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インタビュー

【島Interview|訊く】田崎真也さん「もっとおいしく」が伝統を進化させる

「ソムリエ」とは食の専門知識をもとに飲み物を管理・サービスする専門家のこと。1995年、世界最優秀ソムリエコンクールでヨーロッパ圏以外の出身ソムリエとして、初めて優勝した田崎真也さんは、現在は国際ソムリエ協会の会長も務める。魚を釣りに子どもの頃から島々にも足を運び、童心の記憶に残る島の風景をきっかけに、日本各地の島々で造られている「島焼酎」の蔵を訪ね歩いたという田崎さんに、話を伺った。
※この記事は『季刊ritokei』18号(2016年8月発行号)掲載記事になります。

聞き手・石原みどり 写真・大久保昌宏

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− 『田崎真也の今こそ島焼酎』では全国の焼酎と泡盛の蔵を取材されていますが、そのきっかけは?

ソムリエはワインに限らず、飲み物全般を扱うんですが、焼酎ブームが来る少し前に、六本木で豚やイノシシ肉を専門に扱う居酒屋を開店することになりました。南方でもよく食べられている豚肉は、焼酎や泡盛がよく合いますが、ふと足元を見たら東京にも焼酎があることに気付きました。中高生の頃、伊豆諸島へ釣りに通っていたんですが、そこで焼酎を見かけていたことを思い出したんです。

(お店の開店)直前には伊豆群発地震や三宅島(みやけじま|東京都三宅村)の噴火があり、伊豆諸島の観光が大打撃を受けていましたし、昔からお世話になってきた島々への応援も込めて、伊豆諸島の焼酎だけでやってみようと決めました。

当時、伊豆諸島の全蔵を扱っている酒屋さんや問屋さんは、ありませんでした。ならば直接行って買い付けようと、焼酎蔵を訪ねて回りました。一軒ずつ、同じ話をしながら青ヶ島(あおがしま|東京都青ヶ島村)まで行き、直接取引で仕入れた伊豆諸島の焼酎で、店を始めました。

− 伊豆諸島から始まった島焼酎なんですね。

開店してしばらくした頃、出版社の誘いで本格焼酎を楽しむ本を一冊書いたんです。すると間もなくして焼酎ブームが到来し、毎日のように焼酎の取材が来るようになりました。

ブームになると「幻の焼酎」を欲しがるお客さんも出てきます。小さなお店でしたから、闇雲に有名銘柄を揃えるよりもコンセプトを決めて置こうと考え、泡盛や九州の島焼酎なども置くようになった。そんな頃、取材で店に来た編集者と写真家の管洋志さんと雑談するなかで「島焼酎をテーマに連載をしましょう」という話になり、2003年から2年間、連載をやらせていただきました(※1)。

※1 雑誌『一個人』(KKベストセラーズ発行)の連載

− 印象に残る出来事はありますか。

酒造りを紹介し、蔵の外観やボトルの写真を撮るだけではなく、その土地の食を併せて取り上げました。地元の方や蔵元さんと一緒に飲みながら、郷土料理も並べて、その酒が土地の食べ物と合わせてどんな風に飲まれてきたかを話しました。島によって食文化が異なるのは、おもしろいところでした。

− 島によって個性がありますよね。土質や水の味も違いますし。

酒にまつわる文化の違いも肌で感じましたね。与論島(よろんじま|鹿児島県与論町)の「与論献奉(よろんけんぽう)(※2)」、宮古島(みやこじま|沖縄県宮古市)の「オトーリ(※3)」。与那国島(よなぐにじま|沖縄県与那国町)には初留(しょりゅう)(※4)を詰めた「花酒(はなざけ)」があり、始めは割り水された30度のお酒を飲んでいるけど、酔っ払ってくると「お客さんだけに」と言いながら43度を出され、最後は60度の原酒を出してくる。酔わせて、倒して、もてなすんですね(笑)。

※2 宴会の場に集まった1 人ひとりが口上を述べ、杯を飲み干しては次の人に回していく奄美群島の与論島の飲酒作法

※3 宮古島の飲酒作法で、元々は祭祀で御神酒を飲む際の作法に由来する。先ず「親」となる人が口上を述べ杯を飲み干し、次に隣の人に酒を注いだ杯を渡し、渡された者は黙って杯を飲み干し親に返す。全員に杯が一巡するまで繰り返し、親の一人手前までオトーリが回ると、杯を飲み干した後、その杯へ酒を満たして親へ返杯する。一巡すると、次の親を指名して同じことを繰り返す

※4 もろみを蒸留して最初に出てくる原酒。アルコール度数は60度ほどで、濃厚な風味がある

泡盛だけでなく、焼酎や日本酒でも、そうした文化がありますが、中国や韓国など東アジアの国から伝わった伝統文化でしょうね。

− 独特のおもてなしですね。

沖縄最北の伊是名島(いぜなじま|沖縄県伊是名村)や伊平屋島(いへやじま|沖縄県伊平屋村)などは、特に「もてなしの島」だと感じました。昔ながらの琉球家屋があり、門も玄関も開け放たれていて、そこへ人が自由に出入りする。家々の縁側にはお菓子と冷たく冷やしたお茶が置いてあり、通る人は誰でもふらりと立ち寄っていい。そんな姿に感動しました。かつてはどこもそうだったであろう、日本らしい近所付き合いやコミュニケーションを再発見できる場所だと思います。

