400島あれば400通りの個性がある島と文化。島で暮らす文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?初回は奄美群島は沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)の編集者・ネルソン水嶋さんです。
※この記事は『季刊ritokei』38号(2022年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
「一重一瓶」
沖永良部島では集落の集まりでよく折(おり)が出ます。仕出し弁当のことで、敬老会とか、会合とかに出る。私はこれ、島に戦前からあった一重一瓶(いちじゅういちびん)という文化が時代とともに変化したものじゃないかとにらんでいます。
一重一瓶は、料理を詰めた重箱とお酒を持って集まる今風に言えば「持ち寄りパーティー」です。玉子焼きや煮豆など、自分の重箱いっぱいに同じものを詰めます。それをみんなで分け合うと立派なお弁当に様変わり。娯楽が少ない時代、畑仕事のあとで浜に集まっての唄や踊りとともに一重一瓶はあったといわれ、飽食の時代以前に考えられた合理的なシステムだったといえるでしょう。
お隣の与論島(よろんじま|鹿児島県)や徳之島(とくのしま|鹿児島県)でも同じ名前で伝わっており、当時の庶民たちの集まりの多さと創意工夫を感じます。しかし、島に生まれて89年目の祖母の話では、「一重一瓶が面倒臭くて参加しない人もいた」とのこと。が、祖母は、こってりとした味付けで豚肉と玉子を“殻ごと”煮てしまう料理の腕前なので、案外自分のことを言っている気がしなくもありません。
そして現代、一重一瓶は以前ほどカジュアルではなくなりました。廃れたから折が生まれたのか、折が生まれたから廃れたのか……。いずれにしろ、島が豊かになり、物々交換から貨幣社会に移り変わり、庶民の選択は「つくる」から「買う」に移っていったのだと想像します。
また島では、オードブルが家族親戚や友人の集まりでよく登場します。全てのおかずを一皿に集めた状態と見れば、一重一瓶と折の間をとったニュースタイル?こぼれ話ですが、コロナ禍で外食が減り、島内の飲食店がさまざまなオードブルを売り出しました。一重一瓶に取って代わった折は、そう遠くないうちにオードブルに取って代わられるかも。島のパーティー料理も戦国時代に突入です。全国、いや海外進出の目すらありそう。まぁ、海外にはすでにポットラックパーティー(あり合わせの料理を持ち寄るパーティー)なる言葉があるんですけども。
しかし!一重一瓶は廃れど、滅びた訳ではありません。集まりなどで「一重一瓶でお越しください」と案内されるなど、復活の動きもあります。使い捨て容器を使わない、エコノミーシェアリングでフードロスを防ぐという点でも、現代的価値観とバッチバチに適っています。
それはそれとして、一重一瓶は、食を通じた交流のきっかけになるところが素敵ですよね。最近は、地元の人と、移住者と、外国人住民も巻き込んで、各々の故郷の味を持ち寄り交流する「世界一重一瓶」をできないかな、なんて企んでいる今日この頃です。
ネルソン水嶋さん
沖永良部島在住。1984年大阪生まれ、母の故郷である島にRターン。ライター、合同会社オトナキ代表、琉球新報通信員、奄美群島南三島経済新聞記者。最近、スパイスカレーにハマりつつある。