも、海を見ながら水平線の向こうを思ったりして、想像力が豊かになるのかもしれない。協力し合う社会性も強いですね。皆さん仕事以外に地域のこともされていて、ご多忙なのでしょうが、でも優しいんですよね。

それに、島に行くと子どもたちがのびのびしていて、「こんにちは!」と元気に挨拶してくる。お互いに気にかけたり声をかけ合ったりするのは、コミュニティの基本だと思います。都会では、防犯のために知らない人に挨拶することはありませんが、そんな社会でいいのかな、という思いはあります。

ritokei

島々を巡った中で印象に残ったできごとは。

松尾さん

島といえば思い出すのが、昔、詩人で女優の川津花さんと北海道の利尻島(りしりとう)にロケに行ったんです。あの、利尻島って面白いですよね。アイヌ語で「リ・シリ」って「高い島」の意味だから「高い島島」になっちゃう。で、外国の地図を見ると「リシリトウアイランド」って書いてあるんだから(笑)。

それで、たまたま宿泊した民宿に有名人の色紙がたくさんかかっていて、その中に、額に入って色あせたイラストがあったんです。乳母車に乗った赤ちゃんの周りに色とりどりの花が咲き乱れている絵なんですが、ずれて一部が見えなくなっているのが、どうにも気になって。一旦、額を外して入れ直させてもらったら、20年ぐらい前の日付と隠れていたサインが出てきて、なんと、花さんのお父様の川津祐介さんが描いたものだったんです!

日頃はこの世に不思議なことなどないと思っているのですが、島に行くと心に余白が生まれて、日常とは感覚が変わるのかもしれませんね。

松尾さん

アートの島として知られる島を取材した時に、乾物やら日常雑貨を並べて売っている個人商店のおばあちゃんに話を聞いていたら「私は外国の方の声が聞こえたら、怖いから鍵をかける」と言われたことがありました。

島がアートで有名になって世界中から観光客が来るようになったけれど、近くにコンビニエンスストアができて、お客さんがそちらに流れてしまった。冷やかしで入ってきて写真だけ撮っていったり、万引きされたりすることも増えたって、しょんぼりしているんです。

ritokei

胸が痛いですね。観光は島の経済を潤してくれるけれど、島のおばあちゃんが元気をなくしてしまうのは悲しいです。

松尾さん

袋にたっぷり入った桜えびが150円で売っていて、「そんな気を使わんでいいから」って言うおばあちゃんから、奪い取るようにして買って帰りましたけどね。

面白かったのは、島根県隠岐諸島(おきしょとう)の中ノ島(なかのしま|海士町)を取材した時のこと。日中、女性運転手さんのタクシーで観光案内をしていただいて、夜は地元の居酒屋を2軒取材。更にもう1軒……とスナックに立ち寄ったら、昼間の運転手さんがスナックのママに変身していたことがありました。

ritokei

島ではもともと半農半漁だったり、季節ごとにさまざまな仕事があったりするので、複数の生業を持つ方も多いです。隠岐といえば、海士町と知夫里島(ちぶりしま|島根県)で撮影された映画『カミハテ商店』にも出演されていましたね。

松尾さん

若いホステスに絡んで水をぶっかける酔っ払いの役でね。あの映画は、私が客員教授をしていた京都造形芸術大学(現・学校法人瓜生山学園 京都芸術大学)映画学科のプロジェクトで、プロと学生が共同で制作したんです。授業の一環で学生たちも役者として出演していて、ホステス役は私が演劇を教えていた学生。撮影とはいえ、教え子に酷いことをしました(笑)。

ritokei

テレビや映画出演のほか、ご自身のYoutubeチャンネルでも映像を発信されていますね。

松尾さん

撮影や音声は、親しいスタッフに手弁当でやってもらっています。高性能な機材がどんどん小型化して手頃になってきているので、少人数でも映像制作がしやすい時代になってきました。

島を空撮するなら、海の上から、ぐーっと浜辺に寄っていくような画も素敵ですよね。昔だったらクレーンを使うような大掛かりな装置が必要でしたが、今ならドローンを使って撮れる。『離島酒場』では、制作会社の社長自らドローンを操作して撮影したことも。最近は、島にお住いのプロカメラマンでドローンをやっている方も多いですね。

ritokei

今後、島々から発信される映像作品も増えそうで、楽しみです。最後に、松尾さん流島酒場の楽しみ方を教えてください。

松尾さん

私は島酒場の専門家でもなんでもないですけど(笑)。私の場合、まずはお店の方に聞いてお勧めをいただきます。

ritokei

その時の旬や地酒に合う肴は、地元の人が一番ご存知ですもんね。

松尾さん

旬のものや名産品も、その年によって時期がずれたり出来が違うこともあるだろうし、決めつけないで、まずは地元の方が勧めるものを受け入れてみる。初めから「島に溶け込もう!」とか、変に頑張らなくっていいんです。そんなの、向こうにも伝わっちゃいますから。

「おいしいですね」とか「次はどんなのがいいでしょう」とか、ぽつりぽつり言葉を交わしながら杯を重ねて、一つひとつ味わっているうちに、だんだん気持ちがほぐれていく。島に行ったら、そんな風に少しずつ信頼関係のやりとりをすると、心地よく過ごせると思います。


松尾貴史(まつお・たかし)
1960年、兵庫県神戸市生まれ。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業。俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト、「折り顔」作家、カレー店「般°若(パンニャ)」店主。Youtubeチャンネル「松尾のデペイズマンショウ」にて多彩な芸を発信、noteにてエッセイを投稿する。1992年日本酒造組合中央会・日本酒大賞奨励賞。2002年日本ソムリエ協会・名誉ソムリエNo.75。近著に『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版)。作品集『折り顔』(リトルモア)など著書多数。

佐渡の酒と肴 だっちゃ
〒111-0035 東京都台東区西浅草2-27-1 伊東ビル 1F
電話:03-5830-3790
営業時間:17時~24時(日祝23時)
定休日:不定休
https://da-cha.net/

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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