つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

2004年6月20日、利尻島仙法志の長浜神社で、約100年振りに利尻麒麟獅子(りしりきりんじし)が復活した。

麒麟獅子舞は、鳥取県東部の因幡が発祥。かつて因幡から利尻島(りしりとう|北海道)へ移り住んだ人々によって、明治時代末期より舞われていたが、1918年以降途絶えてしまう。

その後、1991年に利尻島の長浜神社で麒麟獅子舞に使われる獅子頭が発見されたことをきっかけに、鳥取市の「荒木三嶋神社伝統文化保存会」の協力を得て復活。以後、「利尻麒麟獅子舞う会」により毎年6月20日に長浜神社に奉納されている。

利尻島

※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。

故郷から遠く離れた島で暮らす自分たちを支えるために

赤い衣装が印象的な麒麟獅子舞は二人立ちの獅子舞で、因幡を発祥に、因幡地方や但馬地方の約140か所以上の地域で受け継がれている。

利尻島で麒麟獅子が舞われる利尻町の長浜地区は、明治時代に鳥取から開拓移住した「因幡衆」と呼ばれる人々が多く暮らした地域でもある。

利尻町博物館の元学芸課長で「利尻麒麟獅子舞う会」事務局長の西谷榮治さんは「故郷から約1,300km離れた利尻島で生きていく時、自分たちを支えるため、麒麟獅子を舞い始めたのでは」と考えている。

利尻島の麒麟獅子舞が1918年に姿を消した理由は明らかでないが、西谷さんは「長浜には因幡からやってきた人々が多く暮らしてきたが、青森・秋田・富山・石川県などからも多くの移住者がやってきたことや、当時はニシン漁の豊不漁が続いたことから、生業で精一杯だったことが考えられます」という。

そんな麒麟獅子舞が再び注目されたのは1991年9月。長浜神社で「獅子頭 仙法志村」と墨書された木箱に収まる獅子頭など、獅子舞の道具一式が発見されたのだ。

移住のルーツや伝統芸能の伝承を検証

獅子頭が移住者とともに鳥取から利尻島へ渡ってきたことは知られていたが、麒麟獅子舞の詳細は謎に包まれていた。

そこで、西谷さんらは長浜地区に在住し「1918年に麒麟獅子を舞った」という1908年生まれの森本清栄さんに聞き取り調査を行った。

この時の証言により、森本さんの父が1894年に鳥取から利尻島に渡った後、鳥取に里帰りした人々が1904年頃に利尻島へ麒麟獅子を運んできたことや、1918年を境に麒麟獅子が途絶えたことがわかった。

1997年、鳥取県立鳥取女子高等学校と利尻町立博物館の共同で、因幡衆の移住のルーツや麒麟獅子舞の伝承について検証が行われ、2001年には、利尻島へ移住した開拓民の故郷である鳥取市秋里で麒麟獅子を受け継ぐ「荒木三嶋神社伝統文化保存会」の会員が利尻島へ来島した。

保存会の会員にとっては、明治末期に最北の小さな島に秋里の人々が渡り、麒麟獅子が舞われたことが感慨深く、利尻島での麒麟獅子舞の復活が強く願われた。

同年8月29日の西日本新聞では、保存会代表の荒木昌さんが「麒麟獅子舞が再興され、両地の文化交流が進むようできる限り努めたい」という言葉を残している。

これを機に利尻町立博物館による長浜集落の若い人達への呼びかけが行われ、2003年4月に「利尻麒麟獅子舞う会」が発足した。

「利尻麒麟獅子舞う会」が伝統を継承

同年8月、荒木三嶋神社伝統文化保存会が利尻島に再訪し、舞の指導をしながら2004年1月には舞う会が鳥取市秋里を訪問。復活に向けた稽古を通じて、麒麟獅子舞を通して鳥取と利尻の人々との交流がなされた。

そして2004年6月20日、かつての移住者らが建立した利尻島の長浜神社にて、鳥取からの麒麟獅子舞の指導者9人と、約200人もの住民が見守るなか、ほぼ100年ぶりとなる麒麟獅子が舞われた。

麒麟獅子舞は、各地域で少しずつ舞い方が違うため、利尻でも独自の振りが舞われている。「山と海からの恵みをイメージして、風や波を表す舞を取り入れています」と西谷さん。舞う会には現在、60代から20代までの12名が所属。会員は長浜集落の居住者か、長浜集落に縁があるかで決めているという。

復活から20年を迎える2023年は利尻麒麟獅子の故郷、鳥取市秋里にある荒木三嶋神社で舞われる予定だ。

「麒麟獅子を舞い続けることで利尻島に利尻麒麟獅子があるということを広めていきたい」と西谷さん。

一時途絶えた島の文化は、復活を機に島をとりまく歴史と人を改めてつなぎ直し、新たな文化として継承されている。(取材・上島妙子)

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特集|島にみる再生復活という希望

台風、噴火、地震、津波、人口減少、人口流出、産業衰退に学校の統廃合etc……。自然の猛威や社会変化により、昨日まであったものが無くなることもあれば、じわじわと姿を消すこともあります。自然災害の多い日本列島では毎年のように台風や豪雨、地震などの被害が起き、地域を支える人口減少にも歯止めはかかりません。 島から無くなろうとしているもの、あるいは無くなってしまったものの中には、人々の生活やつながり、心を支えていたものも含まれます。失ったものが大事であるほど、心に大きな穴があき、寂しさや悲しさ、無力さがその穴を広げてしまいます。 とはいえ、絶望もあれば、希望もある。有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』30号と連動する「島にみる再生復活という希望」特集で、島々で実際に起きている希望に目を向けてみませんか?

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