つくろう、島の未来

2024年10月10日 木曜日

つくろう、島の未来

400島あれば400通りの個性がある島と文化。島で暮らす文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?今回は石垣島(いしがきじま|沖縄県)で生まれ育ち、島にUターンして企画編集や八重山ヒト大学の運営を手掛ける、岩倉千花さんです。

※この記事は『季刊ritokei』44号(2023年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「石を投げればミュージシャンに当たる」石垣島のライブハウス

「ミュージシャンだらけのこの島で、今宵も酒を飲む。」

夜のライブバーで、酒のうまさに酔ってか酔わずかステージに上がり、楽器を手にセッションし始める高校の同級生たち。

あまりの自然な流れに、その姿はどこからどうみてもミュージシャンやバンドマンの姿なのだが、彼らは一会社員であり、パイン農家であり、消防員であることを私は知っている。

「石を投げればミュージシャンに当たる」石垣島でよく言われる言葉だ。あの美容師さん、警備員さん、昨日会った店員さん、隣村の公民館長さん、今日電話で話した市役所の職員さんまで。

夜になると、ミュージシャンとしてライブハウスのステージに立ちスポットライトを浴びたり、島のイベントでも大勢の観客を前にステージを盛り上げたりする。

ある夜、都内で音楽活動をする友人と島の音楽ライブに出かけた。その日もステージの上では島のミュージシャンがマイクを握り「すいません、仕事が押しました!」「僕こんな店やっています」「仕事場で起きたことなんですけど……」「今日は仕事仲間が見にきてくれています」なんてトークが繰り広げられる。

私にとっては当たり前の光景で、会場も楽しそうにその話を聞いているが、ふと隣を見ると先ほどまで楽しそうにスマートホンのカメラを向けていた友人は涙を流していた。彼女は「ここは理想の世界だよ。」と言った。

彼女は日々、ミュージシャンや音楽家じゃないところにエネルギーや時間を割くことが「本気じゃない」「ステージに立つ資格がない」とされる世界で生きていた。

売上や集客など、職種「ミュージシャン」として評価軸に少しの疲れが出てきていた彼女にとって、好きなことをしながら好きな音楽と向き合い、それを好きな人に届けているという石垣島でのあの時間は、「もっと好きに音楽を楽しんでいいんだよ」と言われたような気持ちになったそう。

「兼業音楽家」や「副業ミュージシャン」という言葉がある。これは、日中や平日は会社員や他の働き方をしつつ音楽家としての一面をもつ人々のことを指す。

この島のミュージシャンたちは、ほとんどがこれに当たる形で音楽活動をしているのだろうが、島の中でこの言葉を聞くことはない。

農家をしながら、公務員をしながら、会社員や自営業をしながらその生活の中で届けたい音楽をつくり届けるという、その形こそがこの島の「ミュージシャン」の形なのだなと思う。

そんなこの島の当たり前を再認識しながら、同級生たちのセッションに体と心を揺らす。今夜も酒がうまい。


岩倉千花(いわくら・ちか)さん
沖縄県石垣島生まれ。大学から島外へ出て芸能マネジメントやまちづくりの会社を経て、26歳で島に戻る。現在は合同会社emptyを設立し、島における働き方や選択肢を広げるということを体現中。最近の悩みはおでこのしわ。

     

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