2014年の春、6年ぶりに小中学校を再開させた男木島(おぎしま|香川県)が、子育て世代が移住先として選ぶ島として注目を集めている。
高松港の北側10キロに浮かぶ男木島は、フェリーで40分、1日6便のカーフェリーが就航する周囲5キロ面積1.34平方キロメートルの小さな島だ。
人口170人の男木島では、2002年に男木保育所が休所し、2008年の小学校休校に続き、2011年には中学校も休校。島から子どもの声が聞こえなくなっていた。
※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。
芸術祭をきっかけに子育て世代の4世帯が移住
そんな中、2010年に瀬戸内国際芸術祭がスタートし、会場のひとつとなった男木島には、「船が沈むのではないか」と心配されるほど、国内外から多くのアーティストや観光客が押し寄せ始めた。
芸術祭をきっかけに島に光が当たり、穏やかで明るい住民の雰囲気や、よそ者を温かく受け入れる男木島の土壌は、リピーターにも人気となった。
男木島で育った福井大和さんは、瀬戸内国際芸術祭に家族ぐるみで関わるうち、小学5年生だった娘の後押しで、大阪からのUターンを決意。第2回瀬戸内国際芸術祭が開催された2013年秋までに、福井さん家族を含む4世帯の移住希望者(未就学~中1まで子ども11人)が、881人の署名と学校再開の要望書を高松市に提出。2014年4月から6年ぶりに小学生4人、中学生2人が通う男木小中学校が仮設校舎で再開された。
その後、2016年に男木小中学校の新校舎が完成し、5月に保育所も開所。5歳児までを受け入れできる小規模保育として新校舎の多目的室を利用し、1歳から5歳まで4人が入所した。2019年現在、男木保育所には0歳から4歳までの幼児7人が通い、小学生5人、中学生1人の計13人が男木小中学校で学んでいる。
多様なバックグランドを持つ子育て世代がつくる「未来の教育」
福井大和さんと妻の順子さんは、NPO法人男木島生活研究所代表理事や、NPO法人男木島図書館理事長として、共に島の活性化に取り組んでいる。
順子さんは、運営する男木島図書館を窓口とした移住相談や移住支援のコーディネートも担当。東京、大阪など日本の大都市圏や、アメリカやオーストラリアから移住する家族のバックグラウンドは多様で、Webデザイナー、エンジニア、パン屋、美容師など職種もさまざま。今や島の人口の4割にあたる50人~60人がUIターンや二拠点居住先として男木島を選んだ人となり、その過半数が子育て世代となったという。
福井さん夫婦を含む子育て世代の移住者が、新たに取り組むのは自分たちの暮らしや子どもの教育のクオリティを上げるための活動だ。
島の子どもたちがより豊かな教育に触れられる環境を整えるよう、2019年に「未来の教育を考える男木島保護者の会」を発足させ、
「男木島、未来の教育プロジェクト」に取り組んでいる。
具体的な活動は「男木図書館で週1回英語と日本語で読み聞かせ」「月に2回程の放課後あそび活動」「男木島で宝探し」の3つ。
同会は地域コミュニティを支えるPTAとして、積極的にPBL教育(問題解決型学習)などの新しい教育に取り組んでいるが、その取り組みそのものも、男木島の新たな魅力になろうとしている。
福井さんは「こうした若手の動きを、島の年配者は温かく見守ってくれている」と話す。小中学校の再開から5年。子どもたちの姿を取り戻した男木島は、その勢いをそのままに、島の未来を切り拓こうとしている。(取材・武原由里子)



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特集|島にみる再生復活という希望
台風、噴火、地震、津波、人口減少、人口流出、産業衰退に学校の統廃合etc……。自然の猛威や社会変化により、昨日まであったものが無くなることもあれば、じわじわと姿を消すこともあります。自然災害の多い日本列島では毎年のように台風や豪雨、地震などの被害が起き、地域を支える人口減少にも歯止めはかかりません。 島から無くなろうとしているもの、あるいは無くなってしまったものの中には、人々の生活やつながり、心を支えていたものも含まれます。失ったものが大事であるほど、心に大きな穴があき、寂しさや悲しさ、無力さがその穴を広げてしまいます。 とはいえ、絶望もあれば、希望もある。有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』30号と連動する「島にみる再生復活という希望」特集で、島々で実際に起きている希望に目を向けてみませんか?
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