つくろう、島の未来

2024年03月19日 火曜日

つくろう、島の未来

©️2019「僕に、会いたかった」製作委員会

隠岐諸島を舞台にした映画『僕に、会いたかった』が5月10日に公開を迎えた。記憶を失った島の漁師・池田徹(TAKAHIRO)と、そんな息子の葛藤に苦しむ母親の信子(松坂慶子)の元に、都会の子どもたちがやってくる。「島留学」の好事例として実在する海士町(中ノ島)の隠岐島前高校と隣島・西ノ島で撮影された映画で長編映画単独初主演を務めたTAKAHIROさんと、錦織良成監督に話を伺った。(インタビュー・鯨本あつこ 写真・梅谷秀治)

TAKAHIROさんインタビュー|島の絶景と人々の温かさを見てほしい。

映画『僕に、会いたかった』あらすじ

島で一二を争う凄腕の漁師だった池田徹(TAKAHIRO)は、漁をしている最中に嵐と遭遇して、目覚めた時には全ての記憶を失っていた。

事故後、徹は一切漁に出ることなく、失った記憶に怯えながら日々を生きていた。過去を振り返ることも、未来へ動き出すこともできないまま葛藤していたのだ。そんな息子の姿を見て、母親の信子(松坂慶子)も苦しい思いを抱えている。

一方、島のフェリー乗り場には木村めぐみ(山口まゆ)、福間雄一(板垣瑞生)、横山愛美(柴田杏花)、の高1の留学生が到着する。県立隠岐島前(どうぜん)高校では「島留学」と称し、都会から越境入学で生徒を受け入れているのだ。

「島留学」では、単身やってくる生徒に島で親代わりになってくれる世話役を島内から募集して、生徒ごとに「島親」としてあてがい、島で生徒たちが快活に生活できるようサポートしている。 池田家もこの取り組みに賛同し、雄一の「島親」になった。徹は漁協の休みに釣りに出かけ、距離を縮めていく。高校では生粋の島生まれの生徒と島留学できた都会育ちの生徒が悩みや葛藤をもちながらも、それぞれ将来への夢や希望に向かい、絆を深めていく――。

島留学の背景にあるものを描けたら。錦織良成監督インタビュー

ritokei

本作は「島留学」をベースに描かれていますが、その理由を教えてください。

錦織監督

島前高校の島留学は、成功例として国会でも話題にされていて、他の島にも広がっています。島でそれができているのはなぜなのか? と思ったときに、島の人たちが持つ特有の温かさとか、島が持っている結束感などが影響しているんじゃないかと感じました。

写真・梅谷秀治

そこで、はじめは島留学を直球で描こうと思ったんですが、TAKAHIROくんが学校の先生を演じるのはありだと思う反面、学校の物語になると行儀が良くなりすぎる。HIROさんともあまりTAKAHIROくんがやりそうにない役がいいねという話にもなり、TAKAHIROくんを漁師にし、島の人たちの優しさを描く話にしました。

ritokei

島留学のどういったところに惹かれたのでしょう?

錦織監督

島留学が成功した背景で、学校の先生ががんばっていらっしゃるのはもちろんですが、それだと全国の学校でも同じかもしれません。島留学の成功だけを描くと、システムの話になってしまうので、映画ではあえて描きませんでした。

でも、島留学でどんな化学反応が起きているのかといえば、島には逃げられない環境があって、その環境に好きでやってきた子どもたちがいて、自分の子どもでも孫でもないのに留学生を支え、愛おしくてたまらなく感じている島の人たちの愛情がある。

そのことが、学校を単なる勉強の場所だけじゃなくし、地域一帯で子供を育てるというかつての日本社会が持っていた教育を実現しているように思いました。

©️2019「僕に、会いたかった」製作委員会

ritokei

島の魅力ですね。

錦織監督

医療面でみても、島で暮らすことはリスクが高いですよね。自然が豊かで、海がきれいで、魚も隠岐牛も美味くても、それだけでは生きていけない。だけど、それでも島が良いというのは一体何なのかというと、やはり、お金では買えない人の愛情にダイレクトに触れられることだと思うんです。

島が持っている包容力が、島の子どもたちにいい影響を与えているんじゃないか。それを映画に描けたらと思いました。

ritokei

実際の島の方々はいかがでしたか?

