沿岸部の海藻類が、さまざまな要因で枯れてしまう「磯焼け」現象。サザエやアワビといった生き物の減少も引き起こし、漁業の依存度が高い島ではとりわけ深刻な影響が出るケースも多いなか、福江島(ふくえじま|長崎県五島市)では地域団体による磯焼け対策が実を結び始めており、豊かな海の復活に向け藻場回復が進んでいる。
※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。
(写真・長崎県五島市提供 文・竹内章)
長崎県本土と五島列島に挟まれ、豊かな漁場として知られる五島灘。この海域に面する福江島東部の崎山地区は、もともとヒジキの産地で、「集落の貴重な資金源」(地元住民)として長年、島人に恩恵をもたらしてきた。
その豊かな海に突如、大きな異変が起きたのは1998年のこと。磯焼けが急速に進行し、ピーク時には54トンあったヒジキの年間生産量が、2010年以降はまったく収穫できない事態に陥ってしまった。さらに、この地区はウニ漁も盛んだったが、磯焼けが見られるようになってからは、ウニの実入りが悪くなるといった悪影響も出るようになった。この緊急事態に立ち向かったのが、2005年に設立された崎山地区の漁業者らでつくる地域団体「崎山漁業集落」だ。
同集落は、島の漁業再生をサポートする国の「離島漁業再生支援交付金」を活用しながら、まずは磯焼けの原因究明に乗り出した。ウニの一種である「ガンガゼ」の駆除など、さまざまな対策を試みたものの明確な成果は得られなかった。2012年、2013年はヒジキの芽をカゴや金網で囲ってみたところ、順調に成長することを確認。金網が破けた場所のヒジキが消失したことと併せ、魚による「食害」が磯焼けの大きな要因ではないかと推定した。
これらの結果を踏まえ、2014年には入江の一角を「仕切り網」で囲って保護し、網の中にいたアイゴやイスズミといった食害魚を駆除したうえでヒジキなどの藻類を投入したところ、2017年には8年ぶりにヒジキ500キロ(乾燥)の収穫に成功。翌年の収穫量は800キロ(同)にまで伸びた。
同集落代表の竹野弘茂さん(75)は「それまで、ヒジキの芽がなかった場所に芽を見つけた時は期待が膨らみ、とてもうれしかったです」と、笑顔で当時を振り返った。さらに、ウニの実入りが戻ったほか、アオリイカがヒジキに産卵したり、サザエの稚貝も確認されたりするなど、失われつつあった藻場としての「機能」も回復し始めている。
同集落の取り組みは、藻場回復を実現したことが高く評価され、「第39回全国豊かな海づくり大会」の漁場・環境保全部門で、最高位の会長賞を受賞した。その後、藻場回復の成功事例として、県内各地から相次いで視察団が訪れているという。
竹野さんは「結果が出たことを踏まえ、引き続きこの方法で藻場回復に取り組んでいくが、さらに知恵を出し合いもっと良さそうな方法が見つかれば、積極的にチャレンジしていきたい」と、これまでの成果に満足することなくさらに意欲を高めている。