つくろう、島の未来

2024年04月28日 日曜日

つくろう、島の未来

愛媛県東部、瀬戸内海に面した新居浜市。そこから海を隔てて約1.5kmの新居大島(にいおおしま)は同市唯一の離島で、大島港と四国本土の黒島港は約15分のフェリーで結ばれている。瀬戸内海で活躍した村上水軍の統領・村上義弘の生誕地ともいわれ、周囲約10kmの島内には遺跡が点在し、それぞれに物語が伝わっている。

※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。

新居大島2

人口約180人の新居大島は、サツマイモの一種「白いも」の生産地としても知られている。白いもは糖度が高く、ねっとりとした食感が特長。別名「七福芋」とも呼ばれる白いもの国内の生産地は3ヶ所ほどで、なかでも新居大島の生産量が最大となっている。

しかし島内の高齢化が進み、農家の負担も顕在化した。島内は急な斜面に段々畑が広がり除草もひと苦労。畑一枚の面積が狭いため機械の導入も難しく、イノシシが出るなど鳥獣対策も必要になる。

山の奥では水がなく、場合によって雨水を活用しなければならない。収穫後、船で運搬するコストもかかる。こうした状況から白いもを手掛ける農家が減少し続け、消滅寸前の状態になっていた。

そうした中で2004年頃、地元の会社員など有志により、白いもによる地域活性化を図る動きが起こった。同市は工業都市で、白いもはほとんど唯一に近い特産品だった。

唯一の離島である新居大島を細らせてしまってはならない。農家の生活を守りたいという思いも背景に、当初この活動の中心となったNPO法人GOODWILLが同年12月に「大島白いも特区」の認定を受け、農地貸付方式による法人などの農業経営参入を実現。このことで、白いもの栽培から加工品の企画開発までの一連の流れができた。

新居大島1

オーナー制度による収穫体験を実施して来島者を増やしたほか、白いもを使った焼酎「あんぶん」を地元酒造と連携して発売。地元の高校生が企画したお菓子を発売するなど、市全体を巻き込もうとする取り組みが進められてきた。

現在、同NPO法人から農地を借りて白いもの自社栽培、および農家からの白いもの買い取りを行っている株式会社七福芋本舗の白石寛樹さんは、四国本土の出身だが、幼い頃から白いもを食べてきた。

「熱すると甘さがより引き立つので、焼きいもや、天ぷらにして食べるのが一番いいですね」と、白いもの魅力を語る白石さんは、同社の白いもの生産量は徐々に増えて当初の倍程度になっているが、農家からの買い取りが著しく減っていることを懸念している。

以前は逆で、圧倒的に農家の収量が多かった。作り手である農家の減少には歯止めがかからず、いまでは島外の人が島にやってきて白いもを栽培しているケースもあるため、その状況を踏まえたうえで「農家さんの買い取り、作り手、ひとり当たりの生産量を増やしたい」と白石さんは話す。

同社では白いもの生産に特化するべく、来年度に向けて大きな展開を考えている。ひとつは作付面積の大幅拡大。もうひとつは同社の新居大島への移転だ。

「いままで以上に島に根を張って、地元の皆さんと一緒にやっていきたい」と白石さん。というのも、白いもは収穫時に多くの人手が必要となり、多い時には10人を集めなければならない。収穫毎に10人を集めることは簡単ではないため、同社では、この課題を解決するため、島外から手伝いに入れる人を受け入れるサポート体制の構築を考えている。

明るい兆しもある。農業に興味を持つ市民が増え、白いもの栽培について声をかけると積極的に参加する人が出てきているのだ。製菓店なども商品の提案や開発に乗り出してくれている。

「白いもでご飯を食べられるようにするために、私たちはどんどん付加価値を追求し、一人あたりの生産量が増える仕組みを作っていきたいですね」と白石さん。地元との連携を大切にしながら、島の未来に向けて事業を進めていく。(取材・竹内松裕)

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特集|島にみる再生復活という希望

台風、噴火、地震、津波、人口減少、人口流出、産業衰退に学校の統廃合etc……。自然の猛威や社会変化により、昨日まであったものが無くなることもあれば、じわじわと姿を消すこともあります。自然災害の多い日本列島では毎年のように台風や豪雨、地震などの被害が起き、地域を支える人口減少にも歯止めはかかりません。 島から無くなろうとしているもの、あるいは無くなってしまったものの中には、人々の生活やつながり、心を支えていたものも含まれます。失ったものが大事であるほど、心に大きな穴があき、寂しさや悲しさ、無力さがその穴を広げてしまいます。 とはいえ、絶望もあれば、希望もある。有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』30号と連動する「島にみる再生復活という希望」特集で、島々で実際に起きている希望に目を向けてみませんか?

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