つくろう、島の未来

2024年11月07日 木曜日

つくろう、島の未来

400島あれば400通りの個性がある島と文化。島で暮らす文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?今回は沖縄最北端の伊平屋島(いへやじま)に暮らす是枝麻紗美さんです。

伊平屋島のウセワチ。渦巻き餅はお祝い行事に欠かせない一品

※この記事は『季刊ritokei』39号(2022年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「お供え行事」

沖縄には先祖を敬う気持ちと行事が数多く残っており、ナイチャー(いわゆる本土出身者)の私からすると、11年住んでいてもまだおどろくことが多い。

例えば、「清明祭(シーミー)」。仕事で名古屋に行く用事ができた時、日程がシーミーと重なっていたため「シーミーが終わってからしか行けない」というと、「仕事より優先される行事って何?」とおどろかれた。「お墓でお弁当を食べるピクニックみたいなもの」と答えると、さらにハテナが増えていた。

シーミーは中国の風習が沖縄に流れつき変化したもので、1年に1度のお墓参り。本土では「お墓では騒がない!」という空気があるところ、沖縄は違うのだ。

私が住む沖縄最北端の島・伊平屋島(いへやじま)にはさらに、本島では薄れつつある「お供え行事」がまだまだ残っており、若い世代にも受け継がれている。

伊平屋島では、シーミーのほかにも、毎月1日と15日(旧暦)、旧正月、彼岸2回、七夕、旧盆、シバサシ、八月十五夜、菊酒、冬至、ムーチー、井戸の拝み、屋敷の拝み、各家の法事などで「ウセワチ」と言われるご馳走をつくり、仏壇にお供えをする。

伊平屋島のウセワチは、渦巻き餅と巻き寿司は島唯一の惣菜屋「海やから千増」へ注文し、魚の唐揚げ、三枚肉と昆布の煮物、エビフライ、厚揚げ、サーターアンダギーなどは手づくりすることが多い。本島や大きい離島ではスーパーやコンビニでも注文できるオードブルが主流になっているが、伊平屋島は昔ながらのスタイル。

ちなみに渦巻き餅は2色のお餅を巻いてつくるもので、うっちん(ウコン)や紅芋、黒糖が練り込まれるところが島独自。2つのものが重なって交わるという意味があるそうで、お祝いには欠かすことができない一品だ。

お供え行事の日は、おばぁひとりのお家でもご馳走であふれかえり、拝みの後はご相伴にあずかることもしばしば。月に数回、口にすることもあるので、いつしか娘のソウルフードとなっている。

先日は、友人のお母さんがうっかりお供え行事を忘れて本島に出かけてしまった。「お供えをして!」と友人に連絡したが、彼らも本島に出掛けて不在。「別日でもいいか」と言いながら、結局、気になって全員で島に帰ってきていた。

沖縄での暮らしは、いつも心のどこかにご先祖様との交信がある。日頃のお礼を伝え、これからのことをお願いする。そんな時間の大切さを感じさせてくれる。私も生まれ故郷である鹿児島に向かって手を合わせる。大事にしていきたい、暮らしに寄り添った島の文化である。


是枝麻紗美(これえだ・あさみ)さん
鹿児島県鹿児島市生まれ。東京でファッション誌のスタイリストを経て沖縄に移住して12年目。現在最北端の伊平屋島に自生植物を使った民具の体験施設とギャラリー《種水土花syumidoka》を主宰
https://syumidoka.theshop.jp/

     

関連する記事

ritokei特集