錦織監督

皆さんが助けてくれて、スタッフも島留学の子どもたちみたいになっていましたね。

©️2019「僕に、会いたかった」製作委員会

ritokei

そうすると、スタッフにも島が好きになった人もいらっしゃるのでは。

錦織監督

個人的に島の方とLINEでつながっている人もいますね。『渾身KON-SHIN』のときもそうでしたが、映画を撮った何年も後に、島のお祭りにいくと当時のスタッフが20数人、自費できていたんです。みんなお金をかけずロケバスを借りて「みんなで東京から来ました」って。そのくらい島の愛情に触れていたんだと思います。

ritokei

いいお話ですね。

錦織監督

日本社会から愛情がなくなったとか、そんな大上段に構えたことは言いたくないんですが、島には古き良き日本が持っていた何かがあるように思います。

漁師さんなんか言葉は荒っぽいのでドキッっとしますが、東京とかにいると、すごく丁寧なんだけど愛情がない人がいっぱいいます。マニュアル通りにきちっとしゃべっているけど、この人、本当はそんなこと思っていないだろう? と思うような。

一方、島には言葉は荒っぽいが、本当に思ってくれる人がいる。マニュアル通りじゃなくても、気持ちがあれば言い方なんかどうでもいいんだと感じることができる。

今の時代はそんなことが大事なんじゃないですかね。

©️2019「僕に、会いたかった」製作委員会

ritokei

島の人とのコミュニケーションの中で一番印象深かったことは?

錦織監督

皆さんとてもリアリストなんです。映画を撮影するのに、自分が何をすればみんなが前に進むのかを考え、恩着せがましくなくフォローしてくれる。映画のプロじゃないのに、情報収拾しながら、みんなの顔を見ながら、パンパンパンと準備してくれましたね。

映画に限らずとも、ものごとをやるときに「僕はやったことがないから」とか「私には経験がないからできません」という人は多いですが、島の方々はやったことがないことでも、相手が何を困っているんだろうと考えて、すっと入ってくる。

島にはいろんなものがなくて、娯楽も少なければ自分ひとりで楽しむようなものはありません。でも、だからこそみんなで支え合いながら、ちょっとした人生の機微のなかで楽しみを見つけて生きている。

ものすごい人間力と包容力があるからこそ、中途半端に「島っていいですよね」と上っ面だけで入っていくと大変な火傷をしてしまう。

大火傷はしていませんが、僕も『渾身 KON-SHIN』を撮影するときに「島の伝統文化を観光のためにやるなんて、そんなチャラチャラしたことはやらないぞ」と言われて、ものすごく取材をしました。

ritokei

監督が思う隠岐諸島の魅了は?

錦織監督

島根は歴史が非常に深く、日本の原風景を描ける場所なんです。

京都が1000年なら島根は2500年。隠岐諸島には天皇が二人も流されているという歴史に裏付けられた風土があり、隠岐にしかない動植物やお祭りもあり、何より人々の根っこが面白いんです。

TAKAHIROさんインタビュー|島の絶景と人々の温かさを見てほしい。映画『僕に、会いたかった』

『僕に、会いたかった』作品情報

EXILE TAKAHIROが長編映画単独初主演を務める隠岐諸島を舞台にしたヒューマンドラマ。記憶を失った男を島の人々の優しさが包み込む。家族の絆と再生を描いた感動作。母親役の松坂慶子をはじめ、山口まゆ、小市慢太郎などが共演。5月10日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
https://bokuai.jp/

配給:LDH PICTURES(2019/日本/カラー/5.1ch/シネマスコープ/96分)
監督:錦織良成
エグゼクティヴ・プロデューサー:EXILE HIRO
脚本:錦織良成、秋山真太郎

離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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