つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

南西諸島を中心にいくつかの島々に残る風習「洗骨」(※)を描いた映画が公開中だ。監督・脚本は照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督。小さな島の民俗文化を描いた本作がどのように生まれたのか、照屋監督と主演の奥田瑛二さんに作品誕生の背景について伺いました。(インタビュー・鯨本あつこ 撮影・垂見健吾)

(※)風葬や土葬を経た遺骨を洗い清めて改葬する風習。東南アジアなど世界各地で見られ、日本の離島地域にも残る。

映画『洗骨』あらすじ

洗骨───。粟国島の西側に位置する「あの世」に風葬された死者は、肉がなくなり、骨だけになった頃に、縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらうことで、晴れて「この世」と別れを告げることになる。

沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。長男の新城剛(筒井道隆)は、母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、4 年ぶりに故郷・粟国島に戻ってきた。実家には、剛の父・信綱(奥田瑛二)がひとりで住んでいる。生活は荒れており、恵美子の死をきっかけにやめたはずのお酒も隠れて飲んでいる始末。そこへ、名古屋で美容師として活躍している長女・優子(水崎綾女)も帰って来るが、優子の様子に家族一同驚きを隠せない。

様々な人生の苦労とそれぞれの思いを抱え、家族が一つになるはずの“洗骨”の儀式まであと数日、果たして 彼らは家族の絆を取り戻せるのだろうか?

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

愛妻の骨を洗い、気づいたこと。奥田瑛二さんインタビュー

ritokei

粟国島で『洗骨』の撮影に臨まれたときの印象について教えてください。

奥田

粟国島のお墓を見た時に、きれいなところだなあと思いました。良い風が吹いていて、ここで肉が朽ち、骨になっていくのかと想像したんですけど、全然、恐怖心とか奇怪な印象はなかったですね。

そこで誰かが「粟国って塩もいいんだよ」ってぼそっと言ったんです。粟国では日本有数の塩がとれる。そう聞いて納得しました。塩って、人にとって命の素のようなところがあるじゃないですか。

そうか、良い塩がとれるなら間違いない。(島の人の)人柄も良いし、ここで洗骨が撮れるなら幸先いいぞ、と思いました。

ritokei

幸先の良いスタートだったんですね。

奥田

それでクランクイン前に監督が「大事な神様にお祈りがしたい」というので、連れていってもらいました。拝所で正座をして、神様の媒介になるというおばあちゃんが祝詞をあげて。海の神様、山の神様に…..。すると不思議な感じがしてね。そしたら「奥田さん、見えたでしょ」って言われて。

ritokei

???

奥田

3人で行ったからそこには照屋監督も座っているんですけど、おばあちゃんは「見えたでしょ。奥田さん、うーん、あなたは見えた」って。

だから「はい、見えました」っていったら。監督が「ええええっ!!」ってこういう顔をして(笑)。「奥田さん見えたんですか?!」「うん、見えた。えーと、菩薩様とね、うーん、菩薩かなあ」って。

(おばあちゃんは)「奥田さんは見える人だから」と言って、監督には「あんたは見えないよ」って(笑)。

ritokei

ははは。

奥田

そういうこともあって、ますます島に同化していく自分がいました。今日までに何十本もインタビューしてきたけど、この話をしたのは初めてです。今日は離島経済新聞の取材だから(笑)。

ritokei

ありがとうございます(笑)。

奥田

子どものころから感受性は強いんですけど、信綱という役ではお墓の前に正座して、花を手向け、あの世とこの世の門を叩くわけです。だから、神様に気に入られたのかなと思って、「よし、これで良い映画ができる」という気持ちになりました。それって、離島ならではのミステリアスなところじゃないですか。

ritokei

島に呼ばれたんですね。

奥田

そういうことです。最初に神様に挨拶をしないことには島で過ごすことはできないんだよ……って、島の専門家になったみたいに言ってみたり(笑)。

ritokei

印象深いエピソードですね。撮影中に洗骨を体験された時にはどのような印象をうけましたか?

奥田

……美しく、心が洗われる儀式でしたね。それ(洗骨)によって骨を媒介にして、いわゆる森羅万象とつながった瞬間を感じました。擬似体験だけど、心を込めて、経験できたのはよかったですね。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

信綱は愛する妻に先立たれた役ですが、愛する人の骨を洗うのはどういう気持ちなのかなと考えさせられました。

奥田

撮影が終わって、いろいろ考えたことがあって……。
信綱という役は、愛してやまない女房に苦労をかけて、先立たれてしまい、でも、お互いの愛情はしっかりしていたから、純粋な気持ちで骨にも接せられたと思う。でも、世の中にはいろんな形態の家族がいらっしゃるから。妻に対して贖罪という意味をもって先立たれてしまって「うわーしまった! かあちゃんごめんなー! もっとあんたを幸せにすればよかったんだけどよー……」っていう親父もいるじゃないですか

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

奥田

その人はその人なりに、洗骨で頭蓋骨に触れ、骨、髪の毛、肉の破片を洗い流してあげたときに、(信綱とは)違った感情であふれるんじゃないかな。

いろんなシチュエーションの人がいて、それぞれ想いが違うけど、最終的には「よかったー」「ありがとうねー」という人のほうが多いというか、ほとんどの人がそういう気持ちで洗骨をされるんじゃないかな。推測ですけど、そういう想いを抱えて、臨む儀式のような気がしました。

ritokei

『洗骨』には死だけではなく、命のリレーも描かれています。

奥田

映画は「命がつながっていく」ということを描いていて「女が命をつなぐんだよ」っていう象徴的なセリフもあるじゃないですか。あれこそが本当だと思います。そうだよなあ、やっぱりミトコンドリアは女なんだよなあ……と思いました(笑)。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

粟国島でも試写会をされたそうですが、島の人の反応はいかがでしたか?

