400島あれば400通りの個性がある島と文化。島に関わる文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?今回は、島酒をこよなく愛すリトケイ編集部の石原みどりが、 2024年にGI認定を受けた 「東京島酒」についてお届けします。
※この記事は『季刊ritokei』48号(2025年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
東京島酒の功労者・丹宗庄右衛門を顕彰する「島酒の碑」(八丈島)
流人が伝え、島人の手で育まれた「東京島酒」
東京の南、黒潮の流れる海に連なる火山島の島々、伊豆諸島。その焼酎造りは、江戸末期の嘉永6(1853)年に、薩摩藩による密貿易の罪を負って流された阿久根(あくね)出身の流人・丹宗庄右衛門(たんそう・しょうえもん)が、はるばる地元より蒸留器の甑(こしき)を取り寄せ、島民に芋焼酎の造り方を教えたのが起源とされています。
さかのぼること江戸時代のはじめに、琉球経由で日本にサツマイモが伝わり、たびかさなる飢饉をうれいた江戸幕府の第8代将軍・徳川吉宗がサツマイモに着目。儒学者・青木昆陽(あおき・こんよう)にまとめさせた『薩藷考』と種芋を伊豆諸島に配布し、救荒作物として栽培を奨励していました。
こうして島々に根付いたサツマイモを使い、流人がもたらした技術を取り入れたことで、本場・九州から遠く離れた伊豆諸島で焼酎造りの文化が生まれ、島人の手により受け継がれてきました。
伊豆諸島では、火山島の地質ゆえ水田に適した土地が少なく、伝統的に麦や栗などが栽培されてきたことから、麦を麹に使う焼酎造りが主流となりました。麦麹に由来する香ばしい香りや草木のような清涼感は、明日葉や伝統食の「くさや」など強い風味を持つ食材とも相性が良く、郷土食と一体となって今も伊豆諸島の食文化を彩っています。
芋焼酎・麦焼酎・芋麦ブレンド焼酎があり、個性豊かな味わいを楽しむことができますが、なかでも青ヶ島の芋焼酎「あおちゅう」は、麹も酵母も野生の菌だけで焼酎を仕込むという世界的にみても貴重な製法で造られており、青ヶ島に行った人だけが味わえる島内限定60度の「初垂れ(はなたれ)」は、香りがいっそう濃く鮮烈な味わいです。
このような歴史や製法の独自性が評価され、2024年には「東京島酒」が世界貿易機関(WTO)の協定に基づき、正しい産地で一定の基準を満たして生産されたことを示すGI(地理的表示)認定を受け、海を渡る世界ブランドとしての一歩を踏み出しました。
本格焼酎・泡盛としては、壱岐島の「壱岐焼酎」や沖縄の「琉球泡盛」などに続き、国内5件目のGI認定です。これを機に、日本の島々で醸されるさまざまな島酒に注目が集まるよう、私もイベントや記事の執筆などで島酒の魅力を伝えていきたいと思っています。
要注目の「東京島酒」のほかにも、東京の島々には伊豆諸島・小笠原を合わせて10社以上の酒蔵があり、焼酎をはじめ、リキュール、ラム酒、クラフトビールなどをたのしむことができます。東京の島を訪れた際は、ぜひ島の歴史を感じながら味わってみてください。
石原みどり(いしはら・みどり)
島酒の語り部。著書に『くじらとくっかるの島めぐりあまみの甘みあまみの香り 奄美大島 喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島と黒糖焼酎をつくる全25蔵の話』 (西日本出版社)
東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。