つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

今年8月、播磨灘に浮かぶ人口約30人の男鹿島(たんがしま|兵庫県姫路市)で、約30年振りに島の盆踊りが復活した。企画したのは「男鹿島うみのいえプロジェクト」のメンバーら約10名。当日、会場となった浜辺では島内外からの参加者約80人がにぎやかな音色に合わせて輪を作った。

男鹿島

※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。

きっかけは1枚の手ぬぐい

男鹿島うみのいえプロジェクトは、隣島である家島の住民をはじめ、島外から通うメンバーらで構成され、男鹿島で使われなくなった民宿を海の家として改修しながら、男鹿島住民とも交流を続けてきた。

盆踊り復活のきっかけは5年ほど前にさかのぼる。同プロジェクト代表で家島に暮らす中西和也さんらが、男鹿島で空き家改修作業を行なっていた時、「盆踊り」と印字された1枚の手ぬぐいを見つけた。

手ぬぐいを島の人々に見せたところ、30年ほど前まで、毎年夏季に盆踊りを開催していたが、人口減少のため廃止されたことが判明した。盆踊りが開催されていた当時、男鹿島の住民は数百人規模だったという。「盆踊りについて話す島の人々の表情から、楽しかった思い出を懐かしむ様子が伝わってきました」と中西さん。

一方、他のメンバーも浜の掃除などを通じて島の住民らと交流を深めており、海の家に魚を差し入れてくれるなど、親交を深めていた。そこに幻の盆踊りの話題が舞い込み、「島の人たち自分たちが一緒に楽しめるイベントを開催したい!」と盆踊りの復活計画が動きはじめた。

いざ、盆踊りを復活させようと考えたものの、当時の音源や写真などは残っていなかった。そんな中、家島(いえしま|兵庫県姫路市)の「家島音頭」が話題に上る。

家島音頭は家島でも踊られなくなっていたが、その明るくにぎやかな雰囲気から「男鹿島の盆踊りで使用しよう」とメンバー。新たに振り付けが創作された。

台風に大雨…天候に左右され、実現までに3年

盆踊り開催の資金はクラウドファンディングで集めたが、予定していた2017年は台風で中止となり、2018年も集中豪雨により涙をのむ事態に。3年後の2019年にようやく開催へこぎつけた。

「3年の間、実現させるためのモチベーションを保ち続けるのは、正直大変でした」と語るのは、プロジェクトの中心メンバーの一人、清水重利さんだ。

「人が集まるか」「また天気が悪くなったら」と気を揉みながらも2年延期され、3年目の当日を迎えた。

盆踊りの宣伝は、男鹿島では老人会に協力を仰ぎ、島の住民にチラシを配布。プロジェクトメンバーがそれぞれSNSで情報を発信するなど、島外にも告知された。

そして迎えた盆踊り当日。島の住民はこの日を心待ちにしていた様子で、当日の朝には「一緒に浜掃除をしよう」と意気込み、会場近くに住む80代の男性は、盆踊り前日から盆踊りオリジナルTシャツを身に着け、洗濯のために当日、着ることができなかったというエピソードまで生まれていた。

真っ赤に染まった夕焼けのなか30年振りの盆踊りが復活

夕焼けが空と海を染める頃、盆踊り会場となった浜には、島内外から集まった約80人もの人の姿があった。

浜辺での開催は清水さんの提案。「男鹿島の盆踊りの復活にあたって、10日間ほどかけていくつかの離島の祭りを見に行きました。その中で、岡山県の白石島(しらいしじま|笠岡市)が浜辺で盆踊りをしており男鹿島でも取り入れました」。

普段の倍以上の人が集うなかスタートした盆踊りは、島の住民によるカラオケ大会に始まり、家島音頭に東京音頭、炭坑節、生歌と太鼓で「くどき」など、1時間ほど賑わい続けた。

今年復活した盆踊りは今現在、来年以降の開催は未定となっている。メンバーらにとっては、3年越しの計画が実現し、今はひと段落した、という気持ちのほうが大きいようだ。

清水さんは「これからも男鹿島の人々とプロジェクトメンバーが気負わず、無理なく交流を続けていくために、自分たちが島を楽しみ『面白いことやっているな』と感じてもらえるような活動がしたいです。それは盆踊りでも、他の方法でもいいですし、ノウハウを持つ我々が協力して、今度は自分たち以外の人間が計画するのも良いのでは、と思っています」と語った。

人口約30人の島で3年越しに行われた30年ぶりの盆踊りでは、「何より島の人たちも喜んでくれたこと」でプロジェクトメンバーは胸をなでおろしたが、この流れのなか、毎年行われている家島の盆踊りで2017年から「家島音頭」が復活している。

消滅した島の文化は、島を楽しもうとする人々の間から復活するものなのかもしれない。(取材・上島妙子)

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特集|島にみる再生復活という希望

台風、噴火、地震、津波、人口減少、人口流出、産業衰退に学校の統廃合etc……。自然の猛威や社会変化により、昨日まであったものが無くなることもあれば、じわじわと姿を消すこともあります。自然災害の多い日本列島では毎年のように台風や豪雨、地震などの被害が起き、地域を支える人口減少にも歯止めはかかりません。 島から無くなろうとしているもの、あるいは無くなってしまったものの中には、人々の生活やつながり、心を支えていたものも含まれます。失ったものが大事であるほど、心に大きな穴があき、寂しさや悲しさ、無力さがその穴を広げてしまいます。 とはいえ、絶望もあれば、希望もある。有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』30号と連動する「島にみる再生復活という希望」特集で、島々で実際に起きている希望に目を向けてみませんか?

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