東京の下町にも似たような人情がありましたが、いまや、人情や何かを共有することが、実生活ではなかなか感じられない。

離島と本土間の交通は便利になってきましたが、島と島との間はわりと不便なので、かえって島ごとの文化が残りやすくなっている気がします。

− 分かたれているからこそ、残っていくものもあるわけですね。

一方で、島と外部の交流から生まれた文化も多い。三宅島や八丈島(はちじょうじま|東京都八丈町)の「御赦免料理」は、島に流された流人が赦されて本土に帰るときの御礼の料理だし、罪を着せられ鹿児島から流された先の八丈島で焼酎製法を伝えた丹宗庄右衛門のように、島文化の発展に貢献した流人もいます。

沖縄の大東島のように、八丈島から移住した人々が「八丈太鼓」や「島寿司」を伝え、残っている例もある。食文化から島の歴史の歩みが浮き彫りになって見えてくることがあります。

− 島酒は日々の食事から祭などハレの場まで欠かせないものですよね。闘牛試合の前に焼酎と塩で牛の角を清める徳之島(とくのしま|鹿児島県徳之島町)のように、独特な使い方をする例もあります。

ワインがキリスト教の儀式に使われ、日常酒になったように、酒は宗教と関わりが深く、焼酎や泡盛も、産地では神事の場でお神酒として使われています。

与那国島には、埋葬した遺骸を7年目から13年目に洗い清めて再び埋葬する「洗骨葬」の習慣があり、60度の「花酒」を故人とともに埋葬し、洗骨の際にお清めに使い、集まった親戚縁者で残りを飲んで弔う。そんな伝統もあります。

− 薬代わりに切り傷に塗ったり、調理に利用する例もありますね。

暑い地域では、食べ物が腐敗しないよう高濃度のアルコールの殺菌効果を利用して焼酎や泡盛に漬け込む調理法があるんです。島という限られた環境で自給自足するなかで、工夫して土地の恵みを活かした酒や利用法が生まれてきたのだと思います。

残念なのは、島に限らずですが、流通が発達して、色々なものがすぐ手に入るようになった反面で、地元の人たちが伝統的な郷土料理を食べなくなったことです。

− 伝統を残すには何が必要でしょうか。

「食とは何か」をもう一度見直すことが必要です。自らのルーツを見直し、伝統的な食文化を絶やさぬことが、その島が在り続けるために最も重要なことなのだと気付くべきです。

それぞれの地域に素晴らしい食文化があるんです。それを子どもたちに伝えていかないと。

伝統というのは、現在を含めたプロセスなんです。「どうやったらもっとおいしくなるのかな」と、島の人たちが毎日食べながら考えていくことが大事で、昨日の味よりもおいしいとみんなが言えば、今日つくったものが数十年先に伝統になるんです。

− 色々な試行錯誤の結果が伝統として残っているわけですからね。

人々の嗜好もシチュエーションも異なる現代で、100年前の料理をそのまま提供しても良いとは限らない。伝統に現代のスピリッツを吹き込む必要があります。

しかし、伝統の味を食べ込んで自分のものにしていなければ、表面だけをいじった変なものができてしまう。フレンチの料理人を引っ張ってきて「島の食材で新しい名物をつくりましょう」とやっても、それはおそらく残っていかないんです。

例えば、伝統の島料理をつくっているおばあちゃんたちが「新しいものをつくってみよう」という発想をもてる、そんな環境づくりが大切ですね。道の駅などで成功例があるように、おばあちゃんたちが畑でつくった野菜を材料に、食堂で昔ながらの手料理を提供する。そこに来たお客さんに「おいしいですね」と言われることによって、やる気が出るんです。

− おいしかったら「おいしいよ」と伝えることも、大事なんですね。

褒められるとうれしくなって「もっとおいしくしよう」と思う。そこに進化が生まれるんです。

やがて「この野菜どうやったらもっとおいしくつくれるんだろう」と広がっていく。島の人たちみんなが、そんな気持ちになっていくと良いですね。


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(お話を聞いた人)
田崎真也(たさき・しんや)

1958年東京生まれ。1983年に日本で開催されたソムリエコンクールで第一位に。1995年に世界最優秀ソムリエコンクールでヨーロッパ圏外出身ソムリエとして初めて優勝し、世界一の座につく。2010年に国際ソムリエ協会会長就任。『田崎真也の今こそ島焼酎』ほか著書多数。

S+(エスプリュス)
田崎真也氏来店日はFacebookページにてご確認ください
季節のコース料理:15,000円〜
営業時間:17時〜 予約番号:03-5733-3212
E-Mail:tws-s★abeam.ocn.ne.jp(★を@マークに変更)
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『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

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