つくろう、島の未来

2024年10月03日 木曜日

つくろう、島の未来

400島あれば400通りの個性がある島と文化。島で暮らす文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?今回は今治大島で本と珈琲の店「こりおり舎」を営む千々木涼子さんです。

絶景を眺めると険しい道のりの辛さも吹き飛ぶ

※この記事は『季刊ritokei』41号(2023年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「島四国へんろ」

涼やかな鈴の音を聞くと、今年もお遍路さんがきたな、と思う。

しまなみ海道の端に位置する大島(おおしま|愛媛県今治市)には、200年以上続く島四国遍路の文化がある。四国八十八か所として知られる本四国霊場の縮小版のようなもので、大島を小さな四国に見立て、島のあちらこちらに88の札所が設けられている。適当に番号を振っているのではなく、本四国霊場の道順や土地のありさまを大島の中に落とし込んでいるそう。

島をぐるりと巡る遍路道は起伏もあり険しいが、道中ではしまなみの多島美を望むこともできる。高台の札所まで息を切らしてのぼり、ふと来た道を振り返ると、はっとするような景色が広がっていることもある。

山の中の遍路道に現れる「この先は何番」「この道を進め」という先人たちからの道標も心強く、「あと少し」などといった励ましの言葉があるのも微笑ましい。

毎年4月の第3土曜日から3日間は、へんろ市の縁日が催される。しまなみ海道がつながる以前は、何百人ものお遍路さんが船で渡ってきたという。昔に比べると数が減っているそうだが、今も多くの巡礼者が島を訪れる。徒歩だと丸3日かかる道のりを、車で1日でまわる人もいれば、白装束に身を包み、3日間かけて歩く人もいる。

まわってみると分かるのだが、階段や山道、細い道が多い遍路道は、実は徒歩でまわるのが一番効率的だ。そして、歩くからこそ、気持ちのいい春の島風を肌に感じることも、息をのむような景色に出会うこともできる。知っているはずの島が、いつもとは異なる表情を見せてくれることもある。

この3日間は、島の人たちも大忙し。

日頃から、集落で管理をしている札所は地域の人の手で大切に掃除され、日々のお供えを欠かさないところも多い。それに加え、へんろ市の前には札所や遍路道の草を刈り、掃除をし、旗を立て、当日にはお茶やおにぎり、お菓子などを用意してお接待をする。訪れる人の中には、こうしたお接待や島の人とのコミュニケーションを楽しみにしている人も多い。

島の人も「準備が大変」といいながら、お遍路さんのために心を配る姿は生き生きとしていて、札所を自分たちで守り、そこにお遍路さんをお迎えするのだ、という思いの熱を感じる。

巡礼の意味だけでなく、島四国遍路を通しての人との出会いや、札所やへんろ市に向き合うことで生まれる張り合いが、お遍路さんにとっても島の人たちにとっても大きな意味をもつのだと思う。

これからも続いてほしいと願う島の文化のひとつだ。


千々木涼子(ちぢき・りょうこ)さん
北海道函館市生まれ。2017年、愛媛県今治市の大島に移住。地域おこし協力隊を経て、県の移住促進に携わりながら、珈琲焙煎士の夫と、本と珈琲の店「こりおり舎」を運営している。昨年から泊まれる本屋として宿も始めた。
http://www.corioliscoffee.com/

     

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