つくろう、島の未来

2025年12月16日 火曜日

つくろう、島の未来

400島あれば400通りの個性がある島と文化。今回は特別コラムとして、今年10月に台風22号で被災した八丈島の魚谷孝之さんが、島ならではの共助文化、被災経験を通して感じた今後考えるべきヒントを紹介します。

台風22号により甚大な被害を受けた八丈島の様子(提供:八丈写真館)

台風22号および23号によって、八丈島は断水・停電・通信障害など、生活基盤が一時的に大きく揺らぐ事態となりました。発災翌日から島内の飲食店による炊き出しが始まり、人々が自然と集まる場がつくられました。温かい食事の提供に加えて、顔を合わせて状況を語り合うことで心が落ち着き、安否確認や情報共有の役割も果たしました。災害時において“人が集まる場所”が果たす機能の大きさを実感しました。

一方で、今回の共助の即応性は、八丈島という地域の「規模感」にも支えられていたと考えています。人口約6,800人という規模は、互いの顔がある程度見える関係性を保ちながら、飲食店や事業者が多様に存在するバランスが成り立っています。この「自律性と多様性の両立」が、災害時の機動力につながりました。人口が多すぎても少なすぎても維持しにくい、八丈島ならではの構造です。

しかし、支援が重複する“善意のオーバーフロー”という課題も明らかになりました。炊き出しや物資提供が本来の需要を超え、再開しつつあった地域事業者の売上を圧迫する可能性があったからです。災害時には、善意を適切に整理し、必要とする人に過不足なく届けるための調整機能が不可欠です。

また、ライフラインの復旧が進む一方で、住民にとって大きかったのは 「進捗がどれだけ見えるか」でした。たとえ復旧に時間を要したとしても、どこで作業が行われ、どの地域がいつ頃復旧見込みなのかが示されるだけで、不安は大きく和らぎます。行政や事業者が不眠不休で対応していることは理解したうえで、透明性ある情報提供が信頼を守る鍵になると感じました。

さらに、島では慢性的な人手不足が続いており、災害時に行政だけで情報収集・判断・発信を担うことは困難です。そのため、SNSや住民の声を広く集める「ブロードリスニング(※1)」、AIによる情報統合、そして必要な情報を効率的に届ける「ブロードキャスト(※2)」を組み合わせた仕組みが、これからの災害対応の柱になると考えています。これは、人手不足時代に適した新しい公共インフラと言えます。

※1……「広く聞くこと」を意味し、AI技術を活用して膨大なデータを収集・整理する手法
※2……「広く伝えること」を意味し、多様な受信者に向けてデータを一斉送信する手法

災害は避けられません。しかし、どのように立ち上がるかは設計できます。今回の台風22号 23号の経験を教訓とし、行政と民間が平時から協力体制を築き、有事には迅速に動ける仕組みを整えることが、人口減少社会における地域レジリエンスの鍵になると考えています。


魚谷孝之(うおたに・たかゆき)
チーズづくりを起点に、産業・教育・地域を横断して魅力を編み直す。メタ認知と利他の姿勢を軸に、自然に”漏れ広がる”コラボから、八丈島がHAKKOU(発酵・発光)する未来を目指して活動中





     

離島経済新聞 目次

島から島へ 紹介したい島文化

400島あれば400通りの個性がある島と文化。 島で暮らす文化人に、お気に入りの島文化を紹介していただきます。

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