奥田

粟国島での試写会は怖かったんですよ。本物の人たちの前で映画を観終わったあとに話したりするのは……。

でも、みなさんに「本当に島の人だったよ」と言ってもらったときには、これで次の(那覇の試写会)の舞台挨拶も自信を持ってできるなと思いました。

ritokei

粟国島の方々も笑ってくださったんですね。

奥田

そうです、ゲラゲラ笑っていただいて。だけど、そこには小学生くらいの子どもたちもたくさん見に来ていて、上映中もぎゃーぎゃーしゃべっていて(笑)。

まぁ島だからいいかと思っていたんですけど、洗骨のシーンで棺桶の蓋を開けた途端、ピタッと静かになって、そこから映画が終わるまで、誰もしゃべらなかった。

ritokei

へえ!

奥田

怖いも何もない、ただただ静寂。それまで、自分たちの住んでいる島が映って、いろんなエピソードが出てくるから、笑ったり話をしていたりした子どもたちが、(棺桶の蓋が)開いた瞬間にしーんと。まるでスクリーンに飲み込まれるように観ていた子どもたちが印象的でしたね。

ritokei

洗骨のある島で生まれ育っている子どもたちだけに、感じることがあったんですね。

奥田

それ(洗骨)によって(先祖の)魂に守られてということもありますからね。

ritokei

洗骨を経て先祖に自分を守っていただく、本当に美しい民俗文化ですよね。日本は99.9%が火葬ですが、離島地域にあれほど美しい民族文化があることは、誇れることだと感じました。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

奥田

(粟国島の)断崖絶壁のところにある祠の墓に入りたいなと帰りのフェリーから眺めていて思いました。別に東京から誰も来なくていいから(笑)。

ritokei

奥田さんがですか?

奥田

役場の人に遺言で、飛行機運賃とツボとお金を用意するので、そのプロにやってもらいたい。5年くらい風葬してもらって、もうそのまま朽ちてもいい。神様が洗ってくれていると思えば……。

ritokei

自ら入りたいと思われたんですね。

奥田

明るいしね。ちゃんと太陽が当たるようになっているんだよ。あんなところに入れたら幸せだなと思えるじゃない? ……初めてかもしれないな。ああいうお墓がいいって思ったのは。

世の中の男子が母ちゃんと同じ墓に入りたいと思っていても、定年退職して「おい、お墓どうする?」「え、私、あなたと同じ墓なんて入りたくないわ」っていわれたら終わりじゃないですか。

ritokei

ははは。

奥田

だから自分で入りたい墓はイマジネーションだけでも決めておいたほうがいいんだよ(笑)。東京にお墓は用意していますが、自分の本体はできれば粟国島のような祠がいいなって思いました。死んでからのことは誰にもわからないけど、たぶん自分の入りたい墓に入ったほうがいいと思うんだよね。

ritokei

そう考えると、洗骨されることは本当に幸せですね。

奥田

そう思う。あれは経験した人しかわからないと思うよ。映画でやらせてもらったにしても、すごく理解できましたね。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

ritokei

今や死ぬことは寂しいことばかりでお葬式さえあげられないことも増えているのに。

奥田

団地で亡くなった独居老人にしても、縁者が誰もいなくて、コミュニティセンターにお坊さんが一人やって来てやるお葬式とか、本当にね……。

ritokei

そういう方の骨は産業廃棄物として処理されると聞きました。一方、日本には大事に骨を洗ってもらえる地域が残っている。本当に貴重な文化だと感じました。

奥田

貴重ですよ。うちの田舎は土葬だったのでおじいちゃんまでは土葬だったから、僕もできれば火葬は……ねえ。

ritokei

本当にさまざまなことを考えさせられる映画でした。本当にたくさんの人に見ていただけたらと思います。ありがとうございました。

映画「洗骨」(c)「洗骨」製作委員会

『洗骨』作品情報

ガレッジセールのゴリが本名の照屋年之名義で監督・脚本を手がけた長編作品。原案は2016年に粟国島で撮影し、数々の映画祭で好評を博した短編映画『born、bone、墓音。』。本作は奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女が共演し、筒井真理子、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎らが脇を固める。2019年1月18日(金)に沖縄先行公開、2月9日(土)より丸の内TOEIほか全国公開。 http://senkotsu-movie.com/

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離島経済新聞 目次

『季刊ritokei(リトケイ)』インタビュー

離島経済新聞社が発行している 全国418島の有人離島情報専門のタブロイド紙『季刊ritokei(リトケイ)』 本紙の中から選りすぐりのコンテンツをお届けします。 島から受けるさまざまな創作活動のインスピレーションや大切な人との思い出など、 島に縁のある著名人に、島への想いを伺います。

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